2000/4
No.68
1. 圧電研究室の新たな出発 2. I-INCE総会とINTER-NOISE 99に参加して 3. ISO/TC43/SC2 フロリダ会議報告

4. フロリダ旅日記

5. AuralizationセミナーとInter-Noise 99に参加して

6. 第7回ピエゾサロンの紹介 7. PODS(ポータブルオイル診断システム)(リオン型式KR-60)
 
 第7回ピエゾサロンの紹介

理 事 深 田 栄 一

 平成11年11月12日に、小林理研に新設された東館2階会議室で第7回ピエゾサロンが開催された。最近話題になっている圧電単結晶の基礎と応用に関する二つの講演があった。

1.ペロブスカイト型圧電結晶 PZN-PT系の圧電現象

桑田 純 松下技研・新素材研究所

 1969年に東京工業大学の野村昭一郎教授等がPZN-PT単結晶の合成とその強誘電性の論文を始めて発表された。PZN-PTとは(1-x)Pb(Zn1/31/3Nb2/3)O3-xPbTiO3固溶体のことであり、PZN-PT((1-x)/x(%)) またはPZNTと略称される。PZN-PT(90/10)の組成比の結晶は菱面体晶―正方晶の相境界で電気機械結合係数k33が75%に達することが報告された。
 桑田氏は1977-1982年に東工大大学院で、PZN-PTの1cm大の単結晶の成長に成功し、結晶構造、誘電性、圧電性の組成や温度に対する依存性を詳細に研究した。その結果、PZN-PT(91/9)単結晶で電気機械結合係数の最高値k33=92%、圧電率の最高値d33=1500pC/N,比誘電率の最高値ε33=25000が得られる事を見出した。この巨大圧電特性の発見に興奮を押さえきれなかったそうである。
文献
(1) S.Nomura, T.Takahasi, and Y.Yokomizo, "Ferroelecrtric Properties in the System Pb(Zn1/3Nb2/3)O3-PbTiO3,"
J.Phys.Soc. Jpn. 27,261,1969.
(2) J.Kuwata, K.Uchino, and S.Nomura, "Dielectric and Piezoelectric Properties of 0.91 Pb(Zn1/3Nb2/3)O3-0.09 PbTiO3 Single Crystals"
Jpn.J.Appl.Phys.21,1298,1982.
(3) 桑田 純、"驚異の圧電結晶PZN-PT(発見の経緯)"
超音波TECHNO'99.9 p.2-9.

2.リラクサ系圧電単結晶の研究動向

山下洋八 東芝・研究開発センター

 桑田氏の巨大圧電単結晶PZN-PTの論文を読んだことと、ご自身が体験した超音波診断の誤診が、この研究に入る契機だったそうである。1992年に小型るつぼでPZNT単結晶の製作を始め、出来る結晶の大きさが1年に5mmぐらいづつ増えて、6年後にBridgman法を用いて40mm×35mm (350g)の円筒状単結晶が作れるようになった。
 PZN-PT単結晶が従来のPZTセラミックに比べて優れている点として、
(1) 電気機械結合係数k33'が82%で約6dB感度が高いこと
(2) 帯域幅が広く、中心周波数を3.5MHzにすると2-5MHzの範囲で使用出来ること
(3) 比誘電率が大きいので50Ωのケーブルへの結合が容易なこと
(4) 弾性率が小さく、音響インピーダンスが
  Z33'=22xと小さいため生体
  (1.5x)との音響マッチングが良いこと
(5) 機械加工性が良いこと
 があげられる。既に、心臓用の超音波プローブが試作され、高分解能断層画像と高感度カラードプラー画像を両立した装置の実現が見込まれている。
 リアルタイムの超音波イメージ診断装置の世界市場は年間25億$と見積もられる。超音波プローブは年間12万個の需要がある。現在の価格はまだ高いが、2インチ直径、0.5mm厚さの結晶板が一枚200$程度で入手出来るようになれば応用が一気に広がると予想される。
 PZNT単結晶の研究は東工大で発足し、その開発は東芝が先鞭をつけた。しかし現状は、アメリカの企業および大学が軍の研究費の援助を受けて急速に進歩している。今後も新しい材料の開発と新しい応用の探索が期待される。アメリカ事情のホームページ
(http://www.darpa.mil/DSO/rd/Materials/Piezocrystals)
を参照。日本で出発し基礎から応用まで発展した研究開発の素晴らしい一例である。わが国で昔から隆盛であった誘電体という研究分野に開いた見事な華といえよう。また診断装置の研究に携わる技術者には人の寿命を延ばすのに貢献するという使命感があると聞き感動した。

文献
山下洋八、斎藤史郎、原田耕一、"リラクサ系圧電単結晶振動子の研究動向"
超音波TECHNO '99,9.p.10-15.

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