1983/9
No.2
1. インターノイズ83に参加して 2. 国際音響会議(ICA) 3. 音響的手法による航空機機種別の試み

4. 音響性能の自動測定について

5. 植込型人工中耳
6. フランス新幹線・TGV 7. CEPの騒音研究施設 8. 土地利用の適合性を決定する環境条件
    
 インターノイズ83に出席して

騒音振動研究室長 山 下 充 康

 パリで開かれた第11回ICAにさきだって7月13日から15日の3日間、スコットランドのエヂンバラでInter Noise 83が開催されました。ICAとInter Noiseが前後して計画されたこと、また地理的にあまり離れていない場所に会場が設けられたことは、音響関係者とくに騒音制御に係わるわれわれにとって、ありがたいことでした。従来はICAとInter Noiseとはほとんどの場合、独立して開催されてきました。今回はICAのサテライトシンポジウムの1つとさえ思えるほど両者の連係がうまくとられていたようです。
 ロンドンのヒースロウ空港の一番端のあまり見栄えのしないゲートがエヂンバラやグラスゴーなどのスコットランドの都市への短距離便に供されています。エヂンバラヘは1日7、8便が連絡していますが、お客が乗れるだけ乗り込むと出発するというシステムで、そのおかげで予定よりも数時間早くエヂンバラに到着してしまいました。スコットランドの中心地としてのエヂンバラはヨーロッパでも屈指の美しい町で小高い丘にそびえるエヂンバラ城からオールドタウンにかけて11世紀の古めかしさがそのまま生活の中にとけ込んでいるといった雰囲気を持っています。9年前にロンドンでICAが開かれたとき、室内音響のシンポジウムがやはりここエヂンバラで催されました。町のたたずまいがその頃から殆ど変っていないのには、東京に生活する人間の眼には奇異に感じられます。9年前のシンポジウムは郊外のエリオットワット大学のキャンパスが使われましたが、今回のInter Noiseの会場には市内の高台にあるエヂンバラ大学の校舎があてられました。大学と言っても一般の住宅やオフィスに囲まれた一画にいくつかの教室が分散していて校門があるわけではなく、大小7つの教室があちこちにちらばっています。

Inter Noise 83会場

 到着したその日の夕方、地図をたよりに登録受付デスクにたどりついて、自分の発表会場や時刻をプログラムの中からさがし出すのに大いに苦労しました。翌13日は朝から開会式にひきつづき一般講演が始まりますので、到着した日は早く寝てしまおうと思っていたところ、エヂンバラは北緯56度、夜の10時と言うのに青空ですからとても眠れたものではありません。
 さて開会式は市長さんやら学長さんの御挨拶とバグパイプの演奏、サザンプトン大学のISVR(Institute of sound & Vibration Research)のM. J. Griffin教授の“Effects of Vibration on Humans”と題する工場作業振動に関するトピック講演などがありました。これにひきつづいて7つの会場に部門別にわかれて一般講演の始まりになるわけですが、まず第1セクションから大変なとまどいが生じました。即ち、11時スタートの講演にデンマークのBruel、西ドイツPTBのMartin、デンマークのIngerslevの3人が並んでしまっています。タイトルを見るとどれも聴きたくなるものばかりで、次のとおりです。
R. Martin ;Methods used in the Federal Republic of Germany for the Measuremeint and Description of Community noise.
P. V. Brüel ;Measurement of Short Duration High Level Impact Noise.
F. Ingerslev ;Noise Measurement-International Standardization.
 内容もさることながらいづれも音響の分野では著名な先生方ですからこの3人が同時スタートの講演をすると言うのでこちらとしてはどれを聴くべきか迷わざるを得ません。私は最も親しくおつき合いをしていただいているPTBのMartin先生の講演にもぐり込みました。彼の講演を選んだ理由は他にもあります。1つは私の講演の座長が彼であること、もう1つはICAのあとでPTBの見学を計画していたのでその打合せや連絡でお世話になること。ドイツ国内の騒音環境に関するレビュウが講演の内容でした。残念ながら会場には聴衆が少く、これはあとで知ったことですがBrüel先生の講演は満員だったとのことです。おそらくIngerslev先生の講演もあまり人が集らなかったことでしょう。全部で295件のレクチャーを3日間にさばくのですからやむをえないこととは言え、第1日のスタートがよりによってこの顔ぶれでこの内容とは、いささかめんくらった次第です。
 講演は内容別に17のセッションに区分されました。中でもCommunity Noiseは大講堂を会場にして3日間フルに使ってさまざまな発表が行われました。私の発表もCommunity Noiseのセッションで、最終日の夕方、しかも最後から2番目、自分の発表が終るまでは中々気を抜くこともできず何とも気の重いエヂンバラになってしまいました。
 9年ぶりに訪れた古都エヂンバラは夏の盛り。8月の上旬に予定されているエヂンバラフェスティバルの準備で大きなスタンドが城の広場に組立てられていました。古い家並みがあたりまえのようなさりげなさで石だたみの細い道の両側に続き、うす黒くすすけた城壁がそびえるスコットランドの11世紀の町エヂンバラは、わずか3日間の滞在でしたが、心の安らぎを与えてくれるに十分なたたずまいを持っていました。―もっともあまり長く居ると退屈な町であるようにも思えますが―。

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