2003/7
No.81
1. 透過損失測定をめぐる常識 2. 新型吸音ルーバーの遮音性能 3. ソロフォン 4. オージオメータ AA-78
 
 透過損失測定をめぐる常識

建築音響第二研究室 室 長 吉 村 純 一

 筆者が透過損失の測定に携わるようになったのは1970年代後半頃からである。残響室の隅に向けたスピーカから帯域雑音を発生し、1本のマイクロホンを順次移動して、低い周波数帯域では大きく揺れ動くメータを睨めつつ半日がかりで測定を進めたのを記憶している。ここでは、筆者の少ない経験から透過損失測定をめぐる幾つかの常識を検証してみることにする。

 ランダム入射質量則による計算値と測定結果を対比することは、値そのものだけでなく周波数特性の傾きも含めて、測定結果を評する有用なツールとなる。しかし、測定試料が均質単板であっても、特にガラスのように小さい試料の測定結果は、コインシデンス限界周波数以下の周波数帯域で質量則による値を大きく上回る。このことは有限の大きさの板の強制振動を板の寸法で整理したSewellの式によって明快に説明されている。無限大を仮定した質量則が1〜2m角の試料の測定結果を説明できる訳がない。学生時代に習った常識が脆くも崩れ去った。

 試料寸法が試験室の開口に比べて小さくなる場合には、試料以外からの透過を防ぐため遮音性能の高い厚い開口部調整壁が設けられる。このため測定対象試料の両側又は片側に深いへこみ(ニッシェ)ができる。このへこみの深さを試料の両側への配分を変化させると、測定結果が大きく変化する。このいわゆるニッシェ効果は、文献等では古くから報告されているが、いざ自分で実験してみると影響の大きさに唖然とさせられる。

 90年代初頭学会発表でドイツの研究者から、音源スピーカを移動しながら連続測定する移動音源の提案があった。低い周波数帯域の拡散性の不足を音源位置を変えることによって励起するモードを網羅・平均化する必要があるとのことである。彼等の試験室は室容積が小さく室形が矩形だからなどと高を括っていたが、程度の差こそあれ残響室においても音源位置及び向きによって低い周波数域の測定結果に差を生じてしまう。ここでまた筆者が抱いていた崇高な常識の一つが覆された。音源位置の複数化、全指向性スピーカの適用などは2000年のISO整合化に基づくJIS改正以降、比較的一般化されつつあるが、拡散性の高い残響室を用いた測定では、音源の設置位置及び向きによって測定結果が変わるなど想像もしていなかった。

 最近当所に新設されたタイプII試験室は、片方の試験室が台車に乗っており、両者を引き離すことができる。これにより、ひとつの試料を対象に、音圧法、内部・外部音源法、インテンシティ法などを適用して測定結果を比較することが可能となった。拡散音場と自由音場との間に適用される窓や換気口などの試料の場合、試料に入射する音響パワーの算定にwaterhouse補正の適用が云々されている。インテンシティ法による透過損失測定法を規定したISO 15186のAdaption term Kcは、受音側にwaterhouse補正を施すといった理解しにくい方法で音圧法との整合を図っているが、今後音圧法の算出式を書き換えねばならなくなるのだろうか。測定法に絡む常識がまたひとつ崩されようとしている。

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