2004/7
No.85
1. 武蔵国分寺跡について記した新聞紙面より 2. PE法による騒音伝搬とレベル変動の予測 3. 音声分析器(サウンドスペクトロメータ)

4. 第18回国際音響学会議(ICA2004)

5. 第22回ピエゾサロン 6. 3軸振動計VM-54と人体振動測定システム
       <技術報告>
 3軸振動計VM-54と人体振動測定システム

リオン株式会社 計測器技術部 蓮 見 敏 之

1.はじめに
 近年、様々な産業用機器から生じた振動による人体影響が注目されています。例えば、乗用車、長距離トラック、建設機械、産業機械、農業用機械などの座席から伝達される振動や、チェーンソウや削岩機などのハンドツールから手や腕に伝達される振動などが代表的なものです。それら振動に長期間曝されることにより、腰痛や脊柱障害、手や指における末梢神経障害(はくろう病)など、様々な障害を発症させる原因となっています。

 国際的には2002年にEC指令が発令され、作業者への振動曝露に関して健康と安全に関する要求が示され、人体振動に関する曝露限界値が定められております。それ以外にも人体振動に関する測定方法や評価に関するISO 2631-1:1997やISO 2631-2:2003などが規格化され、測定器の要求仕様についてもISO/DIS 8041:2003に示されております。

 国内においても、それら国際規格に整合されたJIS B 7760-1:2004(全身振動の測定装置)、JIS B 7760-2:2004(全身振動の評価方法)、JIS B 7761-1:2004(手腕振動の測定装置)、JIS B 7761-2:2004(手腕振動の評価方法)が発行されております。

 今回開発した3軸振動計VM-54は、人体振動の測定、評価を目的とした振動計で、人体振動用のプログラムカードとピックアップ等の構成によりそれら規格に準拠した全身振動や手腕振動の計測を行うことが出来ます。

2.VM-54の概要
 VM-54は、各種人体振動測定用プログラムカードに対応したプラットホーム型3軸振動計で、プログラムカードをVM-54本体に挿入してインストールすることより、そのプログラムの機能が有効になります。プログラムカードをインストールしていない状態においては、3軸の加速度測定が可能で、0.5Hz〜5kHzの測定周波数範囲を持った微振動領域から大加速度測定に対応した振動計となります。

 図1はVM-54の外観写真です。液晶画面を2つ設けて視認性、操作性を向上し、下部に操作パネルを配置しています。入出力端子は上部に配置しており、簡便に操作できるように配慮しています。

図1 VM-54 外観写真

2-1. 各種プログラムカードについて
 プログラムカードはCompactFlashTM(以降CFカード)で構成され、各種プログラムカードを使用することにより人体振動の測定機能が拡張されます。プログラムカードとしては、全身振動測定カード、手腕振動測定カード、船舶振動測定カードの3種類の開発を計画しています。カードの選択により目的に応じた測定を行うことが可能で、図2に示したCFカードスロットにプログラムカードを挿入してインストールを行います。例えば、全身振動用のプログラムカードをインストールした場合には、全身振動に関する測定、評価を行うことが出来ます。
図2 VM-54本体とプログラムカード
 また、測定データをCSV形式でCFカードにストアすることもできるため、現場での大容量の測定データ保存に対応し、保存されたデータをPC上でMicrosoft Excel等の市販ソフトにて表示、編集することが可能です。

2-2. 2種類の液晶画面
 視認性のよいバックライト付液晶を2つ搭載しております(図3参照)。左側のメイン画面では、選択した1方向の測定値をバーグラフとともに大きく表示させており、右側のサブ画面では、3方向バーグラフ画面、3方向測定値画面、演算リスト画面、操作メニュー、リコールデータ画面などの多彩な表示を可能としております(図4、図5) 。

図3 2画面表示(液晶バックライト点灯状態)
 
図4 サブ画面 3方向バーグラフ表示
 

図5 サブ画面 3方向レベル-タイム リコールデータ表示

2-3. 振動ピックアップについて
 全身振動を測定する場合、測定目的や測定対象に応じたセンサを用いる必要があります。乗り物の座席等における振動測定の場合には、一般に図6の座席用シートピックを用います。
図6 座席用シートピック PV-62
 手腕振動の測定では、ピックアップによる質量の影響を抑え、測定周波数範囲が広く大加速度に対応した数グラム程度の超小型のピックアップ(図7参照)を通常用います。
図7 圧電加速度ピックアップ(左から PV-97C, PV-93, PV-85, PV-90B)
 船舶振動においては、船舶居住区の振動評価が対象で、図8に示す新開発の3方向加速度ピックアップPV-83CWを使用いたします。PV-83CWは、船舶居住区測定に配慮し、ピックアップ固定用の磁石がついております。
図8 3方向加速度ピックアップ PV-83CW
 このように、全身振動や手腕振動、船舶居住区振動を評価するためには、測定目的や測定対象に応じた様々なピックアップの接続が必要です。そのため、VM-54ではピックアップに対して幅広い感度設定範囲を有し、電荷型・増幅器内蔵型の両者の圧電式加速度ピックアップに対応しています。

2-4. 周波数補正特性
 ISO/DIS 8041:2003では、人体の支持面に対応して、9種類の周波数補正特性が示されております。図9に各種周波数補正に対応した測定内容を、図10に代表とする周波数補正特性を示します。

図9 ISO/DIS 8041:2003における周波数補正と主な測定について
 

図10 ISO-8041 2003 DIS「人体振動測定装置」の代表的な周波数補正特性
(図をクリックすると拡大図が開きます)

 VM-54では、全身振動測定用のプログラムカードでWk、Wd、Wb、Wc、Wj、Wmの周波数補正特性を備え、手腕振動測定用のプログラムカードでWhの周波数特性に対応いたします。

2-5. 主な評価量
 人体振動における測定値は基本的に加速度であり、以下に示す評価量の算出が求められています。

(1) 補正加速度実効値
   計測時間Tの周波数補正加速度の実効値
  
   : 周波数補正を行った瞬時値
   : 実測時間(s)

(2) 移動加速度実効値
   リニア平均による時間補正特性で、観察時点における周波数補正加速度実効値
  
   : 周波数補正を行った瞬時値
   : 移動平均の積分時間(s)
   : 時間 (積分変数)(s)
   : 観察時点(瞬間的な時間)(s)

(3) 最大過渡振動値(MTVV)
   積分時間1秒のときの移動加速度実効値 の最大値
  
(4) 四乗則暴露量値(VDV)
   補正加速度の瞬時値 の4乗積分値。で表し次式による。
  
   : 周波数補正を行った振動加速度の瞬時値
   : 測定の継続時間
 これらは、振動レベル計や従来の振動計による評価量とは異なっています。VM-54と各種プログラムカードは、これら評価量を簡便に現場で求められるシステムになっています。

3.おわりに
 3軸振動計 VM-54と人体振動測定システムについて紹介させて頂きました。このシステムが人体に対する振動の影響や評価に利用され、健康面や快適性の向上に貢献するよう望んでおります。

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