1991/1
No.31
1. 国の予算は138デシベル
2. サイレン 3. ノイズレデューサの開発 4. マシンコンディションチェッカー VM-64型
       <研究紹介>
 ノイズレデューサの開発

騒音振動第二研究室 山 本 貢 平

1.ノイズレデューサとは
 遮音壁が最も頻繁に利用されているのは高速道路であろう。都市内のビルの谷間から富士の裾野に至るまで遮音壁のない風景はない。道路利用者にとって遮音壁はうっとうしいものであるが、これらが高速道路周辺の騒音問題に対処すべく活躍しているのである。

 近年、交通量の増加に伴い、高速道路周辺の騒音が益々上昇の傾向にあるといわれている。そのため高い壁の新設あるいは既設壁の嵩上げの必要が生じている。しかし、遮音壁を高くすることは二次的公害、例えば日照の阻害、電波障害などを引き起こす恐れがある。加えて、景観上の問題、さらには高い遮音壁を建てるための基礎構造の変更などといった問題も生じてくる。この様な背景から、壁を高くしなくてもそれと同等の効果を有する新型遮音壁の開発が要求されている。

 ここに、一つのアイデアとして遮音壁の先端部分に吸音材を設置して壁背後の騒音低減を図ろうとするものがある。ノイズレデューサとはこの発想を応用して研究開発した遮音壁先端の吸音性構造物のことである。

 もともと、遮音壁先端に吸音性の材料を設置することで壁背後の音圧をいっそう下げることができることを発見したのは藤原(九州芸工大)であった。藤原は実験ミスからこの効果を見出だした。吸音性遮音壁の実験中、実験値が計算値に比べて異常に低いことに気付き、調べてみると学生が誤って吸音材を壁先端の少し上にはみ出して貼っていたのだ。つまり壁先端の境界条件が、背後音場にクリティカルな影響を与えることが分かったのである。この発見からすでに15年以上経過しているが、壁を高くしたくないという時代の要求から、ノイズレデューサの研究開発は始まった。

2.ノイズレデューサの構造
 ノイズレデューサの開発に当たっては縮尺模型実験、フルスケールモデル実験を経て進めてきた。まずノイズレデューサの形状、サイズ、内部構造の基本的検討を行った。ノイズレデューサの代表的断面形状は図1に示すような円形(a)、三角形(b)、逆三角形(c)四角形(d)である。これらのうち円形、逆三角形、四角形の吸音構造は、確かに壁背後で減音効果を高める作用が観測されたものの、鋭角の先端部が上に向いた三角形(b)は期待されたほどの減音効果を示さなかった。このことから音波が壁先端部を迂回する時、そのパスと先端の吸音材表面が係わる行程の長いほど減音効果が期待できると推定した。そうであればノイズレデューサの断面に鋭角のエッジを持つことは必ずしも有利ではない。むしろ円形の方が回折角ゼロ度以上の条件(音源が見えなくなる条件)では必ず吸音材表面に沿うパスができるので安定して減音効果が得られるものと考えた。(図2参照)さらに吸音面と係わる行程を延ばすためには、ノイズレデューサのサイズ(径)を大きくするのが良いということは簡単に想像がつく。

図1 ノイズレデューサの形状
 
図2 音のパスとノイズレデューサ

 一方、吸音材というのは、吸音性能が高くても遮音性能は必ずしも高くない。つまり、ノイズレデューサを設置したときその中央を音波が透過して観測点に至れば、遮音壁としての効果がその分損なわれることになる。そこで音の透過を防ぐために、ノイズレデューサの中央部に芯となる鉄板を挿入することとした。もちろん模型実験はそのほうが好ましいという結果を与えた。

 いろいろな検討を行った上で最終的に図3に示す構造を採用することとした。なおサイズに付いては径が大きくなる程効果が高くなる傾向があったが、道路への設置を前提としているため、建築限界の余裕などを考慮してφ50cmとした。

