1986/10
No.14
1. Presentations from JAPAN are hight grade and superior! 2. 障壁上端部付近の熱が回折減衰に与える影響 3. INTER NOISE '86と12th ICA 4. 航空機騒音(インターノイズ'86)

5. 屋外における騒音伝搬

6. 振動に対する生体反応(ICA)

7. ICAのTechnical Tour 8. MITにおける音響研究 9. 聴覚育成と聴能訓練器
       <会議報告>
 航空機騒音(インターノイズ'86)

1. 空港騒音対策

a) U. Isermann, K. Matchat and E-A. Mueler (Max-Plank Insy. 西独)
 
"シミュレーションによる空港騒音の予測"
 航空機騒音の時間経過は航空機の位置、エンジンパワー、騒音のスペクトル、騒音の指向性によって計算することができる。上空を飛行する航空機騒音の継続時間と曲線のフライトパスについて、その内側と外側の地点における騒音レベルの計算を行った。継続時間については、Lmaxから10dB騒音が小さくなる時間(t2-t1)の1/2とする簡便法が実際に積分を実行した結果と良い対応をすることが判明した。さらに航空機が曲線飛行した場合の騒音暴露レベル、LAEは1〜1.5dB大きくなる地点と小さくなる地点の生ずることが判明した。

b) J. B. Large (ISVR, 英国)
"空港騒音予測における気象状態の影響"
 空港周辺における航空機の地上運転による騒音を予測するに当たって気象の影響が予測されるので、1973-1982年の気象及び測定された騒音のデータについて解析を行った。春夏秋冬及び夜間、朝、日中、夕方に分類し予測結果よりも風によって10dB以上騒音レベルが上昇する割合、10dB以下になる場合及び気温の逆転によって朝方(05.00-07.00)予想よりも5dBと10dB以上大きくなる割合を季節毎に表として示している。 (但しLargeは欠席)

c) T. J. Meyer (ハンブルグ、西独)
 "空港周辺で航空機騒音の影響を受ける住宅地域の規制"
 航空機騒音の周辺住民に与える影響は航空機の形式、飛行ルートに関係がある。今後開発される航空機の形式(低騒音機への変換)を考慮し、影響を受ける地域を避けるルート (コリドール)を設定することによりLAeq55dBA以上の地域の住民の数が可能な限り少なくなるように計画し、それ以上の地域については、土地利用を十分計画する必要がある。

d) W. Herzing (Flughafen Munchen GmbH、西独)
  " 新ミュンヘン空港の計画段階における騒音対策"
 現在のミュンヘン空港(Munich-Reim)は、1939年開港されたが、その後住宅が空港近くまで建設されるにいたった。現在迄にLAeq>75dB (Ldn>77dBに相当)について1300の住宅に1000万マルクの補償を行い住宅の窓の遮音を実施した。またLAeq>67dB (Ldn>69dB)については補償なしに住宅防音を義務付けた。滑走路は延長2804mで飛行場は高度約500mにあり遠距離機の離着陸が困難である。1963年になって新空港の候補地として20地点について検討が行われ、1969年市の東北28kmの地域に新空港を建設する案がまとまった。その後公開ヒァリングが行われ、1979年新空港を建設することになったが建設に当たり空港用地が2000ヘクタールと広大過ぎるとして、1400ヘクタールに縮小することが裁判所の決定として行われた。1984年漸く建設が開始され、1991年開港の予定となっている。新空港については4000mの平行の滑走路2本とし、1500m離して建設することになっている。滑走路の方向、間隔については34のケースについて周辺の集落に与える影響を評価指数、LAeq, Lmax, AI(Articulation Index)等について検討が行われた。この空港については特に防音工事に対する補償をLAeq>67dBA迄とし室内でLmax55dBAになるように配慮した。またLAeq 62dBAの人口は現在の空港周辺の1/4になる予定である。新空港については夜間22.00-06.00の夜間の運行は着陸の28便だけを認めることとし、夜半から05.00については低騒音機による郵便輸送と非常時の運行と延着に限って許可される。

e) G. Bekebrede (National Aerospace Lab. オランダ)
  "軍用空港周辺の運航量と飛行ルートを決定するモニターシステム"
 西ドイツとオランダの国境の近くにある西ドイツのブリュッゲン飛行場の軍用機は、その半分がオランダ領を飛行するので、オランダ国民が影響を受けることになる。オランダ住宅環境省はモニターシステムを設置することを決定し、予備テストとして1984年以来2地点においてほぼ800機について飛行ルートの確認を行い補助の3地点を含めて運航機数確認のための最適条件を検討した。1986年半ばには5地点にモニターシステムが設置されることになっている。

