2004/7
No.85
1. 武蔵国分寺跡について記した新聞紙面より 2. PE法による騒音伝搬とレベル変動の予測 3. 音声分析器(サウンドスペクトロメータ)

4. 第18回国際音響学会議(ICA2004)

5. 第22回ピエゾサロン 6. 3軸振動計VM-54と人体振動測定システム
      <会議報告>
 第18回国際音響学会議(ICA2004)

騒音振動第一研究室 大 久 保 朝 直

 第18回国際音響学会議(ICA2004)が、平成16年4月4日から9日の6日間にわたり京都にて開催された。国内開催ということもあり、小林理研からは、深田顧問、時田監事、山本所長をはじめ、計12人で大挙して参加した。

 私は所用により初日のレセプションには参加できず、研究発表が始まる2日目から参加した。地下鉄で京都市北部へ移動し、駅から出ると、会場である国立京都国際会館の前に咲き誇る桜の木々が眼に飛び込んできた。満開からは若干日数が過ぎていたようだが、海外からの参加者のみならず、日本人参加者の気持ちも華やいだのではないだろうか。学期始めの行事と重なり参加を断念した国内の大学関係者も少なくないものと推測されるが、それでもあえてこの時期に開催することで、日本の伝統的美意識の象徴ともいえる春の京都を海外の参加者に印象づけることができたのではないかと思う。また、会期中盛んに行われていた生け花、習字、茶会、折り紙、着付けなどを体験するSocial Programsも、海外からの参加者には好評だったようだ。

会場となった国立京都国際会館

 会場に入ると、口頭発表が13室に分かれて行われ、さらに並行して3分野のポスター発表が行われており、非常に大きな規模の会議であると感じた。研究発表初日には、以前から楽しみにしていたセッションが2つあった。ひとつは、屋外騒音伝搬についてのセッション(セッション番号Mo.2.F)である。当所の大島研究員の発表を含め、風や温度分布などを含む不均質な空気を想定した数値解析が5件あり、大変興味深かった。その代表格ともいえるPE法について、私はこれまで平面地形でしか行えないものと早合点していたが、計算対象領域をうまく分割および結合することによって盛土地形や遮音壁を含む音場も計算可能であると知り、衝撃を受けた。

 もうひとつ楽しみにしていたのは、遮音壁についてのセッション(Mo.5.F)であった。というのも、最近個人的に非常に興味を持っている先端改良型遮音壁の性能評価法について、2件の発表が予定されていたからである。1件は欧州の規格CENとして審議中の評価法(後日送られてきた資料によると2003年発行のCEN/TSのようだ)の概説で、もう1件はその方法を用いた評価の実例についてであった。しかし残念ながら、1件目は講演者欠席によりキャンセルとなり、肩透かしを食ってしまった。キャンセルで空いた時間の一部を利用して2件目の講演者が評価法の概要を説明してくれたものの、さすがに測定における配置を決めるにあたっての理由や背景といった詳細は聞くことができなかった。しかし、彼らの手法は私の研究と密接に関係するものと確信し、セッション終了後、2件目の講演者に「私の研究はあなた方の手法と深いかかわりがあると思う。明日予定がなければぜひ聞きにきてほしい」などと一方的に熱弁をふるった。彼が私の発表するセッションの座長であることも知らずに。

 翌日、彼の議事進行のもと、私の研究成果を発表した(Tu.2.F)。発表後、質疑の前に、彼らの研究との関連性についてコメントをいただき、感激した(聞き違いでないことを祈る)。実をいうと、前日彼に話しかけたとき、彼の表情から、私の話にそれほど関心を持っているわけではなさそうだということが見てとれた。落ち着いて考えれば、初めて会った人にいきなり「俺の研究は面白いから聞け」といわれれば怪訝に思うのが普通であろう。いささか礼を失した行動であったが、それほど彼らの手法との繋がりを強く感じ、自分の研究の後ろ盾を得た気持ちでうれしく思ったのである。しかしその一方、彼らの成果はすでに正式な規格として発効する寸前まで進んでおり、先を越されたという悔しさを感じたのも事実である。急がなければという気持ちで、身がひきしまった。