図3 ノイズレデューサの構造

 試作品を製作し、スポーツグランドでフルスケール実験を実施した。ノイズレデューサを設置した壁としない壁を比較すると、同一高さの条件(高さ3.5m)に対して、1〜7dBの違い(自動車騒音の周波数特性による)が認められた。この最大値は壁背後1mの直近で得られている。

3.高速道路での試験
 モデル実験によってノイズレデューサの効果がある程度確認できたため、現実の高速道路に於いてノイズレデューサ設置効果の試験を行った。対象とした道路は路肩に3mの吸音性遮音壁が設けられている盛土構造である。この遮音壁にノイズレデューサを150mの区間にわたって設置し、取り付け前後の道路交通騒音を測定した。

 騒音値(L-50)のノイズレデューサ設置前後のレベル差は図4に示す様に、遮音壁から15mまでの距離範囲で2〜2.5dB、15m以上の範囲で1dB以下を示した。ノイズレデューサの設置によって実効的に遮音壁の高さは3mから3.5mに変化したが、通常の壁で0.5mの嵩上げを行っても2dBの騒音低減は計算上見込めない。逆に、2〜2.5dBの減音量を15m以内の道路に近い位置で得るためには計算上2m近い嵩上げが必要となろう。但し、遠方の観測点に対しては、ノイズレデューサを設置しても0.5m分の嵩上げにしか相当しないことには注意しなければならない。つまり、ノイズレデューサは道路遮音壁のすぐ近房に対してのみ有効である。もう少し詳しく言えば音源と壁先端を結ぶ直線の延長と、壁先端と観測点を結ぶ直線の成す角度、つまり回折角の大きいところでノイズレデューサは有効に作用すると考えられる。

図4 L50にみられるノイズレデューサ設置前後のレベル差

 また、ノイズレデューサの設置効果を周波数的に調べた例が図5である。125Hz以上で周波数の上昇と共に減音効果が増加している。

図5 周波数特性にみられるノイズレデューサの設置効果

 さらに、ノイズレデューサの設置効果を騒音の長期観測によって調べた。この長期観測はノイズレデューサ設置前後、それぞれ7日間にわたって午後7時から翌朝午前7時までの間実施し、LAeq、10minを連続して観測したものである。この長期観測はリオンの騒音計NA29に負う所が大きい。我々の仕事は夕方、現地に騒音計を設置し、翌朝それをただ回収するだけであった。NA29は自動的に騒音測定を実施し、その結果を順次自身の中に記憶させるのである。

 測定結果を図6に示す。図の値は7日分の測定値を同一時刻について平均したものである。交通条件の違いによる騒音変化の補正などは行っていない。2か所の測定結果のうち、壁背後6.6mの位置では、ノイズレデューサ設置によって明らかに騒音が低減したことを示している。その差は平均約2dBである。しかし、30m離れた位置のデータはノイズレデューサ設置後の方がむしろ騒音が高くなる傾向を示した。ノイズレデューサ自体がこの様な遠い位置に対してもともと効果が少ないこと、設置後の交通量が設置前より5%増加したことが原因としてあげられる。

図6 長期騒音(LAeq、10min)測定結果

 道路騒音は時々刻々変化しておりその中から2dB程度の効果を確認することはなかなか難しい。しかし、騒音の長期観測は、交通条件の変化や気象条件の違いを含めても、なお有為な違いとして騒音低減量を確実なものとしてくれた。

4.おわりに
 一つの実験ミスが、ノイズレデューサという時代の要求に沿った騒音防止対策装置の開発につながった。しかし、ノイズレデューサそのものの開発はこれで終わったわけではなく、今後多方面での利用例とその効果の調査を経て様々な改良を加えなければならない。また、地道な研究と鋭い洞察力によって、このノイズレデューサを越える新たな構造の騒音防止対策装置の開発を期待したい。

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