2002/1
No.75
1. 迎 春 2. Popular Science 3. inter-noise 2001 in Hague 4. 第17回国際音響会議(ICA) 5. P T B 訪 問 記

6. 第14回ピエゾサロン

7. 多チャンネル分析処理器SA-01 8. ISO News 1998-2001
       
 第14回ピエゾサロン

理 事 深 田 栄 一

 平成13年9月28日に小林理研会議室で第14回のピエゾサロンが開催された。東芝タンガロイ株式会社技術センターの福原幹夫博士“多モード超音波による物性評価、診断と動植物への適用”の題で講演された。

東芝タンガロイ(株)技術センター
福原幹夫博士 講演
 まず弾性率と内耗(内部損失)の測定装置の説明があった。超音波パルスによって、縦波と横波の音速度を精密に計測し、ヤング率、剛性率、体積弾性率、圧縮率、ラーメパラメータ、ポアソン比、音速異方性係数、デバイ温度が同時に測定できる。また、縦波と横波のパルスエコーの振幅比から内耗が同時測定できる。温度範囲は-196℃から1500℃まで変化することが出来る。

 弾性率、ポアソン比、縦波の内耗および横波の内耗の温度変化の測定例が、セラミックの例として、α-Al2O3,β'-サイアロン、正方晶ジルコニヤ、超伝導体GdBa2Cu3O7-δについて、金属の例として 一般構造用鋼について、またポリマーの例としてアクリルについてそれぞれ示された。 一般に内耗は材料の相転移、格子内欠陥の存在や運動、格子内緩和、残留応力の開放、再結晶、固溶限、不純物の存在、粒界拡散、原子間ポテンシヤルの変動など種々の機構によって起こる。 縦内耗と横内耗の測定結果は同じではなく、それぞれ異なる内部機構に起因する。

 超音波計測の方法は動植物材料にも適用することが出来る。牛の頚骨の前後左右の場所による弾性的性質の違いや、こおろぎや鈴虫の羽の弾性率や音速の測定結果は珍しい研究であった。羽のポアソン比は0.45位であり、ゴムに近い柔構造を示している。植物の葉についてもアサガオ、キンモクセイ、カキ、フヨウ、アジサイ、チャなどで、水中で縦波超音波の透過波の検出に成功した。100種類を超える茶の葉の音速の結果が示された。 茶の葉の硬さに比例して音波の伝播時間が増加する。

 横波には表面を伝播方向に垂直に振動しながら進むSH波(Horizontally Shear Wave,水平せん断波)と、表面に垂直に振動しながら進むSV波(Vertically Shear Wave)が存在する。このSV波はずり歪を伴うため、粗密波である縦波よりも材料の構造変化に敏感であり、表面の疲労、硬化、劣化、脆化などの非破壊検査に非常に有用である。SH波の伝搬時間との比例関係から推定できる量の例として、焼入れ性の良い鋼SKH55の硬度、SCM415鋼の浸炭深さ(対数)、Al合金上のNiメッキの厚さ、鋼の耐磨耗性を増す表面窒化層の厚さ、溶射セラミック層の厚さ、コンクリートの中性化厚さなど多数の測定例が示された。その他、低合金鋼の繰り返し疲労寿命の推定、鋼のショットピーニング効果の定量、ポリ塩化ビニルやゴムの熱および放射線劣化の判定など多数の応用例が示された。

 縦波と横波について超音波の音速と減衰を精度良く決定する測定装置を完成すれば、自然界の多数の材料について測定を行って、それぞれの材料の物性と構造に関する知見を得ることが出来る。同時に工業上有用な情報を非破壊検査の方法で得ることができる。これは研究技術者の醍醐味であろうと想像された。熱心な講演の後、多数の質問や討論が行われた。

参考文献
 福原幹夫、弾性率、内耗測定装置、計測技術, '99.3.p52
 福原幹夫, 弾性率、内耗の測定とその応用、検査技術  '99.5.p16.
 福原幹夫,桑野芳行、SH超音波利用による金属、セラミックス、ポリマーの材料表面診断、材料試験技術、 42,p21,1997
 福原幹夫,ポアソン比の材料学的意味と高温領域下における測定の重要性、ニューセラミックス 9,p39,1996.
 福原幹夫, 横波超音波利用による材料評価、ニューセラ ミックス、No.11,p21, 1997.

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