2003/10
No.82
1. 制度と技術力・開発力 2. 鉄道騒音における高周波音の発生 3. 統一型遮音壁

4. euronoise 2003, Naples

5. 第19回ピエゾサロン
6. 第20回ピエゾサロン 7. 2ch小型FFT分析器 SA-78
      <骨董品シリーズ その49>
 統一型遮音壁
      −沿道環境を保全するために−

理 事 長 山 下 充 康

 昭和31年(1956年)4月、日本道路公団が設立された。時速100kmで走行できる高速自動車道路の建設、それは未舗装の凸凹道や砂利道が日常的だったこの時代には夢のような構想であったことであろう。日本で初めての高速道路が登場したのは昭和36年(1961年)、「京都山科」の僅かな延長区間の対向2車線の4車線道路であった。この区間は、今日の名神高速道路の一部となり、中央分離帯の植栽に隠れるように高速道路起工地点を標した小さな石の碑が置かれている。

 時速100kmで走ることの出来る自動車は輸入車しか無かった時代である。「山科」に完成したこの区間で自動車産業界やタイヤメーカーまでが日本道路公団の土木技術者たちと一丸となって高速道路の安全性や自動車の高速走行を研究するための試験を実施したという。

 総延長7000kmを超える高速道路網の整備が成った今日からその当時の状況を振り返るとわが国のモータリゼーションの急速な発達に改めて驚嘆させられる。

 昭和46年(1971年)5月、「騒音に係る環境基準についての閣議決定」が発表されている。「環境庁」が誕生したのもこの年である。沿道の生活環境が道路交通騒音によって妨げられることが無いように、「公害対策基本法」に基づいて「環境基準」が制定された。

 高速道路の建設が始まって間もなく、昭和38年(1963年)名神高速道路の「茨木西高槻区間」で沿道から寄せられた強い騒音苦情に対して最初の「防音塀」が設置された。防音塀といっても工場の敷地囲いなどで見かける何の変哲も無いコンクリート板の塀であった。この当時、道路端に設けられた塀のことを表向きは「防音用の塀」とは言わず、落下物除けとか転落防止を目的とした塀とされていたと聞いたことがある。「高速道路→騒音→防音塀」という意識の流れが普遍化することを懸念したことによるものと推測する。

 さりながら、高速道路が建設されれば沿道からは必然的に道路交通騒音に対する苦情が寄せられ、特に住宅が立ち並ぶような区間に建設される道路では何らかの騒音低減方策が要求されることになる。道路からの騒音を遮蔽するのに効果的なのは防音塀の設置である。

 昭和40年(1965年)の後半、道路公団の環境技術の担当部局から「道路端に設置する防音塀について音響学的に出来るだけ好ましい効果を期待できる構造と材料を研究しよう」という課題が寄せられた。

 図1は小林理研の音響科学博物館の片隅に残されている試作された当時の防音塀パネルの一つである。H型鋼の支柱に落とし込むことを想定してパネルの厚さは10cmと規定されていた。片側に開けられた孔は騒音の反射を防止する目的のもので、内部にはガラス繊維の多孔質吸音材料と空気層が組み込まれている。50社を超えるメーカーが参画して様々な形と構造のパネルを試作してはこれを持ち寄って音響性能、耐久性、施工性、経済性、対候性、安全性などについて熱心に論じ合われたことであった。このとき、「営業担当は不要である。技術者だけが参画されたい」とメーカーの各社に要求した道路公団の担当者の姿勢が印象的だった。

図1 試作された防音塀用金属製パネルのモデル

 それまでの防音塀といえばコンクリート製、合成木材製、プラスティック製など、形状も材料もまちまちで、単なるツイタテで音響的な性能についてはほとんど考慮されていなかったのが実情であった。このような混沌とした状況を整理統合して特定の規格をとりまとめ、「統一型遮音壁」と名付けて今日われわれが目にする「遮音壁」の基礎が構築された。

 道路端に聳え立つ遮音壁で細長く切り取られた空を見上げながらの高速道路のツーリングに不快な圧迫感を感じた方々も少なくないものと拝察する。近年では透明の材料を採用して運転者の視界に配慮した遮音壁も見られるようになったが、音響的には対向する遮音壁の間で生じる反射音(図2)を低減するための吸音性能を失った透明で平滑な遮音壁には首を傾けざるを得ない。透明な遮音壁を見るたびに、統一型遮音壁のパネル開発の折に騒音の反射を防止するための吸音性能を厳密に規定した論議を思い起こして落着かない気持ちにとらわれる次第である。

図2 遮音壁間で生じる反射音

 図3は当時まとめられた「統一型遮音壁のパネルの標準的な断面」である。基本的には今日と変わるものではない。

図3 統一型遮音壁パネルの標準的な断面

-先頭に戻る-