2003/7
No.81
1. 透過損失測定をめぐる常識 2. 新型吸音ルーバーの遮音性能 3. ソロフォン 4. オージオメータ AA-78
       <技術報告>    
 オージオメータ AA-78

リオン株式会社 聴能技術部 野 中 隆 司

1. はじめに
 AA-78は、オージオメータのJIS規格T1201-1:2000に定める5段階のタイプ別のうち、最も高い機能を要求されるタイプ1に該当するオージオメータである。

 最も一般的に行われる標準純音聴力検査の他、語音聴力検査、自記オージオメトリ、域値上検査、音場聴力検査といった、耳鼻科領域の臨床の場で実施されている各種の検査に対応している。そのほか、方向感機能検査や耳鳴検査といった特殊な検査が可能であり、オプションを使用すれば幼児聴力検査にも対応できる。

 また、検査音の種類、レベル変調の有無、断続周期、ミキシングの有無といった検査条件を、ユーザーが自由に設定して検査を行うことができるプログラムモードや、RS-232-Cインタフェースによって外部から検査条件を制御する外部制御モードを持つ。研究用として特殊な検査を行うような場合に有用である。

 検査結果や検査条件の表示には、15インチのカラーLCD(XGA)を採用。従来機種に比して、表示能力と視認性が格段に上がった。また、LCDの角度調整が可能となり、使用者ごとに最適な角度に調整して使用することができるようになった。

 検査結果の記録には、内蔵の8ドット/mm 感熱プリンタのほか、Windows NT対応の外部プリンタを接続することも可能である。また、RS-232-Cインタフェースにより、検査データをパソコン等へ転送することができる(図1)。

図 1 オージオメータ AA-78 全体図

2.構造と性能
 図2に、AA-78のブロック図を示す。

図 2 オージオメータ AA-78 ブロック図

 制御部はCARD-PC及びMPUから成り、記憶メディアとしては256MBのCompact Flashを採用している。OSにはWindows NT 4.0 Embeddedを採用し、全体の動作をコントロールするアプリケーションソフトのほか、ハードウェアとの入出力を管理するMPUソフト、ドライバ、音源生成用のDSPといった複数のソフトにより動作している。

 アナログ部は、基本的に従来のオージオメータで採用した回路を踏襲し、DSPと掛算器回路により優れた周波数特性と高いリニアリティーの検査音の出力を実現している。出力先としては、気導及び骨導受話器のほか、音場検査用にスピーカを接続することも可能である。

 その他、幼児聴検用としてTVモニターやビデオデッキ等を接続する映像入出力端子を装備しており、付属の幼児聴検コントローラを使って、離れた位置から検査音や光刺激のコントロール、域値データの入力等を行うことができる。

3.開発にあたり
 本器の開発を開始するにあたり、従来機種に対してユーザーがどういう印象や意見を持っているかを直接聞くことができた。そこで出された改善要望点については、可能な限りこの製品に取り入れる方向で検討し設計したが、その中で簡単そうで難しいと感じたのが、「主要なスイッチ類は従来機種と同じように配置してほしい」という要望であった。複数のオージオメータを使用する場合に、器械によってスイッチの配置が異なると使いづらいというのが理由である(図3)。

図 3 オージオメータ AA-78 操作部

 確かに、一日に何人もの患者さんを相手に検査を行うような現場では、検査士の方は手や指の感覚で操作していることも多いと考えられ、複数の器械で検査を行うことを考えると、スイッチの配置が同じであるに越したことはない。しかし、そこに改善すべき点があるとしたら、変えていくこともまた必要である。  この点については、今後の新製品開発においても大きな課題となるであろう。

4.主な新機能
 性能面では、従来機種のAA-75に対して様々な改良や追加を行った。その中の主な追加機能について紹介する。

(1) 語音聴力検査機能の拡張
 本器は、従来器種と同様に、語音聴力検査用として日本聴覚医学会の定める57-S及び67-S語表(数字語表、単音節語表)の検査音源を内蔵している。このうち、単音節語表を用いて語音弁別検査を行った場合、これまでは被検者の回答を正答(○)または誤答(×)で入力して、各語表に対する正答率(語音明瞭度)を求めて表示するという機能しかなかった。

 AA-78では、回答を正答・誤答で入力するほかに、回答された文字そのものを入力する機能が追加された。入力は、画面に表示された五十音表のボタンをマウスでクリックする方法(図4)と、キーボードを接続してローマ字入力する方法の2つを採用した。回答を文字で入力することの目的は、その被検者の異聴傾向を見ることにあり、AA-78では入力された結果を異聴マトリクスで表示することができる。異聴マトリクスには様々な表現方法があるが、AA-78では子音の音素別に提示音と回答音の対応を表示するようにしている(図5)。
図 4 57-S語表文字入力画面
 
図 5 異聴マトリクス画面

(2) 耳鳴検査機能の搭載
 耳鳴検査については、1984年に当時の耳鳴研究会(現耳鳴りと難聴の研究会)で作製された「標準耳鳴検査法1984」(その後1993年に改正)が検査法の標準となっている。リオンからは1994年に耳鳴検査装置TH-10を発売しているが、オージオメータにその機能を取り入れた器種はAA-78が初めてである。

 「標準耳鳴検査法」では、耳鳴検査装置に必要な機能と検査方法ならびに検査結果の表記方法について規定されている。機能面については、通常のオージオメータにはない10k、12kHzの検査音を提示できることが要求されている。人間の聴覚の特性やトランスジューサの周波数特性等を考慮すると、電気的にかなり大きなS/Nが必要であり、その音質を実使用上問題ないレベルまで上げる作業には多大な時間を要した。また、オージオメータとして設計された装置で耳鳴検査装置としての動作を実現するために、色々と工夫して設計したつもりではあるが、ユーザーの反応によっては今後改善していかざるを得ない点も出るかと思われる。

(3) CD-ROMドライブの搭載
 AA-78は検査結果を印字するための感熱プリンタを内蔵しているが、ユーザーによってはカラー印刷を要望される場合もある。従来器種では、ある特定のプリンタしか使用できなかったが、AA-78ではWindows NTに対応したプリンタ(パラレル接続)であれば接続可能である。CD-ROMドライブも元々はプリンタドライバのインストール用として内蔵したものである。

 しかし同時に、語音聴力検査において音源用CD(補聴器適合検査用音源 KR2000A等)を再生する機能についても検討し、これを実現するに至った。これにより、検査音として音源用CDを使用する場合に、別途CDプレーヤー等を接続する必要がなくなった。

5.おわりに
 設計開始から約2年を要し、オージオメータAA-78は発売の時期を迎えるに至った。これだけ多彩な機能を持ったオージオメータは他社にはなく、臨床用ならびに研究用として広く利用されることを期待している。

 とは言え、AA-78があらゆる面において完成されているとは考えていない。今後もユーザーからの意見や要望を取り入れながら、さらに質の高い製品開発を目指して行きたいと思う。

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