2. 航空機騒音の評価指数
 このセッションはハワイのインターノイズ'84のTechnical Activity Dayにおいて、現在広く使用されているLdnといった指数は必ずしも空港周辺住民の騒音影響の程度を十分表現していないという意見がでてその時の座長Dr. GarbellがOrganizerとなってこのセッションが企画された。これらの意見の概要はDr. Garbellの論文に述べられている。

a) M. A. Garbell (Consultant, USA)
"単一の航空機騒音指数の必要性"
 このセッションでは米国その他の国で広く使用されているLAeq, Ldn, CNEL(カリフォルニア)、NNI(U. K/Europe)、Lmax等の航空機騒音指数について、果たしてこれからが航空機騒音に対する周辺住民の反応を正確に表現しているかどうかという疑問が出されたので、より正確に表現できる指数を開発することについて議論を展開して欲しい。
新しい航空機騒音指数提案の要望:この提案はハワイのInter-Noiseの際に、米国、パイロット協会の騒音対策委員会のChiaman, Deeds氏によって提案され、INCEとして取上げて欲しいと要求があった。現在の指数は単にLdnやCNELで評価することにし、Ldn65dBを限度としているが、より住民反応との対応のよい指数を開発して欲しいというものであった。
Ldn, CNEL, NNIに対する批判:これらの指数は一日の運航機数が30機以上の場合には比較的合理的であるが、それ以下になると一回の運航による騒音レベルが受忍の限度を超過する。またLdn65dBが受忍の限度とされているが、58dBでも耐えられないとする場合がある半面Ldn65dB以上でも苦情の発生しない場合も多い。
運航回数に関する評価方法の批判:運航回数が2倍のとき現在の評価指数では3dBの増加に過ぎないが、騒音を受ける側では2倍のうるささとして感じる。また音の心理評価でも音の大きさが2倍になるのは音のエネルギーが10dB増加することに対応している。
時間帯補正について:現在米国では航空機騒音の規制値をLdn65dBとしているが、夜間の騒音レベルに10dB加算したLdn, 65dB以下でも夜間の航空機による騒音は1機が数百数千の人の眠りを覚まし寝つけなくすることがある。また逆に夜間の数機について10dB加算するためにLdn65dBを超過する地域が広がり空港当局にとって多くの対策費を必要とする。
航空機騒音のスペクトルについて:航空機騒音をA特性で評価しているので低周波の騒音の影響を十分に表現していない。評価指数に低周波音の影響を含めるべきである。そこで筆者は数多くある航空機騒音指数の統一、時間帯補正の再検討、低周波騒音の評価等についてInter Noise 86において各専門家の意見が述べられることを期待する。

b) R. J. Linn (Chairman, S. A. E. A-21)
 "新しい評価指数と問題点"
 現在空港の運用は騒音問題に関して、定められた評価指数を基準として行われているのでここで指数を変更することは必要以上に混乱をおこすことになる。騒音をうるさいと言う人は評価指数を変更したことで満足するとは思われない。航空会社と空港当局は従来の評価方法にしたがって騒音対策を実行し過去15年間に大きな成果をあげてきた。さらにICAO Stage 3の低騒音機に変更すべく努力をしているところで、早急には製造も間に合わないし財政的にもなかなか困難で遅れている。(この講演はスケジュールにはなかったが、飛び入りで行われた)

c) T. N. Duffy (環境保護団体、Washington D. C. USA)
  "Ldnは心理量か音響量か"
 FAAはLdnを航空機騒音の評価量にしているが、これは工学的には良いとしても社会反応の予測法としては適当ではない。Ldn75dBは耐えられない騒音で65dBは受忍限度であり、55dB以下ならば誰もが満足する環境であるというのは全く根拠がない。このような評価方法は環境を改善するどころか混乱を生ずることになりかねない。(欠席、講演なし)

