2003/10
No.82
1. 制度と技術力・開発力 2. 鉄道騒音における高周波音の発生 3. 統一型遮音壁

4. euronoise 2003, Naples

5. 第19回ピエゾサロン
6. 第20回ピエゾサロン 7. 2ch小型FFT分析器 SA-78
 
 
制度と技術力・開発力

騒音振動第一研究室 室長 木 村 和 則

 昭和53年に当時の建設省は、「建設技術評価制度」を創設した。この制度は、民間等の研究開発の促進及び建設事業への新技術の導入・活用のために、国が行政ニーズに基づいて決定した開発課題について、技術開発の目標レベルを提示し、民間が研究開発を実施、建設技術評価委員会において技術評価を行い、その結果を受けて建設大臣が評価を与え、結果を公表する制度である。平成7年度の評価課題の中に、道路交通騒音の低減のため高架道路等に設置する「騒音低減効果の大きい吸音板の開発」がある。この評価課題の評価項目として、平均斜入射吸音率が採用された。

 当所では、平成元年頃から道路構造用吸音板の開発および評価を目的にした斜入射吸音率測定を行っている。斜入射吸音率測定から、グラスウールでは均質性および表面の固さが吸音性能に影響を及ぼしていることが判明した。グラスウールは建築用断熱材としての用途が主であり、吸音性能に配慮して製造していたメーカはごく一部にすぎなかったのではないかと思えた。また、道路の騒音低減対策に用いる高架裏面用吸音板などについても、道路管理者側が、設置個所に見合った吸音性能を有する吸音板の開発・設計を行い、吸音板メーカはその設計図面に沿って製作を行う事例が多く見られた。そのため、メーカ側では新たな吸音性能向上のための開発を必要としなかった。しかし、この技術評価をきっかけにしてそれまでの流れが一変し、吸音板および吸音材料メーカが設置個所毎に要求される吸音性能、強度などを考慮して独自で開発を行う必要がでてきた。

 この制度は、開発目標をクリアする製品を製造する開発力・技術力さえあれば、異分野のメーカでも既存の吸音板メーカと対等に評価されるという利点があったが、結果の公表以来7年、この分野に参入した異業種のメーカが成功したという話は聞こえてこない。既存のメーカとの開発力・技術力の差は想像以上に大きかった様である。これらの動きを見聞きする限り、本制度は、既存のメーカに蓄積された吸音板の技術力・開発力を開花させ、かつ業界全体の活性化に大きく寄与したものと確信している。また、現場に即した形で性能評価を行い、その性能を明確化し、なおかつ公に定められた基準を満足しているという評価があれば、設置する側も安心して吸音板の選定ができる。作る側も評価基準に即した、より高性能な吸音板を開発すれば良いという判りやすい構図ができあがっているように思える。

 「騒音低減効果の大きい吸音板の開発」については、結果の公表で終了しているが、現在でも財団法人土木研究センターでこれに準ずる建設技術審査証明を行っている。昨今は、グラスウールなどに代表される繊維系多孔質材料の性能に頼った安価・軽量・高性能な吸音板が主である。この様なときこそ技術力の蓄積を行い、この制度を利用して、環境・景観を考慮した吸音板が必要になる、きたるべき時を見越した新しい吸音機構を持った吸音材・吸音板が、開発、評価されることを期待している。

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