1985/3
No.8
1. いろいろな雛型 2. INTER NOISE 84 3. INTER NOISE84 音響インテンシティについて 4. INTER NOISE84 低周波音

5. INTER NOISE84 航空機騒音

6. パイナップル・レイン

7. 低周波音の実態について 8. 防滴型補聴器について 9.振動の基準について
       <会議報告> INTER NOISE84(国際騒音制御工学会)
 航空機騒音

1. はしがき
 航空機騒音に関する論文は19編が空港内及び空港周辺の騒音対策に関するもので、1編が旧型機の改修についてである。米国が8編、西ドイツが6編、英国と日本がそれぞれ2編ほかにシンガポール及び香港(但し発表は米国人)が1編づつである。次に国別に報告の概要を述べる。

2. 米国
 Eldred:空港周辺の騒音問題は、技術革新によって最近非常に軽減されたが、今後の課題としてFAAのAirport compatibility planning programによってさらに改善されなければならない。飛行コースの適切な設定、優先滑走路方式の採用および騒音レベルの大きな航空機の撤退、(騒音証明におけるstage2、及びstage3に適合する航空機への変換、できれば早い機会にstage3に適合していない航空機の撤退)が望ましいとしている。
 Bragdon:土地利用について、基本的にはFAAの前述の資料及び国防省のUS Army Installation Compatibility Use Zone Planningによって進められるべきであるとし、全国520の飛行場のうち、198飛行場をサンプルして飛行場周辺対策の実態を調査している。(stage2:ICA0 1972年基準、stage3:ICAO 1978年基準に相当)Mestreはサンタモニカ飛行場における1919年以来の騒音問題の歴史について述べている。その間、市のとった航空機騒音の規制、それに対するサンタモニカ空港協会、パイロットと空港支持者の裁判への提訴、裁判所は騒音規制は認めたが空港の撤去については却下した。現在はサンタモニカ市と空港は友好的に協議することになり、FAA、市、航空機製造会社、市民団体が協力して空港運営についての騒音の規制を作成している。
 M.A.Garbell:米国環境庁、都市住宅局、カリフォルニア州政府は、Ldn、65dB以下の地域は一般に受入れられるべき環境であるとしている。Ldn〜70dBまでについては適当な遮音が必要で、住宅防音はLdn〜75dBまでは有効であるが、75dB以上についてはしかるべき機関による土地の買上げが必要である。このような地域は空港から2〜3マイルの範囲で離陸機の飛行コースと密接な関係にある。直線離陸の場合は騒音の著しい地域が狭い範囲になるが、これらの影響を軽減するためには飛行コースを分散する方法がある。この論文では、パームビーチ国際空港を例に、飛行コースを分散(Fanning-out)することの優劣を論じている。(注:Ldn、65dBはWECPNL 78に相当)
 Greve:カリフォルニアのオレンジ郡の南部は、軍のジェット基地ヘリコプター基地、民間空港があり、かつロスアンジェルスとサンジェゴを結ぶ鉄道が通過する地域である。1980年、当局はこれらの騒音源から発生する音から住民を保護するため、新しく建設される住宅に対する室内騒音基準を作成することになった。室内の騒音レベルの基準は既に用いられているLdn〜45dB(A)とするが、新しくLmax30を採用することについて検討を始めた。
 Lmax30は1日の中の騒音事象のうち、最大レベルの30%についてエネルギー平均をとったレベルである。
 航空機についてはLmax30 65dB(A)、鉄道については55dB(A)とするものである。Lmax30は航空機については、飛行場に近い地域については過大評価であり、また鉄道についてもLmax30 55dB(A)は室内基準、Ldn、45dB(A)とすると極めてきびしい基準となる。このような基準を建築の目標にすることは防音工事の点からも極めて困難であると同時に、Lmax30を予測することはほとんど不可能に近い。したがってLdnに代る評価量を導入するについては更に十分な検討が必要である。
 J.P.Muldoonは、ケネディ、ニューワーク、ラガーディアの3空港の騒音対策について報告した。1982年からは、騒音証明のない航空機は一定のパーセント以上の運航を制限し、夜間については証明のある航空機に限る措置がとられるようになった。さらにレーダーによる飛行コースの監視を行い騒音の影響を受ける地域を避ける運航方式をとっている。
 レーダーと飛行記録との照合によって航空機の識別を行い、指定されたゲートを通過するようにするもので、完成されたシステムをケネディ空港に設置することになり、来年(1985)夏から建設にかかり、約1年で完成する予定である。
 R.E.Brown and J.Buntanの論文は、カリフォルニア、フレスノ基地においてF106をF4Dに変更にすることによる騒音影響の変化に関するものである。F106をF4Dに変更することによって、CNELは2〜3dB増加することが判明した。(CNELはLdnに相当)
 Alan H.Marsh & W.H.Chann:B-707、DC-8のエンジン騒音の軽減についての実験結果である。FAAは米国の航空機については、1985年1月1日以降騒音証明のstage2に適合する必要があるとし、外国の航空機についても後日ICAO chap.2(1970年制定、FAA stage2に相当)に適合するよう法が適用されることになっている。
 Pratt & Whitneyのターボファンを装着したB-707とDC-8は未だstage2に適合していない。(離陸重量151,321s、244mの高度で113dB、着陸は120mの高度で120dBである。いずれも騒音証明地点)ここではAviation Technical Supportが開発したJT3Dエンジンのエンジン(ナセル)の設計と開発について述べている。1984年、この設計によるB-707の飛行テストの結果、ほぼstage2を満足する結果が得られた。

