2003/10
No.82
1. 制度と技術力・開発力 2. 鉄道騒音における高周波音の発生 3. 統一型遮音壁

4. euronoise 2003, Naples

5. 第19回ピエゾサロン
6. 第20回ピエゾサロン 7. 2ch小型FFT分析器 SA-78
       <研究紹介>
 
鉄道騒音における高周波音の発生
      - 在来鉄道沿線における高周波音の発生状況の実態調査 -

騒音振動第三研究室 廣 江 正 明

1.はじめに
 新幹線鉄道や在来線鉄道における列車騒音の主要な音源には、転動音、車両機器音、空力音、構造物音などが挙げられる。どの音源からの発生音も250Hz〜2kHzが主たる周波数帯域であり、10kHz以上の周波数成分が列車騒音に占める割合は低いと考えられてきた。

 ところが、最近、新幹線鉄道のカーブ区間において非常に高い音圧レベルで10kHz以上の音(以下、高周波音と呼ぶ)が発生している事例が見つかった。その後、在来線鉄道沿線の十数ヶ所で列車騒音を調査した結果、幾つかのカーブ区間で同様に高周波音が発生していることを確認した。ここでは、我々が独自に在来線鉄道沿線で調査した結果をもとに、列車騒音における10kHz以上の高周波音の発生状況について報告する。

2.現場測定
2.1 測定箇所
 東京都内の在来線鉄道のカーブ区間十数か所で事前に予備調査を行い、10kHz以上の高周波音が発生している箇所を把握した。これらの候補地の中から平地(A)、高架橋(B)、(C)の計3箇所を選び、列車騒音の測定を行った。平地(A)、高架橋(B)はカーブ区間のほぼ中央、高架橋(C)は直線区間とカーブ区間の境目付近である。なお、いずれの調査箇所においても測定点は地上高さ1.2m、軌道から距離8m〜40mの範囲で、出来る限り列車の見通しが良い場所を選んだ。

2.2 測定機器
 今回の測定では10kHz以上の周波数を正確に計測する必要があるため、騒音計の代わりに100kHzまで平坦な周波数特性をもつ1/4インチ・コンデンサマイクロホンRION UC-29と、騒音計ユニットRION UN-04を使用し、データレコーダ SONY PC216AxでDC〜20kHzの周波数範囲を収録した。

3.測定結果
3.1 発生状況
 まず、列車騒音の一例として、平地(A)で収録した列車のA特性補正後の1k〜16kHzのオクターブバンド等価音圧レベルLeq,100msと騒音レベルLAeq,100msの時間変動パターンを図1に示す。この列車は当該路線を走る代表的な通勤型電車であるが、列車通過中および通過後に亘り16kHzのオクターブバンド成分が他の帯域に比べて非常に高いレベルで発生していることが分かる。

図1 A特性補正後のオクターブバンド等価音圧レベルLeq,100msと
等価騒音レベルLAeq,100msの時間変更パターン
−通勤型電車、10両編成81km/h−

 つぎに、列車騒音をサンプリング周波数48kHzでAD変換して計算機内に取り込み、FFT分析およびSTFT(Short-term Fourier Transform)分析を行い、列車騒音の周波数特性とその時間変化を求めた。3つの調査箇所における分析結果を図2に示す。各図の左側の周波数変化の図において両側矢印(⇔)は測定点正面に列車が存在していた時間を表す。また、高架橋(C)の列車は直線区間からカーブ区間に向かって走行した電車である。

図2 列車騒音の周波数特性とその時間変化;
[上]平地(A)、[中・下]高架橋(B),(C)

 これらの分析結果から 10kHz以上の高周波音の発生状況について以下のことが分かる。

1)列車通過中に発生する高周波音は14kHz以上の広帯域雑音で、発生音の強度や周波数特性は大きく変動している。
2)列車通過の前後に観測される高周波音は幾つかの狭帯域成分だけを含んでいる。
3)列車通過前後の高周波音は5〜10秒に亘ってほぼ一定の音圧レベルが継続している。
4)平地(A)、高架橋(B)では列車の通過前後に、高架橋(C)では列車の通過後にのみ高周波音が発生している。このことから、通過前後の高周波音はカーブ区間を走行中の列車に関連していると考えられる。

 以上のことから、列車通過の前後に観測される高周波音はカーブ区間を走行する列車に起因した振動がレールを伝搬して再放射された音である可能性が高い。

3.2 レール加振実験
 調査路線と同じ60kg/mレールの部材(0.43m長)を加振し、レールの共振周波数を計測した。加振点はレール端の踏面、振動加速度の計測点はレール中央の踏面と側面で、レールは底面の四隅を支持して浮かせた状態で固定した。共振周波数の計測結果を図3に示す。図中の点線で示す共振は現場調査で観測された列車通過前後の高周波音に対応した周波数である。これらの周波数の幾つかはレールの断面寸法に応じた縦波や横波の固有周波数と対応するものの、すべての共振モードと固有周波数を対応させ、高周波音とレール振動を対応させるには至っていない。

図3 レールの共振周波数の計測結果

4.おわりに
 新幹線鉄道や在来線鉄道の一部のカーブ区間で、10kHz以上の高周波音が発生していることを報告した。高周波音の発生状況より「レール」から高周波音が放射されている可能性が高いと思われるが、レールの振動モードと高周波音の関係は未解明である。

 なお、今回確認された高周波音の周波数範囲は騒音計に関する法令やJISの範囲外であるため、騒音レベルに占める高周波音の寄与度が高い場合、規格外の周波数範囲における騒音計の感度差により計測結果に数dB以上の差が生じることがある。

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