2000/1
No.67
1. 耳 順 2. 新世紀に向けて 3. 西暦2000年の年頭にあたって

4. 排水性舗装面の音響特性について

5. 桿秤・天秤・分銅

6. 第6回ピエゾサロンの紹介 7. 超音波眼軸長測定装置 UX-30
       <研究紹介>
 排水性舗装面の音響特性について

騒音振動第一研究室 畑 中  尚

1.はじめに
 道路交通騒音に対する対策方法の一つとして、近年、排水性舗装が注目されています。しかし、その騒音低減メカニズム、低減効果、吸音特性など、排水性舗装面の特性については、まだ完全に解明されているとは言えません。小林理研でも排水性舗装について、吸音率やノーマル音響インピーダンス等を測定し、その音響的な特性について検討を行なっています。ノーマル音響インピーダンスとは材料の吸音特性を決める基本的な物理量で、当所で道路騒音対策業務のひとつとして実施している境界要素法によるシミュレーションにおいても必要となるパラメータです。ここでは、排水性舗装面の音響特性を実測した結果と、これまでに提案されているインピーダンスモデルを用いて計算した値とを比較して示します。

2.インピーダンス予測モデル
 一般に吸音材料として用いられているグラスウールなどの繊維系の材料についてはDelany & Bazleyの実験式1)やそれを修正した幹モデル2)を用いて材料の流れ抵抗からインピーダンスを予測し、音響特性を推定することができます。一方、排水性舗装は、固い骨格(Rigid Frame)と空隙で構成された多孔質材料で、その吸音メカニズムは繊維系の材料とは異なります。このようなRigid Frameをもつ多孔質材料に対して、J.F.Allardは流れ抵抗、空隙率、構造係数という3つのパラメータからインピーダンスを予測するモデルを考案しました3)。流れ抵抗は当所で製作した装置によって測定することができます4)。空隙率は音響式体積計5)を用いるか、材料の容積と質量、骨格を形成する物質の密度から推定することができます。構造係数は空隙の微細構造を表わすパラメータと考えられますが、音響的な特性との関連性については十分に解明されているとは言えません。以下に示す計算ではカーブフィッティングによって推定した値を用いています。

3.排水性舗装サンプルの諸元
 測定の対象とした排水性舗装面は骨材の最大粒径13mm、空隙率20%、舗装厚さ40mmで設計されたものです。サンプルはこの舗装面から厚さ40mm程度に切り出したものを用いました。サンプルの平均厚さは44.5mm、音響式体積計を利用して測定した空隙率の平均値は0.32、流れ抵抗の平均値は4.7 kPa・sec/m2という値になりました。音響特性は、ノーマル音響インピーダンス、垂直入射吸音率、残響室法吸音率について測定しました。ノーマル音響インピーダンスと垂直入射吸音率は、直径100mmφに切り出したサンプルについて測定しました。残響室法吸音率は、50cm角に切り出したサンプルで測定しました(写真1、写真2)。

4.ノーマル音響インピーダンス
 ノーマル音響インピーダンスは、2マイクロホン法を利用して測定しました(図1)。インピーダンスモデルを用いた計算には上述の平均値をパラメーターとして用い、構造係数は6.5という値を設定しました。Allardモデルによって計算した実数部のピークは実測値よりもやや高い周波数にあって鋭い形状をしていますが、傾向はよく似ており200〜650Hz辺りでは両者は同程度の値となっています。計算値の虚数部もピーク、ディップが実測値より若干高い周波数にありますが、1000Hz以下ではほぼ合っています。一方、幹モデルで計算した結果は、細い線で示すように、実測値とは明らかに異なる特性を示しています。 

図1 ノーマル音響インピーダンス測定結果
5.垂直入射吸音率
 垂直入射吸音率は、定在波法を用いて測定しました(図2)。2kHz以上は内径100mmφの音響管の測定上限周波数以上なので参考データとして示しました。排水性舗装面の垂直入射吸音率は、800Hzに80%から90%のピークがあり、1600Hzから2000Hzで一度落ち込んだ後、再び上昇するような特性となっています。Allardモデルによる計算値はピークの値の大きさは違いますが、ピークが生じる周波数や1600Hz付近の落ち込み方など全体の傾向は実測値とよく一致しています。ここでも、幹モデルによる計算値は細い線で示すように実測値とは異なる特性を示しています。 
図2 垂直入射吸音率測定結果
6.残響室法吸音率
 残響室法吸音率はサンプル(3m×4m=12m2)を残響室に敷き詰めて測定しました(図3)。残響室法吸音率は630〜800Hz付近にピークがあり、その値はおよそ55%です。1250Hzで低下した後再び上昇し、1600Hz以上ではおよそ40〜50%になっています。残響室法吸音率のピークが生じる周波数は垂直入射吸音率とほぼ同じです。Allardモデルを用いて計算した統計入射吸音率のピークは800Hzで95%弱となっています。実測値と計算値のピークの値は違いますが、630Hz以下の周波数では良く合っています。 
図3 残響室法吸音率測定結果
7.まとめ
 骨材の最大粒径13mm、空隙率20%、舗装厚さ40mmで設計された排水性舗装面の吸音率は800Hz付近に鋭いピークがある特性であることがわかりました。また、Allardモデルによる計算値は、排水性舗装面のインピーダンスの傾向を比較的良く表し、排水性舗装面のような固い材料の音響特性を予測するモデルとして有効なモデルであると考えられます。排水性舗装は、今後、一般国道などにも広く普及していく舗装技術と思われます。小林理研では、掘割道路や高架道路と遮音壁に囲まれた道路など閉空間に施工された場合に騒音伝搬に及ぼす影響や減音メカニズムの検討、ならびに吸音材料としては空隙率と構造係数を精度よく測定する方法、および骨格と空隙の形状の違いとパラメーターの関係について現在も研究を進めています。

 参考文献
1)M.E.Delany and E.N.Bazley,"Acoustical properties of
  fibrous absorbent materials,"Appl.Acoust.3,105-116(1970).

2)Y.Miki,J.Acoust.Soc.Jpn(E)11,1,19-24(1990).
3)J.F.Allard,"PROPAGATION OF SOUND IN POROUS MEDIA:modelling sound absorbing materials,"
(ELSEVIER APPLIED SCIENCE,London,1993),Chap.5,p.79.

4)畑中 他,日本音響学会講演論文集,807-808(1991.9).
5)田矢 他,日本音響学会講演論文集,503-504(1995.9).

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