1990/10
No.30
1. インターノイズ90[Science for Silence] 2. インターノイズ90'に参加して 3. 水 晶 4. 1/3オクターブバンド リアルタイム アナライザー SA-27型

5. 50周年記念祝賀会にあたって

6. 小林理研設立時の思い出 7. 小林理研と私
       <技術報告>
 1/3オクターブバンド リアルタイム アナライザー SA-27型

リオン株式会社 音測技術部1G 福 島 健 二

はじめに
 1990年代は環境の時代だと言われています。アメニティー(快適環境)という言葉に代表されるように我々を取り巻く環境を従来の公害という観点だけでなくどうしたらより良い環境の創造が出来るのかを考える事が近年の課題になっています。環境の重要な要素となるのが音であり振動で、色々な現場でのデータ計測がこれまで以上に必要になってきているのが現状です。
 今までリアルタイムアナライザーは重たいもので、手軽に片手で持ち運べるというようなイメージではありませんでした。しかしこの度開発した1/3オクターブ実時間分析器SA-27型は重量わずか3Kgとこれまでになく軽量で、性能は従来品を凌いでいます。そこで、このSA-27型が持っている機能や特長を詳細に紹介したいと思います。

1.特長
 体積、重量共に従来型の1/4以下、アルカリ乾電池(単二型×8ケ)及びバッテリーパックの使用、プリンター内蔵、CRTに比べてはるかに軽いバックライト付大型液晶表示器の採用等の、徹底した可搬性の追及により現場測定をこれまで以上に容易にしている。さらに分析結果は、液晶表示器にバーグラフや数値で測定条件と共に表示される。1/3オクターブ分析を基本機能として、1/1オクターブの合成やパワー平均等の演算機能、データの記憶及びそのデータを用いた二次演算、メニュー機能による簡単な設定変更、GP-IBやRS-232Cを用いたコンピュータへのデータの転送など数多くの機能を持っている。

図1 SA-27型の外観

2.SA-27のシステム構成
 信号の入力は1/2インチ口径エレクトレットマイクロホン及びピックアップセットがダイレクトに接続可能である。外部入力としては騒音計、振動計のAC OUTやデータレコーダの出力、その他、各種センサーで変換された電気信号がある。高周波ユニット、低周波ユニット、バンドノイズユニット、その他豊富なユニット群が背面のスロットルに簡単に取り付けられ、ユーザーのニーズに合ったシステムが構築できる。建築音響等の遮音測定で用いられるノイズ信号出力(ホワイト、ピンク)を持つ。

3.フィルターの構成及び画面表示
 分析周波数範囲は基本的に3つのブロックで構成されておりオプションユニットの追加により拡張される。
本体標準装備、中心周波数25Hz〜20kHz(30バンド)、
低周波ユニット、中心周波数0.8Hz〜20Hz(15バンド)
高周波ユニット、中心周波数25kHz〜80kHz(6バンド )
の合計51バンド+オールパス(AP)である。

 高周波ユニットにより超音波領域での分析が可能となり、模型実験や超音波環境の計測等が現場で手軽に行なえるので、この領域に於けるこれまでにない用途が期待される。分析周波数範囲は以下に示すオクターブ毎の設定があり、必要とされる任意の範囲に選択出来る。 0.8〜630, 1.6〜1.25k, 3.15〜2.5k, 6.3〜5k, 12.5〜10k, 25〜20k, 50〜40k, 100〜80k(Hz)実際の分析は図2に示すように、設定条件とともにバーグラフ又は数値でリアルタイムに表示される。

図2 測定画面

4.フィルターの規格
 1/3オクターブフィルターの領域に関しては、国内ではJIS C1513 III型、国外では国際規格であるIEC Pub.225 1966,ドイツのDIN 45652には勿論適合するように作られてきた。これらの規格はほぼ同じようなフィルターの減衰特性の許容幅を規定していた。しかし1986年にアメリカの規格であるANSIが改訂になっておりフィルターの減衰特性の許容幅をホワイトノイズが理想フィルターに入力された時のパワーと同じになる様に少し狭く、かつ許容幅も狭くしている(図3)。この考え方にしたがって種々のスペクトラムスロープ(例えばホワイト、ピンク等)をもつノイズに対する等価パワーと、その誤差に関して規定しており、以下に中心周波数や基準減衰特性の決め方等の内容について若干述べる。

