1985/3
No.8
1. いろいろな雛型 2. INTER NOISE 84 3. INTER NOISE84 音響インテンシティについて 4. INTER NOISE84 低周波音

5. INTER NOISE84 航空機騒音

6. パイナップル・レイン

7. 低周波音の実態について 8. 防滴型補聴器について 9.振動の基準について
       <技術報告>
 防滴型補聴器について

リオン樺ョ能技術部 成 沢 良 幸

1. はじめに
 難聴者にとって、補聴器は聴覚器官の一部として、常に身体に装用して生活できることが望まれます。ところが、スポーツで多量の汗をかく場合、入浴、洗顔、突然の雨等で補聴器が汗や水に濡れる危険のある場合には、保護のために身体からはずさなくてはなりませんでした。  そこで、これらの環境下でも安心して使用できる防滴タイプの耳かけ式補聴器HB-35が開発されましたので紹介します。

写真1 HB-35 外環

2. 全体構造
 図1に全体の分解組立図を示します。大きく3つのブロックに分けられます。すなわち、イヤホン、マイクを収めた本体ブロック、スイッチやボリウム等の操作部と、アンプ、電池接片等を収めた操作ブロック、電池を収めた電池ブロックで構成され、それぞれのブロックは防水ゴムパッキンを介して結合されます。
図1 分解組立図

 本体ブロックと操作ブロックとの結合部は、開口部が大きく、形状も複雑な曲面の連続で、パッキンの均一な圧縮率と、それを維持する十分な曲げ剛性がケースに要求されます。なおかつ、その圧縮負荷を与える締付け用のネジは、最小の本数にしなければなりません。ネジがふえると負荷を均一にすることができますが、その穴をさらにシールしなくてはならないからです。一般にプラスチックの強度は、金属と異なり、クリープ現象に基づく負荷時間による弾性係数の低下が大きく、フックの法則が成立する比例部分がほとんどありません。したがって、パッキンの締付け負荷に対するケースのたわみ量とその経時変化を予測し、その補正を形状的に与えてあります。
 本体ブロックと電池ホルダの結合部は、使用者が電池交換をするため、誰でも操作できる構造で防水を維持しなくてはなりません。そのため、大きめの固定レバーの回転で確実なパッキン圧縮率を維持するようになっています。

3. 操作部
 スイッチとボリウム部は、常に操作する可動部であるため、最も汗や水の侵入しやすい部分です。そのため部品本体は、完全にケース内に収め、回転操作のための軸のみを外部に出し、それぞれ大小2つのOリングでシールする構造をとりました。スイッチ部の分解図を図2に示します。
図2 スイッチ部分解図

4. マイク部(音は通して水は通さない)
 マイク音口部では、音は通して水は通さない防水ネットを開発しました。ネット素材は4弗化エチレンの小孔径連続多孔質体で、強度の非親水性を有しているため、毛管現象がありません。この素材で試作を繰返し、音の透過損失2dB以下(5kHz)、耐水圧0.5気圧以上の交換可能な防水ネットが開発できました。さらにその内側の音口ノズルに小孔径の防水チップをつけ、マイクを二重に保護しています。

5. 防水性能
 表1にJISの防水試験通則を示します。HB-35は、防滴II型の性能を保障します。実質性能としては、保護等級7の防侵型(水深1mに30分)もクリアし、水深1mで連続1週間でも異常なしの試験結果が出ています。
表1 JIS防水試験通則(C 0920)抜粋
 
写真2 防水試験

6. 音響性能
 表2に性能仕様を、図3に規準周波数レスポンスを示します。適応難聴度は、聴力レベル30〜70dBの軽、中等度です。図3のように、従来よりも実耳のオープンイヤゲインに近い周波数特性を実現しています。また音質調壁の範囲が広いことも大きな特長で、より多くの聴力型に適応できます。
図3 基準周波数レスポンス
 
表2 HB-35の主な性能

7. おわりに
 世界初の防滴型補聴器として内外の反響を呼びましたが、腕時計の防水が急速に常識化したように、補聴器の防水を常識化するには、まだ多くの難題が残されています。これらをより早く解決し、多くの難聴者が気軽に、安心して使える補聴器を開発して行かなくてはなりません。

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