2003/7
No.81
1. 透過損失測定をめぐる常識 2. 新型吸音ルーバーの遮音性能 3. ソロフォン 4. オージオメータ AA-78
       <研究紹介>    
 新型吸音ルーバーの遮音性能

騒音振動第一研究室 松 本 敏 雄

1.はじめに
 吸音ルーバーは、掘割・半地下道路からの騒音低減を目的として開発された道路施設である。この装置はブレードと呼ばれる羽根材から構成される格子状の構造物で、調光の他に車道内の排気ガスを換気する機能も有している。このブレードを吸音性にすることで騒音に対して遮音性能が得られ、掘割・半地下構造の道路開口部から放射される騒音を一様に低減することができる。吸音ルーバーの遮音性能については、これまでに模型実験1)や実物実験2)-4) において検討を行ってきた。その結果、既に実際の掘割・半地下道路に設置され、隙間があるにもかかわらず、道路交通騒音に対して10 dBを超える高い遮音性能を有することが明らかとなっている。ここでは、新たに開発された高換気性能を有する吸音ルーバーの実物モデルを試作し、その遮音性能についてルーバー設置前後の音圧レベル差から求められる挿入損失の測定を行ったのでその結果を紹介する。

2.吸音ルーバーの概要
 ルーバーとは元来、トンネルの出入口部に設置され、坑内と坑外の明るさの不連続を調整し、ドライバーの目が明るさの変化にスムーズに追随できるようにするための調光施設(直射光を遮り、適度な反射光を誘導する装置)であった。掘割・半地下構造道路の開口部に設置する場合には、図1に示すように直射日光を遮り、適度な間接光が路面に届く様にする調光機能と道路内の排気ガスが停滞しないように換気機能にも配慮している。

 調光機能及び換気機能に加え、ブレードを吸音性にすることで遮音機能を付与し、道路交通騒音に対する騒音低減効果も有している。

図 1 ルーバーの調光機能と換気機能

3.新型吸音ルーバーの実物モデル
 今回新たに開発された吸音ルーバーは、従来の吸音ルーバーよりも高換気性能を有している。外観上の特徴は、ブレードの断面形状が従来の「く」の字型から飛行機の翼のような形状に改良されている。以下、この新型吸音ルーバーをその断面形状から"翼型吸音ルーバー"と呼ぶ。図2に従来型および翼型(180mmタイプ)の吸音ルーバーの実物モデルの断面図を示す。各吸音ルーバーのブレードは、光が直接差し込まない間隔で取り付けられている。このブレードはステンレス製の表面材(パンチングメタル)で吸音材(PVFフィルム付グラスウール)を挟む構造で両面が吸音性となっている。ブレード1枚の幅は580mm、厚さはそれぞれ図に示す通りである。ルーバー全体の大きさは2m×3mである。

図 2 吸音ルーバーの実物モデル(断面図)

4.測定方法
 吸音ルーバーの遮音性能は、ルーバー設置前後の音圧レベル差から求められる挿入損失で評価した。挿入損失は、残響室から自由音場への開口部(3m×2m)にルーバーを設置した条件と設置しない条件について、屋外で音圧レベルを測定し、その差から求めた。音源室には、容積 147m3、表面積 171m2の不整四角形六面体の残響室を用いた。図3に設置状況を示す。測定点は屋外に配置し、開口部中心から半径4mの半円周上(15°毎)の13点とした。図4に残響室の平面図と測定点配置を示す。音源には残響室の容積、測定時のS/Nなどを考慮してステージモニタ用スピーカ使用した。スピーカは残響室の側壁に向けて、高さ 1.4mの位置に設置した。試験音にはホワイトノイズを用い、ルーバー設置前後に開口部から放射される音の1/3オクターブバンド音圧レベル(20秒間のエネルギー平均値)を精密騒音計と1/3オクターブバンド実時間分析器で測定した。

図 3 吸音ルーバーの設置状況
 
図 4 残響室の平面図と測定点配置

5.測定結果
 吸音ルーバーの挿入損失は各測定点におけるルーバー設置前後の音圧レベル差を算術平均して求めた。図5に従来型と翼型の吸音ルーバーの周波数別挿入損失の測定結果を比較して示す。翼型吸音ルーバーの挿入損失は、2500 Hz以上の周波数では従来型と同等で、2000 Hz以下の周波数では従来型よりも増加している。特に、125〜500 Hzの範囲では挿入損失が向上している。今回のブレード形状の改良による遮音性能の向上は、ブレード厚の増加、すなわち内部の吸音材の厚さの増加によるものと考えられる。

図 5 周波数別挿入損失測定結果

6.おわりに
 新たに開発した高換気性能を有する翼型吸音ルーバーは、今回の改良によって2000 Hz以下の周波数において従来型を上回る減音効果が得られた。今後、優れた遮音性能および換気性能を有する翼型吸音ルーバーが実道路に設置されることを期待する。

謝 辞
 吸音ルーバーの実物モデルの製作及び実験では、新日本製鐵株式会社及び東鋼業株式会社の方々の御協力を頂きました。ここに感謝の意を表します。

[参考文献]
1)山本他 日本騒音制御工学会講演論文集 185-188(昭和59年9月)
2)山本他 日本騒音制御工学会講演論文集 205-208(昭和60年9月)
3)松本他日本騒音制御工学会講演論文集 45-48(平成2年10月)
4)松本他 日本音響学会講演論文集 659-660(平成4年3月)

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