d) K. M. Elderd (Consultant, USA)
"デシベルを使わない騒音暴露量の提案"
 音響屋は専らデシベルを使うが一般の人には全く理解しにくい。デシベルの代りに騒音暴露量(パスカルの2乗)を用いることを提案する。空港の例をとり機種毎の暴露量、それぞれの機種による暴露量の全体に占める割合を計算している。これはまた(暴露量×人数)という騒音量によって地域毎の影響の総量について比較ができ土地利用計画に便利である。

e) R. A. Deeds (パイロット協会、Chairman of Noise, USA)
  "国際航空機騒音基準の必要性"
 筆者はハワイのインターノイズにおいて騒音指数の改善を提唱した。今回はアメリカにおける航空機騒音対策の経過とその結果生じた矛盾について述べた。1979年米国議会は空港における基準の必要性を認識し"Aviation Safety and Noise Act"を通過させた。しかしこれはFAAに対して住民反応と対応のよい評価指数を開発しこれによって土地利用を推進することを命ずるにとどまり、開発された基準を全国的に使用することにはなっていない。それは基準を全国に適用するためには35億ドルの財政的負担を生ずるからであった。むしろFAAにはこのような基準を実行した場合の安全性について検討することをつけ加えて要求している。これに従ってFAAは"Federal Aviation Regulation Part 150"を公布したが、これは各州に対して勧告するに留まったため州はこれを参考にして勝手な規制を実施することになった。 例えばカリフォルニア州はLdnの代りにCNEL(夕方5dB加算した)Ldnを採用し、オレゴン州は土地利用でFAAが勧告したLdn65dBを無視して55dBを基準とする等FAAの勧告よりも厳しい基準を設定し、航空会社に対して安全性をも損なう様な航法の要求を行う場合も生じた。従って筆者としては国として統一された騒音基準を設定することを提唱するもので、もしLdn65dBが適当であるという合意がえられるならばINCEは国際的にもこれを採用するよう提言すべきである。

f) T. E. Firle (環境計画官、San Diego, USA)
  "Ldnの採用は各州の選択:何故?"
 FAAはLdnを提案し65dBを土地利用の限度とすることを勧告し、これらの採用は各州にその選択を委任した。Ldnは航空機騒音の評価方法として不適当であり地方の行政を混乱させた。Ldnの欠点としては、季節的に平均しているが実際には季節による変動が大きいこと、屋外の騒音を規定しているが主として問題になるのは室内であること、夜間の10dB加算の根拠が明白でないこと、夜間の10dB加算は夜間便を極端に制限することになり、米国の場合、西海岸から東海岸行きの出発便の時間帯は午後2時までに制限され国内交通を圧迫することになる。航空機騒音の評価方法についてはさらに多くの要因を考慮して決定すべきである。

g) P.Dunholter (Mestre Grave Association, USA)
"Jackson Hole Airport;ケーススタディLdn, Lmaxによる評価"
 この空港は国立公園の中にあり、一日の便数が定期便B-737平均4.5機、一般機、30機でLdn55dB以下であまり問題はないが、機数が少ないので全体としてのLdnのほかにLmaxに就いて限度を設定している。(LmaxについてはB-737-200以下)

h) J. E. Wesler (FAA, USA)
 FAAは航空機騒音とソニックブームに関する基準と規制について責任がある。現在FAAはEPNL(ジェット機の騒音証明)Lmax(小型プロペラ機の騒音証明)Ldn(空港周辺の土地利用)の3つの評価指数を用いている。Ldnについては、議会の要請により設定したもので1981年FAA "Federal Aviation Regulation Part 150"として公布した。この指数を選定するについてFAAは、都市騒音に関する各省会議において国としての土地利用の指針を設定する作業に参加した。この委員会においてLdnはあらゆる種類の騒音を統一的に表現出来る指数として合意を得たものである。また米国の標準委員会ANSIもLdnを屋外騒音の基準として土地利用の評価量として設定した。その後FAAはこの指数の合理性について空港周辺における社会調査によって確認している。夜間の10dBの加算についてもそれだけの目的で調査を行った結果現在10dB加算以外のより合理的な方法はないという結論になった。最近の調査ではヘリコプターの騒音もLdnとして統一して表現できることがわかった。Ldnに対してはとかく批判はあるが種々の条件における様々な住民反応と完全に相関の良い評価指数を期待することは殆ど不可能に近い。むしろ現在ある評価指数を活用して環境改善に努力することが最良の方法と考える。

i) N. S. Timmerman (Secretary of INCE USA)
 
