1985/6
No.9
1. 21世紀への序走

2. 低周波領域におけるマスキングについて

3. ダンピング試験について  4. 鼻の呼吸障害と疾患の診断について 5. 米国の音響に関する規格(ANSI)
        
 21世紀への序走

所 長 山 下 充 康

 昭和15年に創設された小林理学研究所は今年で45年になります。早いもので、私がこの研究所に勤めてから20年が過ぎ去りました。大学と大学院の卒業研究をさせていただいていた研究生の期間を含めると、かれこれ四分の一世紀を過ごしてきたことになります。このたび、4月から研究所の所長に就任いたしましたので、小林理研ニュースの紙面を借りて、ここに御挨拶を申し上げる次第でございます。

 所長という重責に就いて思うのは、先輩の方々によって戦前、戦後を通じてこの研究所で培われてきた理工学の分野における多くの業績の偉大さです。それらは、今日の小林理研の活動を支える堅固な礎となっています。特に音響学については、日本音響学会の佐藤論文賞でおなじみの佐藤孝二先生が研究所の創設者であることもあって、当該分野において先進的な役割を果たしてきました。これらが私どもの大きな誇りでありますが、その一方では、後継者として身の引き締まる思いがいたします。

 環境の保全が社会的な重要課題の一つとして注目を浴びている現在、騒音、振動、低周波音などの研究が私どもの主要な活動になっていますが、それができるのも音響学に関して蓄積されてきた豊富な研究成果と育成された専門知識があってのことであります。それらの環境要素と生活との係わりはますます多様化し、複雑化する傾向にあります。これからは、理工学的な視点からの研究だけではなく、人間との係わりの中でこれらの特性を究明していくことが必要になってくることでしょう。それには、従来にも増して広い範囲におよぶ研究対応が望まれ、一つの課題を多角的な観点から究明しなければなりません。特定分野の研究に従事していると、物事を深く追求する意識にとらわれるあまり、とかく狭い視野での対応にとどまりがちになります。個人的判断ではなく、複数の頭脳がお互いに意見を交換し、研究組織として問題の解決にあたることの大切な意味がそこにあります。

 小林理研は、総勢40名に満たない小規模の研究機関です。研究者のみならずここに働く従業員の一人ひとりが小林理研ならではの、個性と能力を持っています。各人が、自分自身の特質を忌憚なく発揮し、なおかつ研究所の全体的な均衝を損なうことなく効率的に、機能するような状況をいかに実現し、維持するかが最も大切な使命であろうと考えます。

 45年間に育成されてきた小林理研の実績が、今、私どもの世代に委ねられ、21世紀への序走が始まりました。後輩たちが、現在の私たちが先輩の業績に畏敬の念を抱くのと同じように、私たちのこの時代を振り返ってもらえるよう頑張りたいものです。

 所長に就任したとはいえ、まだまだ学ぶべき沢山の勉強が残っている未熟者でございます。幸いなことに私の周囲には所内、所外の多方面に師と仰くべき優れた方がたが居て下さいます。皆様の教えを受けながら、小林理研の健全な運営に専心努力する決意でございますので、宣しく御指導のほどお願い申し上げます。

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