1999/1
No.63
1. 謹んで新年のお慶びを申し上げます 2. 自然の静けさ(Natural Quiet) 3. インターノイズ98に参加して 4. 航空力学教育用「卓上煙風洞」 5. 第2回ピエゾサロンの紹介 6. 振動分析計VA-11/データレコーダVA-11C
       <会議報告>
 インターノイズ98に参加して

騒音振動第2研究室 平 尾 善 裕

 インターノイズ98は、ニュージーランドの南島東海岸、カンタベリー地方にあるクライストチャーチのConvention Centreにおいて、昨年の11月16日から18日まで、3日間の日程で開催されました。当研究所からは山下理事長、山田所長と私の3人が出席しました。私自身は92年、94年に続き3度目の出席でした。

 ニュージーランドは南半球にあるため、我々が住む北半球とは季節が逆転しており、11月は初夏にあたります。そこで当初は秋深まる日本から暖かい夏の国へ出かけるつもりで軽装の旅の準備をしていました。ところが、クライストチャーチは南極への物資輸送の拠点で、南緯約43°に位 置し、日本でいえば北国札幌と変わらない緯度にあります。初夏とはいえ11月の最高気温は20℃以下、最低気温は10℃前後と言う情報を直前になって知り、慌てて荷物を入れ替えることになりました。確かに、開会期間中は、丁度、東京の4月から5月初旬のような過ごしやすい気候で、成田を出発した11月中旬の東京での服装のまま過ごせる程でした。

 クライストチャーチは、人口約35万人、日本でいえば地方都市、あるいは東京近郊のベッドタウンといった規模の町になるでしょうか。とはいっても近郊に成田から直行の定期便が運航している国際空港があるニュージーランド国内第三の都市、ニュージーランドの人口が約300万人(横浜市よりも少ない)余りであることを考えれば有数の都市と言えるのでしょう。市の中心には19世紀半ばに建てられたという尖塔のそびえる大聖堂のほかに、石積みの建物が建ち並び、近くには博物館、植物園などが点在する大きな公園があるなど、緑に囲まれた美しい街でした。町の中心を流れるエイヴォン川には堤がなく、狭いところでは十数メートルの幅しかない曲りくねった小さな川にもかかわらず、豊かな流れを持ち、芝の緑の中を流れる様は、まるで町全体が庭園のようでした。中心部は路面 電車(歩くよりは速い)で30分ほどで1周できるほどの大きさで、近代的な高層ビルは数少なく、郊外に広がる住宅は、ほとんどが戸建て、およそ交通 渋滞など起こりそうもない町でした。インターノイズ98はNoiseとはまるで無縁な感のある、そんな町で行われた会議でした。

 会議場は町の中心部から少し離れた場所に位置し、コンサートホール、劇場などを備え、町の雰囲気とは違って真新しい近代的な施設でした。会議は大小8つの部屋に分かれて同時進行されました。そのため、一部分(全体の8分の1)の講演しか聞くことができないわけですから、あらかじめどの講演を聞くのか、内容を下調べする必要があります。ところが本会議では、昨年までとは異なりProceedingsをCD-ROMで手渡され、印刷されたものは必要な場合に注文、それも会議後郵送という取り扱いになっていました。情報としては、講演申し込み時のAbstractを掲載した小冊子しかありません。重いProceedingsを持ち歩くよりは身軽で講演に集中できるという方もありましたが、英文および英会話の理解力に乏しく(和文も同様)、Proceedingsの図表に頼るところが大きい私にとっては、会議出席前に大きな壁が存在しました。そのため、ほぼセッション名とタイトルを頼りに聞く講演を選択することになってしまいました。実は会議に出発する直前にインターノイズ98のホームページ(www.auckland.ac.nz/internoise98/)上でTechnical ProgramとAbstractが掲載されていることは知っていました。事前に下調べをする機会があったにもかかわらず、自分自身の講演の用意で精一杯だったため、それをしなかったことを会議場で後悔することになりました。以前はProgram もProceedingsも会場で初めて手にしていたことを考えると、ホームページでの情報提供は非常に有り難いことです。その主催者(New Zealand Acoustical Society)の配慮に応えられなかったことが、残念でしかも恥ずかしく思います。せっかくの国際会議なのですから次回からはもう少し余裕を持って準備しなければならないと痛切に感じた次第です。

 会議では、"SOUND AND SILENCE: SETTING THE BALANCE"をテーマとして22のスペシャルセッションを含む40のセッション(表1)に分かれての講演がありました。講演件数は全部で384件と昨年とほぼ同数でしたが、ヨーロッパおよび北米からは遠い国での開催のためか、Vibration Association of New Zealandというセッションが設けられていたことでも分かるように地元ニュージーランドと近隣のオーストラリア、比較的近い日本を含むアジアからの参加が多かったような印象を受けました。ところが事前登録者数(511名、最終参加人数は600名以上)を集計してみると(表2)、確かに北米からの参加者は少数のようですが、ヨーロッパからの参加者は意外に多かったようです。北欧からの参加者の中には飛行機を乗り継いで30時間以上かけて会議に出席された方もいたと聞きました。Standards for environmental noiseのセッションが設けられているように、EU域内の規格の統一、ISOの動向などに関心が集まっていることがその理由の一つなのかもしれません。300人程は入る大きな議場で活発な議論が行われたと聞きました。また、98年はActiveに関する会議が開かれなかったためか、Active noise controlおよびActive vibration controlのセッションで30件の講演があり、インターノイズでActive controlに関する講演をされた方が多かったことも関係があるように思われます。

表1 Technical Program Session

表2 事前登録者数の内訳

 他にはAcoustical imaging of noise sourcesのセッションに代表される多チャンネルのセンサーアレイを用いた騒音源の探査および音場の可視化などに関する講演が多数あったことが目に付きました。なかでも自動車の走行音、主にタイヤと路面 の間で発生する音の可視化をテーマとした講演がいくつもあり、同じテーマをそれぞれ異なった手法によって研究しているところが聞き手としては興味深いものがありました。音場の可視化は古くから研究されているテーマの一つですが、現在は主に移動したり、レベル変動する音源 への適用に注目が集まっていることが良く分かりました。しかし、どの講演においても多数のセンサーと大掛りな装置を用いた力任せの計測という感があり、必ずしも手軽に何処でも行える計測とは思えないところがありました。音場の可視化は騒音制御のためのこれ以上ない有用な情報であることは間違いないと思います。目に見えないものを見せるわけですから、たとえば医学分野のCTスキャン、MRIのように特殊で高価なものになることはやむを得ない事かもしれません。斯く言う私も音場の可視化を多チャンネル化によって実現した経験を持っています。騒音制御に携わるものとして、これらの技術を多くの問題に対して如何に的確に応用していくかを私自身、改めて考える機会となりました。

 本会議のテーマである"SOUND AND SILENCE: SETTING THE BALANCE"の意味を考える時、40のセッションの存在が物語るように騒音制御は様々な分野の技術が相俟って実現されることであり、まさに音と静けさ、そのバランスによって快適な空間を作り出すことであると感じました。そして、世界中の人々が精力的に活動していることを知り、自分がその輪の中に加われたことを喜ばしく感じた3日間でした。

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