1986/1
No.11
1. 老人性難聴を経験して 2. 低周波音評価の周波数特性 3. インターノイズ’85-ミュンヘン-

4. 第4回鉄道および軌道交通システムの騒音に関する国際会議に出席して

5. 聴覚障害児教育国際会議に出席して

6. 補聴器の装用利得についての検討 7. フランス新幹線 TGV
       <会議報告>
 インターノイズ85' ―ミュンヘン―

所 長 山 下 充 康

 昨年のハワイに続いて85年のインターノイズは西ドイツのミュンヘンで開催されました。ヨーロッパでのインターノイズは、このニュースでも御紹介したことのある83年のエジンバラ以来です。今回は、私どもの研究所から騒音振動研究室主任の加来研究員と私の二人が参加しました。インターノイズに前後して幾つかのサテライト・シンポジウムが計画されていましたが、私たちはインターノイズにつづけてオランダのノルドバイケルハウトで開かれた鉄道騒音関係のシンポジウムに出席することにしました。 (この会議については加来が記事を執筆しております。)

 西ドイツのバイエルン第一の都市ミュンヘンに着いたのは9月16日で、世界的に有名なビール祭りオクトーバ・フェストのパレードの観覧席が街のあちらこちらに準備されていました。祭りを待つ観覧席にふりかかる街路樹の落ち葉に、ヨーロッパの長くて厳しい冬の近づきを感じ、旅愁をかきたてられます。

 翌17日の夕方、参加登録の受け付けデスクが、会議の行われるマクシミリアン大学(Ludwig Maximilian UniverSity)の一角にオープンされました。講演論文やネームプレートを受け取ったり、昼食券を購入したりする大勢の参加者で通路はごった返していました。そんな中での久し振りに会う顔馴染みの方がたとの挨拶は、大きな楽しみの一つです。ハワイで大活躍だったIBMのラング氏の夫妻、ベルリン工科大学のヘッケル教授、デンマークのインガースレヴ教授、PTBのマーチン教授……このニュースの紙上にも以前に御紹介したことのある、且って御世話になった方がたも顔を揃えておられました。

 今回のインターノイズには350件の発表が予定されていて、そのうち100件を越える論文が西ドイツから提出されており、次いで日本の35件、アメリカとイギリスが各31件、オランダ、スエーデン、デンマークと続きます。参加者の人数では西ドイツが200名で最も多く、お隣のフランスが73名、イギリスが64名と上位3国はさすがにヨーロッパが占めていました。参加者の全数は700名で、33ヶ国におよびました。

 18日、ミュンヘン工科大学のツヴィッカー教授の開会の挨拶、INCE会長インガースレヴ教授、ミュンヘン市長のジュバイケル氏の挨拶などに続いて3件の特別講演が行われた開会式の会場には、大学の講堂が当てられたのですが、石造りの、天じょうの高い、いかにも歴史を感じさせる建物で、中に居るだけでも厳かな気持にさせられてしまうようでした。発表の行われる会場は開会式の会場から3ブロックほど離れた所にある2階建ての教室棟で、8つの教室が使われました。

 昼食は大学の学生食堂を利用することになっていて、9マルクの食券を会期3日間分購入しておいたのですが、1日だけで後の2日間はよそで食べることにしました。というのは、700人近くの参加者が長蛇の列を作る事と、会場から2ブロックも歩かねばならない事、そして何よりもまずいことこのうえない料理を出されるからです。ドイツ人の味覚はこんなものかと呆れることしきりで、食べ物には好き嫌いの少ない私でしたが3日間食べ続ける気持ちにはなれませんでした。

 8つの会場でパラレルに研究発表が進められましたが、会場のテーマ別の区分のしかたに今ひとつ工夫が欲しく思われました。同じ時間帯に異なった会場で似かよった内容の発表があることになっていて、どちらを聴くべきか迷う場面が暫しばありました。

 たくさんの興味深い論文がある中で、西ドイツにおける道路交通騒音の予測方法についてのBBM. Gmbhのシュライバー博士の発表は、騒音伝搬に介入する各種の要素を極めて大胆に割り切って取り扱い、予測のありかたに一つの考え方を示すもので、学ぶべき内容のものでした。例えば、騒音伝搬に対する地表面や空気吸収、気象、家屋等の障害物などの影響を比較的単純な関数で予測に取り入れることにしています。会場には人が溢れるほどで、質疑も多く大変注目を集めていたようです。

 私は今回、防音塀に関する研究発表をしましたが、チェアマンがヘッケル先生に当たって、おかげで質疑を助けて預けて大変助かりました。加来の高架構造からの反射音に関する研究発表にも幾つかの質問がありましたが巧みに対応していました。

 ヨーロッパの9月には珍しく、穏やかな天候に恵まれ一度も雨に降られる事もなく、ミュンヘンの秋をたっぷり味わうことができました。

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