1999/4
No.64
1. 20世紀と環境 2. 表面保護をした多孔質材料の吸音特性 3. 磁気録音機の元祖 ワイヤーレコーダ

4. 健康影響に基づいた騒音評価の方法

5. 第3回ピエゾサロンの紹介

  6. サーボ加速度センサ LS-10シリーズ
 
 20世紀と環境

所 長 山 本 貢 平

 このたび当所の所長を命じられ、小林理研の運営について20世紀から21世紀への架け橋役を勤めることになりました。山下理事長と山田常務理事ならびに当所職員に支えられて船出することになりますが、皆様のこれまで以上のご助力、ご支援を賜れば幸いでございます。

 さて、20世紀はあと2年足らずで幕を閉じます。つい2-3年前までは「21世紀へ向けての展望」など、新しい世紀へ大きな期待を込めた記事が各界で賑わっていました。しかし、コンピュータの2000年問題が身近な話題となってきたように、21世紀はもう未来の話ではなく、明日の話になってしまったのです。このような時期、そろそろ20世紀とはどんな時代であったかを振り返ってみる必要があるのではないでしょうか。

 私たちが20世紀を眺めたとき、この100年が急激な科学の進展と技術の革新で特徴付けられることに気が付きます。19世紀末までの1900年間の科学や技術と、19世紀末から現在までの100年間のそれらを比べてみると明らかでしょう。

 もともと、科学はギリシャ時代の「知の学問」としての哲学から始まったと言われています。しかしその後、キリスト教的世界観のもとで客観的世界観というものが遠ざけられたため、科学がしばらく停滞したのです。少なくとも17世紀に哲学者が自我の発見(コギト・エルゴ・スム)をするまでは。その後、反動のように自然界の一般法則が次々に発見され、没価値性の客観的世界観としての科学(サイエンス)が形成されました。一方、19世紀末からは科学を基礎に、価値を内包する技術(テクノロジー)の方も飛躍的に発展しました。つまり2000年以上の長い間、人類にとってつらい仕事であったものが、次々と機械が代わりにやってくれるようになったのです。もう川へ洗濯に行くことも、山へ柴刈りに行く必要もありません。長旅に、歩くことも、籠や馬に乗ることもなくなりました。私たちは今、20世紀の後半を眺めた証人として、高速道路、新幹線、ジェット機が苦もなく目的地に運んでくれるようになったことを知っています。物だけではありません。情報に至っては一瞬にして地球を駆け巡ることを知っています。

 このように急速な技術革新の陰に取り残されたのが地球環境の問題です。そして私たち小林理研が関わってきたのは生活環境の騒音や振動の問題だったのです。我々は20世紀が残した汚染について浄化の方法を研究し、つらい仕事から人間を解放してくれた技術の負の遺産を償う使命を担っていると考えなければなりません。「快適さ・便利さ」を追求することと「地球環境」や「騒音・振動」を浄化することはセットです。

 20世紀のもう一つの特徴は、世界人口の飛躍的な増加です。人類のすべてが「快適さ・便利さ」だけを求めることは、深刻な環境問題につながる恐れがあり、その解決も20世紀を生きた人間が、引き続き担う大きな課題ではないでしょうか。

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