 自分の発表を終え、あとは楽な気持ちで他のセッションを見て回った。Keynote Tu.3.X1では、ラウドネス評価における視覚と聴覚の相互作用に関する報告があった。電車の色によってラウドネスの値が最大15%も異なるなど、素人目にも面白い内容であった。Tu.2.F、Tu.4.E、We.4.Dなどでは、アクティブ制御に関して製品化まで視野に入れた発表が数多くなされていた。製品化にあたって避けられない価格の問題に話が及ぶと、どのセッションでも盛り上がりを見せていた。We.2.Fでは、吸音率や音響インピーダンスの現場測定法がいくつか発表された。超過減衰の測定値を理論解に代入し、逆問題的に地表面インピーダンスを推定する方法は面白いと思った。Th.2.B2で香港の学生がBuilding Canyonにおける遮音壁の効果に関する数値解析を行なっていたが、計算対象となっている地形はまさに香港アクション映画で見る景色そのものであった。Keynote Th.3では、楽器音響に関する可視化の実例が発表された。ハーモニカのベンド奏法の仕組みや金管楽器奏者における初級者と上級者の音色の差などについて、ストロボ撮影などを駆使した可視化結果を分析検討するというアプローチが印象的だった。ポスター会場で実演を中心に開催された"Education in acoustics"(We.P1)も興味深かった。大学関係者を中心とする方々が、おそらく普段の授業などで学生にイメージを伝えるために用いているものと思われる、様々な趣向を凝らしたデモンストレーションが披露されていた。授業というのは非常に難しい部類のプレゼンテーションであると思うが、先生方の創意工夫を目の当たりにし、自らのプレゼンテーションにもまだまだ改善の余地があることを痛感した。

“Education in acoustics”
(横隔膜・肺・声帯・声道の模型)

 3日目の夜、バンケットが行なわれた。予定では屋外庭園での開催だったようだが、残念ながら室内で行われた。屋台風のカウンターから、寿司、天ぷら、そばなどが振る舞われ、日本舞踊や太鼓の演奏も披露された。おそらく前述のSocial Programにより着付けたのであろう着物をまとった西洋人も見受けられ、盛会であった。

 4日目の夜には、京都コンサートホールにて記念コンサートが行なわれた。ソリストに日本音響学会会友の千住真理子氏を迎え、籾山和明氏の指揮による立命館大学交響楽団の演奏が披露された。演奏の合間に、東大生研の橘教授が千住氏と籾山氏のそれぞれに質問する形で、演奏者にとってのホールの響きについて話を伺うという時間があった。千住氏は、響きに対して「音が回る」「のびる」など様々な(技術者にとっては奇々怪々な)表現語があること、リハーサルで決めた立ち位置を聴衆の入り具合によって本番前に微調整すること、独奏と合奏で音色を変えることなどについて、ときに実際の演奏を交えながら楽しそうにお話しされていた。ポピュラー音楽の演奏者の間でも、例えば吸音状態が悪いために低音域の定位感や音程感が不明瞭になっている演奏会場に対して「低音が回る」などと表現することがあるが、異なる演奏ジャンルで同じ表現語を使っているなら面白いなと思った。

記念コンサートの様子(ソリスト:千住真理子氏)

 5日間にわたる研究発表がすべて終わった後、閉会式が行なわれた。311件の招待講演を含む1037件の講演論文が集められ、会議には40カ国から1294名が参加したとの報告があった。式の最後に、今後のICAやinter-noiseなど国際会議への参加を呼びかけるプレゼンテーションが各団体からあった。中でも、非常に凝った編集の施されたICA 2007 Madridのプロモーションビデオが印象的であった。情熱の国での発表を目指し、研究を進めていこうと思う。

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