2002/1
No.75
1. 迎 春 2. Popular Science 3. inter-noise 2001 in Hague 4. 第17回国際音響会議(ICA) 5. P T B 訪 問 記

6. 第14回ピエゾサロン

7. 多チャンネル分析処理器SA-01 8. ISO News 1998-2001
       <会議報告>inter-noise 2001,17th ICA 報告
 inter-noise 2001 in Hague

木村和則、田矢晃一、落合博明、加来治郎

 2001年の8月27日から30日までの4日間にわたってオランダのハーグで開催されたinter-noise 2001に、当研究所から木村、田矢、落合は研究発表、加来は会議に前後して開かれる委員会への出席を主たる目的として参加した。ハーグは国際司法裁判所で有名なオランダ第3の都市で、国会議事堂をはじめとする行政機関や各国の大使館等が集中している。会場のオランダ国際会議場(写真参照)は、ハーグ駅の北西約4kmの周囲を森と湖に囲まれてそれこそ会議以外に何もできないような環境の中に建っている。目と鼻の先にある上述の裁判所では、会期中にユーゴスラビアのミロシェビッチ元大統領の審判が行われたらしく、建物前に大勢の報道陣が詰めかけていた。遠い国の出来事と感じていたことを目の当たりにし、我々も歴史の流れの中にいることを実感した。

 今回の参加登録者は45ヶ国の900名あまり、研究発表は550件ほどで前年にフランスのニースで開催された会議を若干下回る規模であった。開催国オランダをはじめヨーロッパ各国の参加者が多いのは当然といえるが、表に示すように極東の日本が堂々の2位を占め今回も騒音大国の面目を保った。

表 国別の参加登録者数(全906名)

 初日の27日は参加登録に引き続き、午後の3時半からオープニングセレモニーとウェルカムパーティーが行われた。オープニングセレモニーでは組織委員長やI-INCE会長の挨拶の後、参加者の楽しみとするショーにおいて、"Art of Voice"として知られるオランダのタレント氏の独演会があり、とくにレーシングカー、ジェット機、蒸気機関車等の音を自分の声だけで発生し、ミキサーと協力してそれらがあたかも会場内を走り回るかのように聞かせるパフォーマンスには参加者から大きな拍手喝さいが寄せられた。

 
写真 会場のオランダ国際会議場

 研究発表は2日目の28日から始まり、9つの会場に分かれ、61のセッションで3日間を通して450件あまりの口頭発表と105件のポスター発表が行われた。発表件数から研究の動向をみてみよう。件数の多かった部門としてまずアクティブコントロール(能動制御)を挙げることができ、騒音放射、固体振動、聴覚、ダクトなど関連するセッションを総合すると65件あまりに及び、依然として関心の高い研究テーマであることが分かる。次いで目に付いたのが騒音の影響・評価に関係する部門で、明らかに騒音の評価と分かる発表だけでも60件あまりに達し、これにNoise mapping(16)やサウンドスケープ(9)などを含めれば毎日どこかで評価の話が行われているような感がした。交通騒音に関しては、道路(37)、航空機(22)、鉄道(15)と概ね例年通りの順であったが、道路においては2/3以上がTyre/road noiseに関わる発表であり、道路関係者の関心の高さが伺えた。ちなみに発表会に先だって朝一番に行われる特別講演のテーマは、初日が「騒音と健康」、二日目が「アクティブノイズコントロールの応用」、三日目が「Tyre/road noise」であり、主催者側も時宜にかなったテーマを用意したものと感心した。一方、今回の会議で掲げられた統一テーマは"Cost-benefits of noise control"であったが、この分野の発表件数は15あまりと予想外に低調であった。同様に低周波音は10件あまりとさびしく、振動に関しては人体影響のセッションは17件と賑わったがいわゆる地盤振動についてはセッションすら見出すことができなかった。

