1985/3
No.8
1. いろいろな雛型 2. INTER NOISE 84 3. INTER NOISE84 音響インテンシティについて 4. INTER NOISE84 低周波音

5. INTER NOISE84 航空機騒音

6. パイナップル・レイン

7. 低周波音の実態について 8. 防滴型補聴器について 9.振動の基準について

〔会議の概要〕
会議は6会場に分かれ3日間行なわれ、米国94編、日本84編その他120編が25ヶ国からの参加者によって発表されました。この中で発表件数の多かった音響インテンシティ、低周波音、振動、航空機騒音の分野についてその概要をまとめました。

       <会議報告> INTER NOISE84(国際騒音制御工学会)
 音響インテンシティについて

 今回の会議では音響インテンシティに関する発表がおよそ40件あった。その中には計測誤差や規格に関する発表が数多くあり、音響インテンシティ計測が音響測定の有効な手法として幅広く応用されるようになってきたことがわかる。音響インテンシティは単位時間当たりに単位面積を通して流れる音のエネルギー(音響パワー)を表わすベクトル量で音圧と粒子速度の積で与えられる。その測定方法としては、近接した2点の音圧信号から推定する方法(Tow microphone method)が今回の研究発表においても多く用いられているが、音波の粒子速度の測定を超音波を利用して行なう新しい方法についての発表(ノルウェーのS.A.Nordby)もあった。

 音響インテンシティがもてはやされる理由は多数の機械が同時に稼働しているような、条件の悪い現場環境においても有効な測定を行なうことが可能な点にあると考えられる。しかし、実際の現場環境では周囲からの反射や残響によって、おおかれ少なかれ音場が拡散的であったり、定在波が生じていたりする。また、観測点が音源に近いために、音場を近接音場(near-field)として取り扱わなければならないこともたまにある。このような場合には、音場のリアクティビティ(reactivity)の影響を考慮することが不可欠である。音場がリアクティブであるとは、音圧と粒子速度の位相が90°ズレていて音のエネルギーが波動とともに流れて行かず場に留まるような状態にあることを意味する。

 リアクティブな環境の中で音響インテンシティを推定する場合に測定値にどの程度の誤差が生じるかを定量的に取り扱った発表が何件かあったが、いずれも、実際に単位時間当たりに流れる音響パワーを表わす、アクティブ・インテンシティ(Active sound intensity)の測定誤差に関するものである。たとえば、デンマーク(B&K)のS.Gadeは、測定系のダイナミックレンジ(2本のマイクロホンの間の位相差によって決まる)と音場のリアクティビティを定義して誤差を論じているし、西独のG.Hubnerは機械の音響パワー測定方法としての観点から、同様なやり方で測定誤差について詳しく検討した結果を発表している。

 しかしながら、音場がリアクティブな場合にはアクティブ・インテンシティだけでは音場の性質を記述するのに不足である。フィンランドのK.Pesonenの指摘によれば、音場がリアクティブだとインテンシティの場は回転的になる(すなわち、自由音場ではインテンシティのベクトルの向きは音源から放射状に直線的であるが、リアクティブな場合にはベクトルの向きが場所によって変わる)が、このような場合に音場の様子を正しく推定するには、インテンシティ測定の空間的および周波数的な分解能を十分良くするのが不可欠である。

 フランスのJ.C.Pascal、米国のJ.Tichy等はリアクティブな音場の性質を調べるために、アクティブ・インテンシティの他に、リアクティブ・インテンシティ、ポテンシャル・エネルギー、運動エネルギーの概念を取り入れて、インテンシティ・ベクトル場の回転(Curl)と発散(divergence)について考察している。リアクティブ・インテンシティはインテンシティを複素形式で定義した時の虚数部で与えられる量で、音圧と粒子速度の位相が互いに直交する成分の音の強さを表わすものである。なお、実数部はアクティブ・インテンシティであり、音圧と粒子速度の位相が同相である成分の音の強さを表わす。一方、音場のポテンシャル・エネルギーおよび運動エネルギーは音波によって生じる場のエネルギー量であり、それぞれ、音圧と粒子速度の二乗に比例する。ポテンシャル・エネルギーと運動エネルギーの和は音場の持つ全エネルギーになる。彼らの考察結果を簡単にまとめると次の通りである。まず、音源間の干渉や反射があるとアクティブ・インテンシティは回転的になるが、これは音響パワーの放射に寄与しない。寄与するのは非回転な成分のみである。リアクティブ・インテンシティは音源自身のリアクティビティから生じるが、音場のポテンシャルエネルギーと運動エネルギーの差によっても生じる。

 J.Tichy等は、これらの物理量がいずれも通常のインテンシティ測定で用いる、近接した2点の音圧信号のパワースペクトルとクロススペクトルで表わされる(たとえば、リアクティブ・インテンシティは2点のパワースペクトルの差として表わされるし、ポテンシャル・エネルギーは2点のパワースペクトルとクロススペクトルの実数部の和で表わされる)量であり、それ故、通常のインテンシティの測定システムに若干の追加をするだけで音場に関するより多くの有用な情報が得られることを強調している。 

  (文責 山田一郎)

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