3. 西ドイツ
 U.Isermann、K.Matschat and E.A.Mueller:西ドイツの航空機騒音対策法では、空港及び軍用飛行場について、次の式によってコンターをつくり騒音ゾーンを指定することになっている。
    LEQ=k log〔(1/T)Σ10L/kti gi
      N:運航回数    k:13.3
      ti:10dB以下になる時間(sec)
      gi:日中は1(6〜22)夜間は5(22〜6)
 いくつかの空港の結果では近似的に
   Ldn=LEQ+2-3.7log(n/300)となる。
 この論文では、特に空港周辺について離陸における騒音が騒音コンターにどのように関係するかについて述べている。
 L.G.S.Prangは西ドイツにおける都市計画の中の空港問題について概要を述べている。西ドイツには、11の民間空港と150の小飛行場があるが、人口が非常にちょう密で空港の新しい設置も拡張も非常に困難になっている。国の法律は1971に施行され、ゾーン1(LEQ〜75dB以上:Ldn、77dB以上)、ゾーン2(LEQ〜67dB以上:Ldn、69dB以上)としている。これらのゾーンにおいては病院、学校などの建設は禁止され、ゾーン2では住宅の建設は認められる。例外として1971年以前から存在するゾーン1の住宅建設については、1sqm当りDM130(マルク)の補助金が支払われる。ハンブルク、フランクフルト、ジュッセルドルフ空港においては、空港の移転、滑走路の拡張などが環境影響のために実施が不可能になっている。今ドイツにおける2つの村が航空機騒音の影響のために全村が移転の対象になっている。調査の結果、ほぼ村の全域がゾーン1の範囲にあり、1978年に新しい村の建設が始まり、1979年から移転が始っている。V.Nitshe:西ドイツにおいては、1960〜1970年の間に全国の空港において航空機騒音のモニターが行われたが、その後離着陸における騒音が格段に小さくなるにつれて、空港周辺において地上滑走や逆噴射に伴う騒音が大きな問題になってきた。1980年になって、空港当局は新しい騒音の識別装置を開発した。
 この装置は継続時間5〜140秒、また測定最低レベル(閾値)を70〜79dBAとし適当な時間窓を設けることと、飛行記録との照合を自動的に行う方式である。計測の結果、空港から2q離れた地点における騒音は、B-747、A-300、DC-10、DC-9-80、L-1011の新世代の航空機がB-727、B-737、BAC-11、Tupolev、及びDC-9-80以外のDC-9といった旧世代の航空機にくらべて約10dB騒音が小さいことがわかった。したがって今後の航空機騒音対策として騒音証明に合格した新世代の航空機に変換することが重要であるといえる。
 W.Herzing:ミュンヘン空港における空港内の騒音対策に関するもので、地上勤務者がイヤプロテクターをつけること、エンジンテストについては防音フェンスを設置すること、空港ビルの窓の遮音などの対策である。最も効果のあるのは、APU(補助動力機器)について内燃機関によるピストン圧縮機を用いたエンジン始動車をバッテリー駆動の固定設備に変更することと、タクシィングにおいてできるだけ少数のエンジンを使用することである。
 Thomas J.Mayer:航空機のランアップのような地上航空機騒音軽減の可能性に関するもので、地上の航空機騒音は温度、風などの気象の影響を受けるので問題となる地域の位置、航空機の機種、時間帯を考慮して適当な遮蔽方法を講ずる必要がある。
 Bschorr R.Woelk and H.Melzer:飛行中の航空機の位置にしたがって音源を30m、毎に区切り、受音における騒音を予測する計算機プログラムを開発した。これによって音源の指向性、気象の影響、とくに風、温度による音線の曲りを考慮することができる。