 今回の会議で我々の印象に残った発表をいくつか紹介する。詳しくはCD1枚に収まったProceedingsを参照していただきたい。初日の特別講演でH.Miedemaは、騒音に対する反応は音源の種類によって異なること、又、個人が受ける被害感については音源に対する恐怖感、騒音に対する感受性、年齢等の要因が大きく関与していることを報告した。なお、目下改訂作業が進められているISO 1996ではこの音源間での反応の違いが考慮され、道路に対して航空機は正のペナルティ、鉄道は負のペナルティをそれぞれ課すことがほぼ決定している。二日目の特別講演でJ.Tichyは、アクティブノイズコントロールの技術をもっと多方面に展開すべきであり、そのためには信号を効率よく音や振動に変換するトランスデューサの開発が不可欠であると力説した。三日目のU.Sandbergの特別講演は、タイヤと路面からの騒音に関していくつかの質問票を作成しそれに答える形で話が進められた。OHPに質問文が示されるため、我々にも理解しやすいものであったが、内容的には我が国の方がかなり先を進んでいる印象を受けた。そういえば、オランダ国内を我々が移動した範囲に関しては、いわゆる吸音性舗装を眼にすることはできなかった。

 一般発表の中からいくつかピックアップすると、低周波音の分野でW.Soedaは、最近の住宅の遮音性能向上によって静かな住宅地では地下鉄により家屋内で発生する固体伝搬音が問題となることを指摘し、新たにトンネルを作る場合には、低周波騒音のアノイアンスについての検討が必要であると報告した。また、測定機器及び測定技術のセッションでA.Santillanは、FIRフィルタを用いることによって0.05Hz〜280Hzの領域でほぼ平坦な周波数特性が確保でき、屋外で収録した低周波音を直接実験室内で再生することができると報告した。低周波音実験室は当所とほぼ同様のスピーカを用いた仕様であり、スピーカでは超低周波領域で限界があるため油圧アクチュエーターの導入を検討している我々にとっても非常に興味深い内容であった。

 I-INCEの会長でもあるスウェーデンのT.Kihlmanは、自らの研究発表において、過密した都市の騒音環境下では集合住宅の一方の壁面を静かにすることが有効な対策方法であると強く主張した。彼の考えによれば道路に直交する建物よりは平行する建物の方が居住者の満足度は高いということになる。確かにバッファービルのミニチュア版であるバッファールームという考えも一理あるが、彼の後に発表したT.GjestlandやE.Ohstromの報告は残念ながら必ずしもこの主張を全面的に支持するものではなかった。また、B&Kの創始者として有名なP.Bruelの発表があり、内容的にはA特性を全ての音圧レベルに適用することの疑問点を指摘したものでとくに目新しいものではないが、老いてもなお大勢の前でかくしゃくとして話をされる姿にいたく感動した。

 研究発表と平行して音響関連の44の企業による機器ないしは解析ソフト等の展示が行われた。ここでも印象的であったのはB&Kのブースで、1/100程度の空港周辺の模型の上方に設置されたプロジェクターを用いて航空機騒音、道路騒音、鉄道騒音、環境騒音等の騒音コンターをおよそ10秒毎に次々に写し出すノイズマッピングのプレゼンテーションにはさすがとうならせるものがあった。一方、リオンブースでは低周波音レベル計に関する問合せが比較的多かったようである。ヨーロッパでは低周波音の評価は20Hz以下はG特性音圧レベル、可聴域の低周波音については1/3オクターブバンド音圧レベルで行う方向にある。G特性の付いた騒音計が販売されていないため、興味を持たれたものと思われる。

 クロージングセレモニーはオープニングと同じ第一会場で、セッション終了後の8月30日午後5時30分より開催された。会長のT.Kihlmanはセッションオーガナイザーや学会の各委員など一人一人を紹介し労いの声をかけた。セレモニーの目玉はWind force10というQuintetの吹奏楽団で、8曲のロシアンフォークソングを演奏した。スライドに映る曲目と曲の印象を照らしながらなるほどと聞いていたが終了したときに1曲ずれていることに気が付いた。最後に、2002年8月19日〜21日にアメリカデトロイトのハイアットリージェンシーホテルで開催される次の会議の案内を次期実行委員長のR. Singhがビデオを交えて紹介した。まさかこの10日あまり後に同時多発テロが起こることなど夢にも思わず、再会を誓って会場を後にした。

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