2002/1
No.75
1. 迎 春 2. Popular Science 3. inter-noise 2001 in Hague 4. 第17回国際音響会議(ICA) 5. P T B 訪 問 記

6. 第14回ピエゾサロン

7. 多チャンネル分析処理器SA-01 8. ISO News 1998-2001
       <会議報告>inter-noise 2001,17th ICA 報告
 P T B 訪 問 記

建築音響第二研究室室長 吉 村 純 一

 inter-noiseがオランダ・ハーグで開催され、その前後にISO/TC 43/SC2のWGが開かれた。会議の準備でメンバーと連絡を取り合うなか、96年にやはりinter-noiseの帰りに訪ねたドイツStuttgartにあるFraunhofer Institut fur BauphysicsのScholl氏がBraunschweigのPTB (Physikalisch- Technische Bundesanstalt)に移られるという情報を耳にした。彼とはその後のISOの会議やinter-noiseでお会いし、親しくお付き合いさせていただいている。ISO浜松会議では、いろいろアドバイスを頂いたニチアスのタイプII試験室に案内した思い出がある。今回の渡欧の際にPTBの施設見学を要請してみたが、快く承諾してくたれた。しかも、異動間際のScholl氏に代わって、TC 43/SC2のコンビナーのGoydke氏が、ホテルの予約から列車の案内までメールで知らせてきてくれた。音響学会誌の特集記事に原稿をお願いした際に、コンタクトに苦労した甲斐があったのか、ドイツの方は実に親切丁寧なのである。

 Amsterdamでの乗車ホームは情報と違っていたが、Hannoverで列車を乗り換え、無事Braunschweigに着くことができた。迎えに出てくれたScholl氏の車で研究所に向かった。私も4週間前にきたばかりなので、街の中はまだよく分からないんだと、地図を見ながら運転するScholl氏が、昔王様が住んでいて歴史のある街だけど大戦で焼けたので、古い建物と新しい建物が混在しているんだと説明してくれる。郊外へでると、見渡す限りの森の中にPTBの敷地があり、ほどなく走って音響関係の施設が点在する地区に着いた。

 音響棟(Helmholz-Bau)の入り口は通用口のような鉄扉で、残響室の脇を通って彼の研究室に案内された。WG 22についての打ち合わせを1時間ほどで済ませ、早速、研究施設を見せていただくことにした。まず、音響パワー計測用の残響室では大型の回転拡散板が回っており、スムースに回る様子に製作技術の高さを感じた。残響室は基本的に長方形で、壁及び天井が傾けてある。何と壁は外側に傾いており、表面に凹凸が設けられている。そうか吸音率測定用残響室ではないのだ。次は同じくパワー計測用の半無響室である。棒の先に取り付けられて床面に設置されたマイクロホンは、半分に切り取られた風防で保護されており、ワイヤーで棒を引き上げながら中心におかれたターンテーブルとともに計算機制御で測定対象音源の回りの測定面を均等に繰引するのだそうである。

 透過損失測定用の試験室は、開口部には例のラウンドロビンに使ったコンクリート壁が設置してあり、数カ所に振動ピックアップ設置用のプレートが埋め込まれているのが印象的である。試験室の壁・床・天井にも貼ってあり、側路伝搬のチェックの為に半ば常時観測点のように使われるのであろう。天井には2次元で作動するマイクロホン移動装置が設置されており、この部分の音圧レベルの空間分布をくまなく観測するのだそうだ。室内吸音調整用の吸音体は比較的少なく、低音吸収用と思われる孔あき板を表面材とした吸音ボックスとグラスウールボードを重ねて作った固まりをビニールで表面処理したものが少々、暖房用のスチームラジエータが目立つほど室内は閑散としている。この試験室は前任者でWG 18のコンビナーであるSchmitz氏の論文にも紹介された試験装置で、側路伝搬音を低減するために音源室と受音室を後から切断したのだそうだ。

 次はこの試験室の上に乗る様に配置された試験室で、窓ガラス専用の開口部が設けられている。両室の縁切りはされておらず、その代わり両室の壁及び天井面には躯体からの放射音を防止するために、表面処理用のボードを張り付ける野縁が常設されている。実験室の外には、なにやら曰くありげな複層ガラスが一塊りに梱包されている。ガラスのラウンドロビンに使われた試料だそうで、試験室校正用の試験体もその直ぐ脇に置いてある。こちらは北京のinter-noiseで報告があったラウンドロビンに使われたものだと直ぐに分かった。

 時間の制約から見学の途中でGoydke氏のオフィスを訪ねることにした。レーザー車速計測器をはじめ様々なタイプの振動ピックアップの校正を手がける彼の実験室を次々と見て歩くうちに、生半可なパワーのかけ方ではない試験施設から、彼らのStandardizationにかける心意気を感じた。PTBはあらゆる分野でトレーサビリティの頂点に立つ必要があるとのことで、ISO規格の立案に熱心な素養をかいま見たような気がした。

 音響棟に戻って床衝撃音の試験室を見学すると共に、タッピングマシンの校正装置、インピーダンスチューブや交流・直流の流れ抵抗測定装置、標準吸音体などを興味深く見させていただいた。今回のPTBの訪問を終えて、「ウィアースタンダード」という言葉が自然と心に浮かんでくるのはなぜだろうか。

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