2000/1
No.67
1. 耳 順 2. 新世紀に向けて 3. 西暦2000年の年頭にあたって

4. 排水性舗装面の音響特性について

5. 桿秤・天秤・分銅

6. 第6回ピエゾサロンの紹介 7. 超音波眼軸長測定装置 UX-30
 
 耳 順

理事長 山 下 充 康

 財団法人小林理学研究所が文部省の認可を受けて設立されたのは昭和15年(西暦1940年)8月24日、今から60年前の夏のことでした。日獨伊の三国軍事同盟が締結され、大政翼賛会の創立、紀元二千六百年式典の挙行、翌年は太平洋戦争の開戦をむかえようとしている年、日本国内はもとより、世界中が不気味な暗雲に覆われようとしていた時代です。小林理研はそんな時期に設立されました。科学の重要性を説き、科学の更なる振興を視野に捉えて日本国の支えの一助としようとの目的で民間の科学研究機関を設立することを志し、これを実現した設立者たちの心意気には敬服の念を禁じ得ません。設立趣意書の文面は以下の通りです。今日では殆ど使われることのない難解な用語が散見されますが、文章の主旨は十分に読み取ることができます。設立60年目の新年を迎えるにあたり、今日の小林理研の礎を築いた先人たちの志を振り返る一助として、設立趣意書の冒頭の部分と結語の一部を原文のままでここに紹介させていただくことにいたしました。先人の業績を顧みることが21世紀に向かって我々が担うべき使命を正しく認識する為の強固な礎石の一つとなるものと考えます。

「方今皇國文運ノ興隆國力ノ進暢ハ前古其ノ比ヲ見ザル所ナリ。然レドモ今囘ノ事變、今後ノ國際 勢ニ鑑ミルトキハ、更ニ一層新進學徒ノ献身報國獨創的ナル研鑚努力ニ依リ科學ノ新ナル分野ノ開拓應用ニ俟ツベキモノ頗ル多シトス。(中略)仍テ茲ニ財團法人小林理學研究所ヲ設立シ、理學及其ノ應用ヲ研究シテ公益ニ資シ以テ皇國現下ノ要請ニ應ゼントス。今ヤ東亜新秩序ノ建設著々其ノ基礎ヲ固メ八紘一宇ノ聖業次第ニ成ラントス。庶幾クハ微力興國ノ一端ニ貢献スルヲ得バ幸ナリ。昭和十五年八月八日」

 60年前に設立された小林理研ではありますが、太平洋戦争をはじめ幾多の社会的な混乱に出会いながらも設立当時の趣意に遵って「科学する心」を忘れることなく研究活動を続けてまいりました。小林理研の財産は60年に及ぶ長い歴史があってこそ培われ得た研究者の精神であると信じます。ややもすると足もとに蠢く魑魅魍魎に惑わされて近視眼的な対応を優先しがちな昨今の情勢ですが、足もとを固めて背筋を伸ばし、真理を見据え続けてきた科学者の姿勢は歴史ある小林理研の誇りとするところでありましょう。

 人で言えば小林理研は還暦を迎えることになります。論語に曰く「六十にして耳順う」。六十歳は耳順の歳。騒音の多い世の中ですが世間が発する信号に耳をそばだて、耳をかたむけて真理を見失うことがないように努めたいものです。本年も従来にも増してご指導たまわりますように宜しくお願いいたします。

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