1991/1
No.31
1. 国の予算は138デシベル
2. サイレン 3. ノイズレデューサの開発 4. マシンコンディションチェッカー VM-64型
       
 
国の予算は138デシベル

理事長 五 十 嵐 寿 一

 音響の仕事を初めて手掛ける人にとって、デシベルという単位にはなかなか馴染めないようである。もともと音響学でデシベルが使われるようになったのは、人間の音に対する感覚がほぼ対数尺度のデシベルに対応していることと、取り扱われる音の強さの範囲が非常に広範囲にわたっていることによる。音の尺度で基準となる音圧は、1キロヘルツで聞き取れる最小の音、2×10-5パスカル/m2(音の強さ、10-12ワット/m2)で、これが0デシベルである。また音の聞こえる範囲は約130デシベルと考えられているが、可聴音の上限は、基準の音に対してエネルギーで、約1013(10兆)倍になる。

 さて、このように広い範囲を取り扱う量の一例として、現在の日本の通貨がある。この場合の単位は1円で、今年度の国家予算は約66兆円、また、来年度予算としては70兆円が見込まれている。この額は1円に対して、1013〜1014倍で、ほぼ音の可聴範囲の上限の場合に相当する。そこで日本の通貨をデシベルで表現してみたらどうなるであろうか。

 1円を0デシベルとすると、1千円は30デシベル、1万円は40デシベル、百万円は60デシベルとなり、1億円が80デシベル、1兆円は120デシベルである。従って、国の予算はほぼ138デシベルで、1円を基準にして予算の額までをデシベル表示をすると、音の可聴範囲にほぼ匹敵することが分かる。

 通常使われているお金が、20〜40デシベル(100〜10,000円)、個人が特別の出費として懐に響くのが、50〜70デシベル(10万円〜1,000万円)で、音響では騒音が問題になる範囲に相当する。これが企業等の売上額などでは90〜110デシベル(10億円〜1,000億円)で、国家予算になると130デシベル以上となり、音の物差しとほぼ同等になる。

 品物の値段についても、5千円のものが6千円に値上がりした時と、5万円のものが6万円になった時では、ほぼ同じような値上がりの感覚になり、音に対する感覚に近いといえないだろうか。

 音についてのデシベル表示も、このような身近な量に置き換えてみると、案外理解が容易になるかもしれない。

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