 4-1.中心周波数(fm)
    fm=fr・(U)K
ここでUには2つのTypeが考えられる。
・Base two system (U2)………2のベキ乗
 
・Base ten system (U10)……10のベキ乗
 
b:1/3オクターブで1/3、1/6オクターブで1/6になる係数
k:基準周波数時のバンドを0として任意の±の整数
fr:基準周波数で可聴周波数帯では1kHzが推奨される。
 以上の2つのTypeで2のベキ乗はディジタルフィルターの場合に非常に有効で波形のサンプル時間が倍々の関係になることを利用できる、その反面我々が感覚的に良く馴染んでいる1,10,100等の十進数のピッタリした数値にならない。  
4-2. 帯域端周波数及びバンド幅(Br)
 
 
 
4-3. Qの設定
 バンドフィルターの急峻度を決める係数Qは以下のように規定される。
基準帯域幅係数(Qr)  
 ここでホワイトノイズが加えられた時の理想フィルターに対する誤差をなくする為にはQをもう少し高くする必要がある。その係数をQdとし以下の式で与えられる。
設計帯或幅係数
基準減衰特性
n:Orderとして示されるフィルター
次数の2次を1とする次数で通常はn=3であるがnが大きくなるに従ってフィルターの傾斜は鋭くなる。 フィルター形状はQdに対して±の許容幅を与え、type番号が0〜3と小さくなるに従って規格幅が狭くなる。

図3 フィルターの規格

5.周波数補正特性
 本器の内部では全て平坦(フラット)周波数特性のバントデータのみを扱っており、それに対する周波数補正(ウェイティング)は1/3オクターブの中心周波数に於ける補正係数を掛合わせる事により行なっている。従って測定された同一のデータに対して色々な種類の補正係数を掛合わせる事が出来るので同一データに対する色々な観測が可能である。また後で示すリファレンスメモリと呼ぶ内部メモリーを補正係数として用い、そのデータをユーザが任意な数値に編集する機能も備えているので、任意の周波数補正特性が作りだせるという利点を持っている。
 画面表示では図4に示すように周波数補正したスペクトル表示をするかフラットなままで表示するかの選択が出来る。

図4 周波数補正特性

6.基本演算
 1/3オクターブバンドフィルターを通し、検波器により所定の時定数がかかったレベル出力をデータとして扱い、データ数は表示で選択された32バンドを基本単位としている。基本演算としては以下に示す4つのモードがあり、瞬時レベルを除く演算モードでは、10msのサンプリング間隔で各モード同時に計算される。
 演算は開始,停止,中断,断続が任意の時刻で可能で、トリガー機能を併用できる。 基本演算のモード ・瞬時レベル(INST):瞬時データを100msごとに表示する。
・最大値レベル(MAX):演算区間内のバンドごとの最大値レベル(BAND-MAX)又はオールパス値が最大値レベル時の各周波数バンドのレベル(AP-MAX)
・平均値レベル(P.AVE):演算区間に於ける各周波数バンドごとの平均値レベルで以下の式による。
  
・累積レベル(P.SUM):演算区間に於ける各周波数バンドごとの累積レベルで以下の式による。
  
 *Nは演算に用いた個数で平均時間、Liは瞬時レベル
 演算区間は指定の時間、オールパスレベルが設定レベルを越えている時間の2種類である。指足時間は1〜99秒、1〜99分、1〜99時間のうち,いずれかの二桁の整数を設定し、トリガーレベルは1dBステップで設定する。

7.内部メモリーによる記憶
 電池でバックアップされた1000画面の大容量メモリーを持っており、選択されたハンドレベルの時間経過をグラフ表示出来る(図5)。これを用いればノイズ信号と併用して残響時間の測定も可能である。サンプル周期は1,2,5,10,20,50,100,200,500ms,1,2,5,10Sである。
 この他に基準となるデータの記憶を行なう為のリファレンスメモリーを6画面、及びほとんど全ての設定条件を記憶し読み出すことができるパネルメモリーを5画面備えている。又、リファレンスメモリーは周波数補正の係数としても用いられる。
 大容量メモリーに連続してストアーしたデータを用いて五値演算処理(Lx)、パワー平均の二次演算を行なう事が出来る。

図5 レベル対時間表示

8.その他
 GP-IBを用いた1パターンのデータの転送速度はHP社の300シリーズで16ms、NEC社のPC-98シリーズで30msと非常に高速である。

9.おわりに
 本器のフィルターは全てアナログで構成したが、規格内に入れる為に調整が必要であったり均一なものを作るのは非常に難しい。そこで次回はディジタルで構成し、ダイナミックレンジも広げることを課題としたいと思っています。最後に開発にあたり様々な助言をいただいた、小林理研及び永田建築事務所、その他各方面の方々に深謝致します。

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