1999/1
No.63
1. 謹んで新年のお慶びを申し上げます 2. 自然の静けさ(Natural Quiet) 3. インターノイズ98に参加して 4. 航空力学教育用「卓上煙風洞」 5. 第2回ピエゾサロンの紹介 6. 振動分析計VA-11/データレコーダVA-11C
     国際シンポジウムRecreational Noise
 自然の静けさ(Natural Quiet)

所 長 山 田 一 郎

 年頭にあたり、謹んで新年のお祝いを申しあげます。旧年中は多大なご支援を賜り有難うございました。本年も相変わらずお引き立て下さるようお願い申し上げます。

 さて新年の話題として昨年11月20日New ZealandのQueenstownで開かれた国際シンポジウムRecreational Noiseについて簡単にご紹介をいたします。会議は標高2000メートル級の山々に囲まれた美しいS字形のWakatipu湖畔のホテルで行われました。ここはスキー、ジェットボート、バンジージャンプが楽しめるリゾートでまさに議題を論ずるにふさわしい舞台でした。会議は同国P.Dickinsonの提唱によりinter-noise 98のサテライトとして開かれたものです。開会式の後、米国L.Sutherlandによる基調講演と2セッション(『航空機騒音と国立講演』、及び『音楽とモータースポーツの影響』)・24件の講演発表がありました(内、2件キャンセル)。その後、自由討論となり、最後にセッションオーガナイザーと Dickinsonによる総括があって終幕となりました。会議の参加者はおよそ14ケ国60人でした。

 会議ではてっきり遊戯場や屋外コンサート等から放射される騒音が周辺地域に及ぼす影響やその対策を中心に発表があり、討議されるものと思っていました。確かに、会議の名誉会長を務めたC.Stevensonの歓迎メッセージにはカーレースやロックコンサートの高騒音による聴力障害の問題に言及してありましたし、『音楽とモータースポーツの影響』のセッションではモータースポーツの騒音影響、テーマパークの騒音対策に関する発表、騒音の聴力影響を論じる発表がありました。しかし、Sutherland の基調講演や『航空機騒音と国立公園』のセッションで発表された講演で論議されたことはそれらとかなり内容の異なるものでした。そのキーワードは Natural Quiet、自然の静けさとでも訳せばよいのでしょうか。単なる無音の世界ではなく、静寂から鳥の鳴き声、落雷まで、自然のあるがままの音環境がNatural Quietであり、これらを保全するということであったと思います。国立公園を訪れる人の9割が静けさを求め、3割の人が新鮮な空気を求めてやってくるという報告がありました。それほどにNatural Quietは重要な要因と考えられているのです。わが国はどうでしょうか。

 レクリエーションというととかく娯楽・スポーツと思ってしまいますが、本来は気晴らし・休養という意味であり、ここでは遊覧飛行等による低レベルの騒音が国立公園を訪れる人達にもたらすannoyance(うるささ)やNatural Quietへの影響が論じられました。通常、国立公園の環境音は40 dBA以下だそうですが遊覧飛行やジェットボート、山小屋のざわめきが公園の静寂を妨げ、時には自然破壊や科学的調査の妨げまで引き起こすというのです。軍用機の低空飛行等に伴う爆音もさることながら、微かに聞こえる10 dBAの騒音まで調査対象にしていることに新鮮な驚きを感じました。そのようなかそけき騒音の影響を評価し、環境保全指針を立てるため、国立公園で来訪者からの聞き取りと騒音測定を実施した結果が報告されましたが、低い騒音レベルでも大きなannoyanceが生じ、音に気づくかどうか(detectability)や気が散るかどうか(distractability)で評価する方が良いとの話でした。音の物理尺度として、LAmaxでなく、遊覧飛行の等価騒音レベルと背景騒音の等価騒音レベルとの差(S/N)を取り、annoyanceやNatural Quietの妨害度で騒音暴露−反応の関係を求めてみると、S/N〜0dBで40%の人が妨害されているという結果もあったそうです。目安として1時間当たり5〜10グループの来訪者がある場合や2〜4機の遊覧飛行がある場合に顕著な影響が発生するという指針が示されましたが、必ずしも安定なものではないようです。なお、低レベルの騒音を測る場合、風雑音が大きな妨げとなりますがその対策として普通のウィンドスクリーンと直径55 cmの大型のウィンドスクリーンを重ねて使用したという報告は興味深いものでした。米国では国立公園を訪れる人々が年々増え、この45年間で3倍になったそうですが、かなりの部分は日本人ではないかと思います。わが国でもこうしたNatural Quietについて考えてみることが必要なのではないでしょうか。本号でinter-noise 98の紹介もありますが、その会議テーマであるSound and Silence; Setting the Balance、音と静寂のバランスを考える恰好の事例と思えます。

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