1986/1
No.11
1. 老人性難聴を経験して 2. 低周波音評価の周波数特性 3. インターノイズ’85-ミュンヘン-

4. 第4回鉄道および軌道交通システムの騒音に関する国際会議に出席して

5. 聴覚障害児教育国際会議に出席して

6. 補聴器の装用利得についての検討 7. フランス新幹線 TGV

 フランス新幹線 TGV

 インターノイズを終えてジュネーブからパリまで、フランスの新幹線TGVで移動しました。時速270kmが売り物のTGVなので、この機会を楽しみにしていました。このニュースでも五十嵐理事長が海外情報として紹介されたことがありました。日曜日を利用して乗ったせいもあったのでしょうか、乗客の大多数が観光客でした。日本人の団体旅行客が多いのにも驚きました。国鉄の技術計画室の次長をされている菊池氏が同行されたのですが、ポータブルの動揺計を客車の床に置いて揺れ具合を計ったり、加来は加来で騒音計をひっぱり出して車内の騒音レベルの分布を調べて廻ったりで、景色を眺めるどころでは無かったようでした。検札に来た車掌がけげんそうな顔をしていましたが、文句を言われることもなくデータを取ることが出来ました。車両の動揺は東海道新幹線よりもひどいように感じました。確かに270キロのスピードで走る区間もありましたが、車窓からの感じでは想像していたほどの迫力はありませんでした。それと言うのも、日本と違って線路の両側に十分なスペースがとられていて、近くに物が無いからでしょう。高架構造の軌道が建物の近くをかすめて走る我が国の新幹線とは立地条件が全く異なっています。緩やかに起伏の連なる牧草地や畑地の中をさして複雑な線形もなくハイスピードで走り抜けるTGVもパリに近付くと徐行になります。車内はさすがにゆったりとしたくつろぎ空間でした。トイレの中の洗面台の写真を載せておきます。途中でオレンジ色の普通のTGVではなく黄色に塗られたTGVを見かけました。あとで知ったのですがこれは郵便専用のTGVだそうです。

TGVのトイレ・洗面台
東ドイツ・ライプチッヒ
 工場騒音対策関係の仕事で、鉄道騒音のシンポジウムの後、西ベルリンからライプチッヒに3日間滞在することになりました。J.S.Bachの墓のある聖トーマス教会、ゲーテのファウストゆかりの地下酒場アウエルバッハスケラー、音楽愛好家に馴染みのゲバントハウスといった名所で有名なザクセン地方の首都だった町で、古い、いかにもドイツ的な石造り建物が並び、しっとりとした落ち付きが感じられました。西ベルリンからアウトバーンを2時間以上走ればライプチッヒですが、途中の国境の検問所でかなりの時間を費やすことになっているようです。パスポート検査と車の中の検査だけですが、大層厳しく、初めての体験である我々は大変緊張させられました。アウトバーンの検問所には長い車の列が出来てしまい、ドライバー達はエンジンキーを切って順番がくるのを気長に待っています。行列をして待つということには抵抗が無いらしく、ライプチッヒの町中でも長い行列をしばしば見かけました。何の行列かと思って先頭まで歩いて行くと、アイスクリームの店であったり、植木や花の苗を売っていたりであっけにとられました。

 我々旅行者は、他の共産圏の国々がそうであるように特別なホテルに宿泊させられます。ただ、ありがたいのは、ホテルで食事をしないかぎり食費が安い事でした。ビール、ワインを飲んで食事をしても2000円程度ですみます。ぜい沢を望みさえしなければ、生活は保証されています。商店は定刻にばっちり閉まってしまうので不慣れな旅行者は買い物に苦労します。どの店でも同じような品物を販売し、値段も同じで、おまけとかサービスといったことは期待できません。国民の労働意欲の減退が重要な社会問題であるということが理解できるような気がしました。

 街のレストランでいいかげんに注文した料理が兎の肉のソテーだったり、西ドイツマルクと東ドイツマルクとを間違えて使ったり、幾つかの失敗をしましたが珍しい体験をすることが出来ました。

(文責 山下充康)

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