1986/7
No.13
1. 都市環境改善に関する作業委員会(米国) 2. 低周波音の睡眠影響 3. 建築音響研究室 4. 聴力検査室の遮音性能について

5. 中国における騒音事情

       
 都市環境改善に関する作業委員会(米国)
(NSF Workshop on Noise and Built Enviorment)
May 1-3, Graduate School of Architecture and Urban Planning,
UniVersity of California, U.S.A.

理事長  五 十 嵐  寿 一

1.はしがき
 この作業委員会は米国、NSF(NATIONAL SCIENCE FOUNDATION)がスポンサーとなって、昭和61年5月1日から3日にわたりロスアンゼルスのカリフォルニア大学(UCLA)の建築・都市計画学科の主催で行われた。出席者の主なメンバーは、米国側から、H. von Gierke, R. W. Young, C. M. Harries, T. J. Schultz, Paul Schomer, L. Sutherland他約20名、英国からH. G. Leventhall,フランス,D. E. Commins,カナダ,A. Warnock, J. D. Quirt,中国, Maa Dah-You, 香港、Bill Limの諸氏と日本から筆者が出席した。米国側の委員は研究、政府機関、地方行政担当官、主だった音響コンサルタント等で米国西部からの出席者が多く全体で30名程度であった。

 会議は一般講演(General Session)が最初の2日間行われ、毎日午後々半から食事を挾んで夜9時まで作業委員会が開催された。従って参加者のほとんどの人はUCLAのゲストハウスに宿泊した。UCLAはロスアンゼルス市の北北西にあり、広大な敷地に公園や散歩道があり環境にめぐまれた所で5月はリラの花が満開であった。構内にはProf. Knudsenの記念館が完成していた。ゲストハウスはその一角にあり比較的小さな建物であるが日本のビジネスホテルより設備は整っていて、テレビ、バス付きの簡素な部屋が約100室あり学生が管理している。朝食はルームサービスで食堂はない

2.一般講演とその概要
5/1:General Session on Community Noise
Morning Session, P. E. Veneklasen, Chairman
(1)Measurement and Rating Systems:
  R. W. Young (Consultants, Acoustics)
 講演の冒頭、30年前の1956年、米国西部地区の騒音シンポジウム、"Noise in Building"がロスアンゼルスで開催されたが、Youngは今回出席のC. M. Harris, H. E. von Gierkeとともに出席したこと、また亡くなったV. O. KnudSenが"I hate noise"ではじまる講演を行ったことの紹介があった。騒音の測定と評価については、現在等価騒音レベル、騒音暴露レベルで統一されているので、これらの量を正確に測定表示することが必要である。積分平均した時間、使った動特性などを明記する。特にdBは単位記号であって決してdB(A)またはdBAのように単位記号にAを付加することのないよう強調したのが印象的であった。併し米国においてもdBAは比較的使われているようでdBAといって苦笑する場面も度々であった。
(2)Status of Community Noise in the People's Republic of China:D-Y Maa
 中国においては現在騒音はあまり問題になっていないという前置きがあって、騒音環境に関する過去からの経緯、現在の状況の説明があった。(海外情報に詳しく紹介)
(3)Status of Community Noise in Japan:J. Igarashi
 日本における騒音問題の歴史、環境基準設定の経過及び現在の騒音対策、関連する研究を紹介した。
(4)Impact of Noise on Community--Case History:
  B. E. Walker(Consultant)
 カリフォルニヤにおける風車発電とその騒音対策として小型化した場合の例について、Afternoon Session, R. S. Gales, Chairman
(5)Status of Regulatory Controls--State and Local:
  C. R. Bragdon (Georgia Inst. Tech.)
 騒音規制に関する政府と自治体の分担について例を挙げて説明
(6)Enforcement Procedures and Problems:
  F. S. Hafner (Noise Abatement Administrator, City of San Diego)
(7)How to Prove a Noise Abatement Case in the Courtroom:
  J. M. Schilling (Duputy, City Atorney, San Diego)
 (6)(7)はサンヂェゴ市における騒音規制と苦情処理の現状
(8)Airpot Land Use Planning:J. E. Wesler (FAA)
 空港周辺土地利用に関するFAAの対応

