1999/1
No.63
1. 謹んで新年のお慶びを申し上げます 2. 自然の静けさ(Natural Quiet) 3. インターノイズ98に参加して 4. 航空力学教育用「卓上煙風洞」 5. 第2回ピエゾサロンの紹介 6. 振動分析計VA-11/データレコーダVA-11C
 
 謹んで初春のお慶びを申し上げます

平成11年元旦

理事長  山 下 充 康

 小林理学研究所が財団法人として文部省から設立認可されたのは昭和15年夏(8月24日)のこと、来年(西暦2000年)で満60歳の還暦を迎えることになります。当研究所設立の翌年には太平洋戦争が始まり、これがために小林理学研究所は戦時中最後の認可を受けた財団法人ということになりました。戦時中に設立され、戦後の混乱期を経て今日に至るまでの60年、この研究所が辿った足跡を振り返るとき先輩の方々が遺された幾つもの高度な内容の研究成果には驚嘆させられます。軍事的な要求に応えて推進された研究でしたが、音響センサーに利用されるロッシェル塩の単結晶の作成、さらに発振子用の人工水晶の育成、そして戦後はロッシェル塩を利用したクリスタルマイクロホンやクリスタルイヤホン、クリスタルピックアップなどの音響機器の開発、建築材料の音響特性を研究するための実験設備として国内で初めての本格的な残響室の建設……、このような業績の幾つかは今日の研究活動の中に継続的に受け継がれ、また新たな研究テーマの発芽を促すきっかけを与えるものとして我々の貴重な財産となっています。

 設立当時の小林理学研究所寄付行為の総則第一条「本所ハ財団法人小林理学研究所ト称ス」に続く第二条で、「本所ハ理学及其ノ応用ヲ研究シ公益ニ資スルヲ以ッテ目的トス」とあり、これは基本的に現在の寄付行為と変わるものではありません。60年の間に培われ、育まれてきた「理学及びその応用に係る研究」の精神は今日の我々の研究活動を支える堅牢な礎であり、これが小林理学研究所に特有の活気に満ちた研究の場を形成している大きな要因となっていると考えます。物資の欠乏する戦時中や日本国の基盤が崩壊した敗戦の混乱期に幾多の苦難を凌ぎながら理学を視野の中心にしっかりと捉えて先輩たちが守り続けた科学者の精神があればこそ今日の小林理学研究所が存続していると言っても言い過ぎではありません。

 研究者集団としての小林理学研究所の活動をかえりみるとき、そこには他所には見ることの出来ない大きな特徴が感じられます。それは「ゆとり」と「バランス」だったのではありますまいか。視点を高く据え、視野を広く保っていなければ近視眼的で独善的な研究に留まったに違いありません。「ゆとり」と「バランス」はこれからも小林理学研究所の長所として受け継ぎたいものです。そして小林理学研究所には心身ともに健全で品格の感じられる研究者が集うことを願って止みません。今後とも皆様の御支援と御協力を宜しくお願い申し上げます。

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