"市民の航空機騒音の観察"
 ボストン、ローガン空港から2.5マイルに10年間居住した経験から航空機騒音評価の問題点を提起した。この空港の場合、晴天の日に限って空港から西南西の筆者のアパートの上空を朝7―8時と夕方、1分から1分半間隔で飛行しそれ以外の時間帯は比較的頻度が低い。夕方は仕事をしていてあまり気にならないが、休日の朝は非常に睡眠の妨害になる。このような特殊なケースについても1日または1年間の平均をとる、Ldnはうるささや睡眠妨害についての反応を十分反映しているとは言い難い。また朝6時から6時半の間の飛行が2機あるがこれを20機と計算し、7時から7時半の20機と同等というのも納得がいかない。また航空機以外の騒音についての考慮がされていない。

j) I. D. Diamond and J. G. Walker (ISVR, UK)
 "航空機騒音に対する残留騒音の影響;国際比較調査"
 航空機騒音に対する残留騒音の影響について英国:グラスゴー、フランス:オルリー、オランダ:スキポール空港周辺について3国が協力して統一された方法によって調査を行った。騒音暴露レベルと社会反応の比較をしてみると、何れの調査においても残留騒音の影響は比較的少なく、社会反応は航空機騒音に残留騒音を含めた場合がもっとも相関は大きくなる。特に騒音暴露レベルが小さい場合は残留騒音の寄与が大きいと言える。

k) J. Igarashi
  "航空機騒音指数とその適用"
 日本における航空機騒音指数WECPNL設定の経過とこの指数はほぼLdnに対応すること、WECPNLを指標として過去15年間騒音対策が比較的効果的に実施され、WECPNLについての批判は比較的少ないが、航空機騒音に関する裁判等において、平均化の可否、機数の評価(2倍で3dB)の妥当性等について意見のあったことを述べた。LdnについてはSchults,難波、Rylander 等が現在考えられる最善の指数としていることを指摘した。さらに機数の評価についてもRylander NASAのFieldsの報告では騒音指数として(騒音レベル+機数を換算した対数値)とする場合対数の係数は平均として5、大きくても10を甚だしくは超えないとなっている。また2倍の機数は2倍の感覚になるとし、音の大きさが2倍になるのは音のエネルギーで10dBに相当するので、これを機数の対数にも当てはめると、評価指数の式は
騒音レベル+33logN N:機数
となり機数についての重み付けが過大で評価量として極めて不適当である。また低周波騒音を評価に含めることは現在時機尚早であることを述べた。結論としてLdnは漸く国際的にも定着した段階なのでその適用の限界を明確にすることが必要である。機数が少ない場合については必要に応じてLmaxの限度を設定して、(例えば機30機以下の場合、Lmax<90dB等)Ldnの不備を補うこと、夜間便についても各空港の事情に応じて規制を行う等が考えられる。従って全ての要因を含めた単一の指数を期待することは不可能に近い。またLdnを用いる場合でも土地利用の限度を65dBとした場合(米国)と57dB(ほぼ日本の場合)を比較すると前者では住民の苦情が評価指数に向けられるが、後者では評価量に対する批判は比較的少なく、むしろこの限度を達成することに対する要求が強いことは、問題が評価指数の欠点というよりも基準値にあるとも言える。

航空機騒音評価指数に対する批判のまとめ
 このような会議の性質上、それぞれの意見に対する十分な議論はなかったが、全体としてまとめてみると、個人の場合は特殊なケースに着目して評価指数の欠点を指摘している。また反対の意見も特殊なケースについて欠点の指摘がおこなわれているが、それを改善するための具体的提案がない。Eldredのデシベルに代る騒音暴露量は一つの新しい提案ではあるが、暴露量と住民反応との対応という点では問題の解決にはならない。(欠席のためこれについての議論はなかった)このセッションの提案者のDeedsは結局FAAが提案したLdnという指針を各州が勝手に変更していることに対する批判で本質的な反対意見ではない。航空会社及びFAA当局はLdnは十分根拠もあり現在の最善のもので、より優れた指数は期待出来ないということであった。 いずれOrganizerのDr.Garbellがこれらをまとめると思われるのでその結果に期待したい。

(五十嵐寿一)

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