5/2:General Session on Building Noise
Morning Session, A. H. Marsh, Chairman
(1)Test Methods and Criteriea:
  A. C. C. Warnock,(NRC, Canada)
 透過損失、吸音率測定の現状と測定結果の評価及び問題点
(2)Sound Insulation Agaist Exterior Noise:
  J. D. Quirt (NRC, Canada)  
 外部騒音と室内騒音の関係、とくに透過損失と現場の遮音測定に係る問題
(3)Low Frequency Noise in Building:
  H. G. Leventhall (Atkins Res. & Development, England)
 建物内における主として交通騒音による低周波騒音の問題、インフラサウンドを含む低周波騒音の評価方法の確立の必要性
Afternoon Session, D. E. Commins, Chairman
(4)Acceptability of Building Vibration :
  H. E. von Gierke (Biodynamics & Bioengineering, WPAFB)
 建物内で受ける振動の短期間の評価方法と1Hz以下を含む振動について研究が必要である。
(5)Building Code and Noise Control:
  K. W. Walker (USG Corporation)
 現在の建築物に関係した騒音の規定とそれを実際に応用しようとする場合の問題点

3.作業委員会(Workshop)
5/1:Workshop:Community Noise
(1)Measurements and Rating Systems.
  P. Schomer, Chairman
(2)Impact on the Community.
  H. E. von Gierke, Chairman
(3)Enforcement, Model Regislation, Litigation.
  R. M. Guernsey, Chairman
5/2:Workshop:Noise in Building
(4)Testing and Crlteria. C. W. Rodman, Chalman
(5)Insulation agaisnt Exterior and Interior Noise and Integration with Building Service.
  R. Moulder, Chairman
(6)Building Codes and their Enforcement.
  C. W. Dietrich, Chaiman
5/3:Workshop Plenary Session, Recommendation prepared by the various Workshop Groups.
 Final Recommendations.

4.作業委員会の概要と提案
 作業委員会は騒音に関する環境を改善するために今後どのような研究及び施策を行うべきかを検討して、NSFに勧告を行うことになっている。(注:NSFは主として民間資本を基本とした科学振興財団である)

 作業委員会は初日のCommunity Noiseと、2日目のNoise in Buildingに分れ、それぞれ3つの作業グループが計画された。参加者約30名が予め希望するグループに登録することになっていた。筆者は初日はMeasurement and Rating, 2日目はTesting and Criteriaのグループに参加した。グループは10名程度づつで夫々自己紹介の後、このグループとして取上げる今後の研究課題を自由に提案し、これをChairmanが整理した上で、項目毎に勧告案としての文章にまとめる作業が行われた。もともと原案となるような印刷物の用意もなく、委員が口頭で意見を述べそれに対して各委員が口頭で修正意見を述べるのをChairmanが文章化するもので、ISO等の会議でもこのような議事の進め方を経験する。従ってChairmanの任務はまことに重大である。しかし今回は一応録音をとり、ChairmanがSecretary(その場できめる)と協議して会議後正確なテキストにする作業を行った模様である。 このように各グループでまとめられた提案は、3日目のPlenary SessionにおいてそれぞれのChairmanから報告され、そこでもいろいろ意見がでて修正及び調整が行なわれた。提案された主なものに次のようなものがある。(印刷物とされていないのでここでは一応筆者のメモによるものである)

(1)環境の評価方法についてビデオによる教育
(2)A特性の評価指数(Ldn等)で正確に評価出来ない騒音の個別の評価方法(低周波音が卓越する場合、スペクトルが著しく異なる場合等)
(3)航空機騒音に対する室内外における評価の違いに関する検討
(4)Background NoiseとAmbient Noiseの明白な定義
(5)過去15年間のこの分野の研究の評価
(6)騒音・振動の総合評価方法
(7)短時間の振動の評価方法
(8)音響材料のRound Robin Testにおける測定機関相互の結果の相違の解明、とくに125Hz以下についての研究の推進
(9)実験室のTLの測定値とField TestにおけるTLの相違についてFlanking Pathsの検出 方法
(10)室内の環境評価の方法として了解度テストの自動化
(11)室内における快適さの評価方法
(12)給排水騒音の評価と測定方法
(13)軽量構造における衝撃音の測定方法

 軽量構造の衝撃音の測定に関しては、カナダのNRCで日本のタイヤによる床衝撃試験を検討していることがWarnockから述べられた。日本家屋の構造と室内で靴を脱習慣があって日本ではこのような方法を採用していることを説明した。これらの他、犬の鳴き声、鉄道の機関車の警笛の評価等が話題になった。
以上の提案は委員会終了後、総括主査のC. M. Harris, UCLAのメンバー、各グループの主査の間で最終調整を行った上、報告書としてNSFに答申されることになった。

注:Prof. C. M. Harris (Clumbia University)は、現在UCLAのVisiting Professorである。


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