2004/1
No.83
1. 謹んで新年のお慶びを申し上げます 2. inter-noise 2003 3. レコード盤収納用キャビネット 4. サーボ加速度計 LS-40C
 
 謹んで新年のお慶びを申し上げます
                         平成16年元旦

理 事 長 山 下 充 康

 青少年の「科学離れ」が近年の大きな社会問題となっているとか。ひところ前、少年たちは得体の知れないガラクタを大切にしていたものです。「レンズ」や「ナイフ」や「磁石」などが少年たちの宝物になっていてこれらを組み合わせて何やら組み立ててはこれを楽しんでいたことでした。そこには幼稚で粗末なものであったとしても「夢」と「創造」が感じられました。昨今の「科学離れ」は「夢」と「創造」の精神が失われようとしている証なのではないでしょうか。昨今ではパソコンゲームの世界ではなく、自分の手に触れることの出来る事物が展開する「実」の世界を愉しむ機会が減っているように感じます。

 科学技術の応用、実用化は日本国の得意とするところであったように感じます。と申しますのは、ここで話が100年前に遡ります。

 ちょうど100年前の1904年(明治37年)、日本とロシアの間で戦争が始まりました。日露戦争です。ここで注目したいのは、100年前のこの年、マルコーニが1896年に発案した火花式の無線電信技術に注目したわが国の「帝国海軍」が長崎と台湾のキールン(基隆)との間で遠距離無線交信の実験に成功するところにまで実用化したことでしょう。その翌年、日本近海を航行してきたロシアのバルチック艦隊をわが国の連合艦隊が迎撃して大きな戦果を上げた海戦は「日本海海戦」として広く知られていますが、この海戦で勝利を挙げ得た要因に無線電信の実用化があったことを忘れてはなりません。

 実験段階にあった火花式の無線機を艦船に積み込んで現場の状況報告と適切な指令の伝達に資するところにまで実用化した技術者の心意気には感嘆を禁じえません。この時、大本営から連合艦隊に向けて打電されたのが『敵艦隊見ゆとの報に接し、連合艦隊は直ちに出動、これを撃滅せんとす。本日天気晴朗なれども波高し。』の一文でありました。基礎的な研究段階にあった科学技術に眼を向けて実験室で目にするバラックセットのような通信機を実戦の現場に応用した大胆さと科学技術に寄せる積極的な関心なくして「日本海海戦」の勝利は得られなかったことでしょう。

 100年前の出来事ですが、マルコーニの無線電信と言う新しい科学技術を見過ごすことなくこの研究成果を真摯に受け止めて実用化したことが、強大国ロシアの大艦隊の撃破に貢献したことにわが国の誇るべき科学意識の真髄を見るような気がいたします。科学の世界の片隅に芽生えたばかりの小さな苗を実用的な技術にまで育て上げた先人たちの心意気、「夢」を実現しようとする挑戦意識、そして飽くなき「創造」の精神は日本人たちが忘れかけようとしている科学技術の応用、実用化の得意技ではないでしょうか。

 新たな年を迎えるにあたって科学する心の大切さに思いをめぐらせた次第でございます。

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