1985/3
No.8
1. いろいろな雛型 2. INTER NOISE 84 3. INTER NOISE84 音響インテンシティについて 4. INTER NOISE84 低周波音

5. INTER NOISE84 航空機騒音

6. パイナップル・レイン

7. 低周波音の実態について 8. 防滴型補聴器について 9.振動の基準について
       <会議報告> INTER NOISE84(国際騒音制御工学会)
 低周波音、振動

1. 低周波音
 2日目の午前に、6件の発表が組まれていたが、この中5件は日本で、且つ3件は小林理研の発表であった。低周波音域の対策手法、調査結果などについては、他のセッションで発表されており、低周波音の物理現象に関連した主題で取りまとめるならば、全部をとりまとめ、午前午後を通しての配列が望ましかった。
 このセッションでは、低周波音評価がメインテーマで、前原らの動物実験以外は、人間の感覚や生理影響に関する発表であった。発表者が日本に片寄った割には、日本以外の参加者も多く、約40名程集まった。
 日本からの発表は、山田(山梨大)山崎(戸板女子短大〈時田発表〉)のものは、日本の音響学会で既発表のもので、落合(小林理研)は生活環境低周波音の中で、戸窓のガタつきが重要な評価事項であることを指摘し、時田(小林理研)は、以前から主張している低周波音評価の周波数特性LSLの妥当性を聴感実験結果とともに発表した。
 H.Mφllerは、デンマークで以前から精力的に低周波音の聴感評価をやっている研究者で、今回は低周波音と可聴騒音との複合音についてアノイアンスの調査結果を発表した。アノイアンスはラウドネス感覚と一致するという説を裏づけた結果を得ており、1/3オクターブバンドの評価値も、純音のものと一致している。これらのことは、我々が得ている実験結果とも合致する。この結果は、ISOのG1特性の傾斜(-12dB/oct)とも一致し、傾斜の意味づけができると主張してる。

2. ISO DIS 7196を考える集会
 Infrasoundの記述方法、すなわち、Infrasoundを評価する時の周波数特性や時定数についてのISO(国際標準化機構)の提案がDIS 7196として配布され、賛否の投票が要求されている。日本は意見をつけて反対した。出発前から、ハワイにはいろいろな研究者が集まるであろうから、各国の方々の意見も聞ける場を作ったらという考えをこのセッションのオーガナイザーである山田氏(山梨大)に提案していた。
 2日の夜に、P.V.Bruel、D.Johnson等に会ったので、4日のこのセッションの終了後に集会を持つことを提案したところ、快諾を得た。参加者はBruel(デンマーク)、Johnson(米)、Mφller(デンマーク)、Sandberg(スエーデン)、Young(米)ほか外人が2名、日本からは長田(公衆衛生院)、山田(山梨大)、時田、落合、木村(小林理研)らが参加した。司会をMφllerに頼んであったが、Bruelにバトンタッチしてしまったために、Bruelの一人舞台となり、皆は専ら聞き役に廻ってしまった。午後の行事が迫っていたため、45分間位しか話し合えなかったが、主な内容は次のようなものであった。

[1]
  周波数範囲をInfrasoundに限定することについて、Mφller、Tokita、Leventhal(英不参加)などが以前から可聴音域も含めることの重要性を主張していたが、Bruelの説明では可聴音を含めるとA特性評価領域に入るので、行政的な困難が生ずるとの事(同様のことは、我が国でも論議されている。)
[2]
  -12dB/octのG1特性と、-6dB/octのG2特性が提案されているけれども、-12dB/octは科学的根拠があるから支持するとの意見に対しては、Youngは首をかしげていた。出席者の中では、G2を支持する空気はあまり感じられなかった。
[3]
  評価の絶対レベルについては特にコメントはなかったが、MφllerはG1で95dBという値を提示していた。(我々の実験結果に対応させると甘い評価値のように思う。)
[4]
  周波数が低くなるに従って、評価のダイナミックレンジが狭くなることが、アノイアンスやラウドネスの感覚実験から知られているが、評価に対するdB差が非常に小さくな  るので、参加者は皆、この点が気がかりのようであった。
[5]
  時定数が8秒以上の指示特定が提案されているが、この値は特に実験から求めたものではなく、1秒を基準に2nで考えたものであるとBruelは説明している。(我々の実験では、もう少し短い時定数でなければ、変動音評価に結びつかないと考えている。)
     

3. 他のセッションでの低周波音
 能動的騒音対策(Active noise control)の対象として、小坂(東京高専)のダクト内低周波騒音、Oswald(米.G.M)のトラック運転席騒音、の発表があり、スピーカを用いた能動制御システムの発表が目を引いた。実用化には時間が必要とは思うが、低域で卓越周波数が明確な事例には有効な手段ではなかろうか。
 石野(日本鋼管)は橋梁の低周波音放射を、モデル橋梁のモーダル解析で研究し、動吸振器の有用性と、予測と実験結果について発表している。又、実際例として、航空機運転場の低周波音対策(阿部:神戸製鋼)などの発表があった。

4. 振動
 Vibrationという単語は多くのセッションで、いろいろな使われ方をして現れる。我が国でも、振動という場合、これを扱う人の立場によって、振動する物体、媒体はもとより、対象とする周波数範囲、振動量や評価量などが異なることは良く知られている。
 いわゆる公害振動と云っている低周波域の地面振動に関連するものは、横田(小林理研)が発表した道路交通振動予測のみである。外国人の発表から類推すると、公害振動は総合的に扱うことは非常に少なく、我が国の土地利用事情と、社会活動の高度化との複合で生ずる独特の課題なのかも知れない。
 固体音に関連して、構造物の振動伝搬、音響放射について、建物上高速道路を扱った金沢(小林理研)、トンネル上建物への振動伝搬と減衰をモデルで扱い、動吸振器の有用性を示した小長井(長岡技科大)、船や海上構造物で問題となる鋼構造の団体音伝搬解析にSAE法を用いて予測可能なことを示したNilsson(デンマーク)らの発表が、具体性があって興味を引いた。
 また、騒音源対策としての振動制御については、個々の機械を対象に具体的な発表があった。Richards(英)は前々から励振効率や放射効率の重要性を主張していたが、ドロップハンマーの1/3スケールモデルを用いて各部位の振動制御と騒音低減を明確にして予測が可能になることを示した。有限要素法を用いて機械素子の音響放射効率を求め、騒音の予測や低減をポンプについて発表したDunlop(英)、パワープレスのスケールモデルを用いて、各要素の振動制御による騒音低減を示したStimpson(英)、自動車のエンジンノイズ制御を、振動モード解折を通して行なった小川(日産)の発表など興味を引いた。
 振動制御としてダンピングがあるが、Ungar(米)のWave guide absorberは、比較的に広帯域で効果のある振動制御体で、面白い考え方の発表であった。また、吉川(長岡技科大)の磁石のフリクションを使うダンピング、吉村(小林理研)の重ね板ガラスのダンピングと庶音との関係などは注目された。
 振動の能動制御に関しては、高上(東大工)の空気バネコントロールシステムの実験が目を引いた。
 以上は振動に関連する事項のほんの一部の紹介にしかすぎないが、騒音制御に占める振動制御の位置づけが、益益重視されていることを病感した。また、計測、解析、制御の分野で数年来コンピュータ利用技術が重要な位置づけとなっていることが、発表内容からも明白であった。                          

(文責時田保夫)

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