4. 英国
 M.E.House and G.H.Valkan(ISVR)は最近開発されたSTOL機に関する騒音軽減の可能性について述べた。VTOL機を民間空港に使用する構想が価格と騒音の点から中止になって以来約10年になるが、最近50座席をもつ4発ターボプロップSTOL機、DHC-7が開発されたことによってSTOL機の関心が高まってきた。DHC-7は7度の着陸角度で進入し、同種のCTOL機に比べて90PNdBフットプリントで着陸について25%、離陸については15%の面積に縮小することが分った。ただ横方向についてはやや縮小するが余り差はない。英国で使用されているNNIによって、STOL機が運用される空港の騒音について検討がなされている。
 J.B.Large(JSVR)は空港における航空機のタクシィングと補助動力機器の運転に伴う騒音の推定方法について報告した。空港周辺1000mの地域について地面が平坦な場合について、Walter等(Inter-Noise83.倍距離11dB)の地上伝搬の減衰に関する調査結果、途中に高架道路、遮音壁がある場合については、R.B.Tatge. (JASA Vol.53、p.1317)の報告を基礎に計算を行っている。

5. シンガポール、ホンコン
 R.B.W.Heng:シンガポールでは、旧空港のPaya Lebraが限界になったので、新しくChangi空港が計画され1981年から使用されている。(1975年から建設にかかり15億ドルの経費をかけている。)平行した2本の滑走路が1.6q離れて設置されていて亜音速及び超音速航空機の発着が可能である。ここでは主として空港ビルの設計について述べている。Richard E.Burke. (USA)は新しいホンコン空港の騒音アセスメントについて報告した。現在のホンコン空港に代って複数の滑走路を持ち24時間運用できる新しい空港を建設することになり、騒音が周辺の環境に影響のない計画が作成された。
 この新しい空港はホンコンのダウンタウンから30qの2つの島の間に計画された。しかし現在政治的経済的理由によってこの計画は懸案となっている。

6. 日本
 T.Abe etl. (神戸製鋼)はF-14ジェット戦闘機の防音試運転場から発生する超低周波音対策として、1/20のモデルによる実験の結果とFEM(有限要素法)による計算の結果から、9Hzに共鳴のあることが分ったので、整流格子、穴開け板、サイドブランチ、吸音材を用いた場合等を比較検討した。その結果、整流格子が最も効果のあることが分り実物試験を行った。I.Yamada etl. (小林理研)は大阪空港に最近設置されたモニタリングシステムについて全体構成、航空機識別及び航空機の位置検出方式、ジェット、プロペラ機の識別機能等について述べた。                   

 (文責 五十嵐寿一)

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