2000/4
No.68
1. 圧電研究室の新たな出発 2. I-INCE総会とINTER-NOISE 99に参加して 3. ISO/TC43/SC2 フロリダ会議報告

4. フロリダ旅日記

5. AuralizationセミナーとInter-Noise 99に参加して

6. 第7回ピエゾサロンの紹介 7. PODS(ポータブルオイル診断システム)(リオン型式KR-60)
       <技術報告>
 PODS(ポータブルオイル診断システム)
     (リオン型式 KR-60)

リオン株式会社 環測技術部  西 本 道 伸

1.はじめに
 PODS(Portable Oil Diagnostic System)は、作動油や潤滑油における摺動部の磨耗、異物の混入、油質劣化等により発生する微粒子汚染をはじめ、酸化、水や金属イオンとの反応、添加剤の劣化などにより変化する油粘度や油温度など、油の清浄度および油の状態を把握するために使用されるものである。又、油用パーティクルカウンタの校正規格であるISO11171が1999年12月1日に新しく施行された。これに併せて間もなくJISも改訂されようとしている。PODSは、当社従来器KL-01に代わり、ISO11171にて校正された世界初の油用パーティクルカウンタである。このISO11171規格により油用パーティクルカウンタの校正方法、維持方法などが細部に渡り明確に規定された。今後、いわゆる従来の油の色具合や重量濃度を用いた一般産業分野の油汚染度管理レベルが、微粒子の粒度分布管理という航空機産業レベルに推移していく傾向にあるといえる。
 PODSはこれらの時代の要求に一早く対応したものであり、ラボユースだけでなく、バッテリー駆動、測定データのメモリー、サンプリング圧力源の内蔵等現場での使い勝手の良さを徹底追求した製品である。

2.測定粒径区分
下表の通り粒径区分8チャンネルの測定が可能である。

 NIST(National Institute of Standards & Technology)にトレーサブルなISO-MTD(Medium Test Dust)を用いた校正に基づいたISO-MTD粒径表示と、従来長く用いられてきたACFTD(AC Fine Test Dust)を用いた校正による粒径表示の両方の表示が可能である。図1の通りこれらの異なる校正方法による測定結果には相違があるが、後に紹介するNAS規格(National Aero Space)等では未だACFTDベースによる評価が行われている。そのため当面の間は両規格が共存していくものと思われる。

図1 NIST(ISO-MTD)およびACFTDによる校正法を用い
PODSによる試験用ダストの粒径分布の比較
3.清浄度分類
 先に述べた8チャンネルの粒径区分とは別に、下の4種の公的規格による油中粒子の清浄度評価が可能である。
ISO4406      (国際標準化機構の規格)
NAS1638      (米航空宇宙局の規格)
MIL-STD-1246C   (米軍の規格)
NAVAIR01-1A-17  (米海軍の規格)

4.測定パラメータ
 図2のようにPODSは粒子測定のみならず、内蔵されたセンサーによりサンプルの液温(0〜90℃)および粘度(10〜434/s)を測定することができる。又、測定時の試料容量、流量、清浄度コード等も粒子データと共に報告することができ、これらのデータは全てバッファメモリに記憶され任意の単位換算が可能である。

図2 PODSの測定結果印字例
5.データ処理
 バッファメモリを内蔵しており、500サンプルまでの測定データを記憶させることができる。記憶されたデータは任意の清浄度分類を選択した上で随時標準装備のプリンタに印刷できる。又、RS-232-Cインターフェースを介して外部コンピュータにデータを出力することができ、専用アプリケーションPODS Wareでデータの管理やレポートの作成等を行うことができる。
図3 PODS Ware(オイル診断ソフト)の表示例

6.試料サンプリング及び測定
 PODSは測定のためにボトルモードとオンラインモードの二つのサンプリングモードを有する。尚、どちらのモードであっても流量制御のための特別な装置を必要とせず、内蔵のフローコントロールシステムにより自動流量制御が行われる。(サンプル流量15〜50mL/min)
(1) ボトルモード
 付属の100mLサンプリングボトルに試料オイルを採取し、バッチ測定を行うことができる。サンプリング圧力源としてはコンプレッサエアー又は携帯用の交換可能な小型CO2ボトルを使用できる。
(2) オンラインモード
 高温、高圧の油圧ラインから直接試料をサンプリングし、測定することができる。油温は0〜90℃、油圧は0.62〜41MPa(6.2〜410bar)まで対応可能である。この方法は間接サンプリングによる諸要素の影響が非常に少ない利点がある。

7.構造
 PODS本体の構造は図4に示すとおり、オールインワン形になっており、従来型液中微粒子計システムと比較して非常にコンパクトにまとまっている。サンプリング圧力源、流量制御装置、測定、データの処理までの全ての機能が一つの筐体に組み込まれている。

図4 PODSの内部構造イメージ(背面より)

 センサーの構造は下図に示す通りである。光学系としては信頼性の高いオーソドックスな光遮断式を採用しているが、処理系を含めた改良により90,000個/mLという従来器に比べ高濃度の試料を測定することが可能である。そのためより広範囲な試料に対応することができる。又、機械的な特徴としてはセルに厚いサファイア材を用い、ステンレス配管との強固なシールによって従来にない配管系の高耐圧性と高耐久性を実現している。(サンプリング圧41MPaまで対応可能)

図5 PODSのセンサーの内部構造イメージ
8ポータブルオイル循環濾過システム
 PODSは先に述べたラボでのバッチ測定や現場でのオンライン測定による品質データ管理だけではなく、ポータブルオイル循環濾過システムUMP45(図6)と組み合わせることにより、更に積極的なオイルの品質管理が可能である。 このポータブルオイル循環濾過システムにより、タンク内や油圧機器内のオイル中の汚染粒子を積極的に除去し、なおかつPODSの各種清浄度クラスによる品質管理が可能である。又、循環濾過ポンプの運転はPODSにより制御されており、PODSで設定された清浄度レベルになるまで自動運転を行うことができる。
図6 ポータブルオイル循環濾過UMP45外観

9.おわりに
 PODSは当社が出資設立した米国オレゴン州ART Instruments Inc.(ARTI社)において開発され、生産されているものであり、当社微粒子計の世界ブランド名でもある。当社技術部においてもARTI社との積極的な技術交換を行い、開発サポート等の援助を行っている。又、出資パートナーである独国Fluid Systems Partners社(FSP社)は油圧フィルター、油圧機器類メーカーであり、PODSの製品開発にはFSP社の持つ多くの市場ノウハウが盛り込まれている。このようにPODSは日独米の3社が、それぞれの得意分野を提供し合い国境を越えた技術交流の産物である。
 ARTI社ではPODS以外にも水用、空気用の優れたパーティクルカウンタが既に開発されている。我々は今後も3社の協力のもとに、さらに優れた製品を世界中に送り出せることを願っている。

-先頭へ戻る-