1991/4
No.32
1. 騒音問題と土地利用
2. 炭素型送話器(カーボン・マイクロホン) 3. 斜め入射吸音率で得られた吸音パネルの特性 4. インピーダンスオージオメーターRS-32
       
 騒音問題と土地利用
     −土地利用に関する米国の規格:ANSI−

理事長 五 十 嵐 寿 一

はしがき
 騒音に係る環境基準が施行されて10数年を経過し、その間各種の対策が実行されて相当の効果をあげているが、社会活動の発展に伴った新しい問題も発生し、基準の達成に至らないという声も多い。もともと環境基準は人間の活動や休息に影響のない望ましい生活環境を指向するものであるが、これを行政の基準としているのはわが国だけといってもよく、各種の交通機関等に近接する地域においては、基準達成のための対策が困難な場合も多い。米国環境庁は、日本の環境基準に相当する騒音レベルを、人間生活を保護するために、十分に安全を考慮した騒音環境であるとしている。しかし、わが国においては、基準を受忍の限度と受け取られている場合もあって、行政的に混乱を生ずることもある。

 環境基準の設定にあたっては、各種交通機関の場合、音源対策やその規制、及び防音工事等の障害防止対策だけでの基準の達成は困難であると予想され、土地利用方策の推進も大きな柱として要請されていた。しかし、種々の制約があって土地利用の対策がなかなか進まないのが現状である。一方、欧米諸国においては、交通機関の周辺について、騒音と両立する土地利用を進めるための方策がとられている場合が多い。米国においても、騒音と両立する土地利用を実施するために、騒音に対する人間の反応を考慮した騒音指数(Ldn)が、米国標準規格(ANSI‐1980)として発行されており、小林理研ニュースの第2号(1983/9、昭和58年)で、この規格の付録にある土地利用の分類の表を紹介したが、最近その改訂版が発行されたのでその概要を述べる。

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American National Standard
"Sound Level Descriptors for Determination of Compatible Land Use"
(土地利用の適合性を決定するための騒音指数)
ANSI S12,40-1990(ASA 88-1990)(Revision of ANSI S3.23-1980)

1.土地利用の必要性
 ある地域において交通等による戸外の騒音が問題となる時、この騒音と両立する土地利用を計画することが望ましいが、その場合次のような要因を十分考慮する必要がある。

(1) 音響的要因:ある場所において人々が経験する戸外における騒音レベルとその時間変動、及び建物の遮音量、さらに建物内において住人等が発生する騒音の程度。
(2) 音響以外の要因:その場所における人間活動の態様、同じ騒音環境に対する個人個人の反応の相違、受音者の騒音源あるいは騒音を発生する責任者に対する態度、邪魔になる騒音に対する過去の経験による馴れ、騒音によって受ける活動障害の程度、その地域における特別な要求、騒音レベルを下げるための対策の費用と技術的な可能性。

 ある場所における騒音環境と両立する人間活動の評価については、過去多くの方法が提案されている。これらは航空機、車両騒音等の特殊な騒音を対象として提案されているが、各種の音源、異なった地域等、様々な場合に対応して受け入れられる土地利用方法を評価するためには、単一の音源は勿論、各種の音源が複合した場合についても適用できる、ひとつの尺度を設けることが望ましい。この規格ではこのような場合の尺度として、昼夜平均騒音レベル(Ldn)を規定する。このLdnは、一日24時間の平均騒音レベルで、夜間の10時から朝の7時までの間に観測される騒音レベルについては、10dB加算して計算する。土地利用の目的には、通常長期間、1年間の平均Ldnを使用する。これをLdny(yearly day and night level)という。しかし、野外の演奏会のように期間が限られている土地利用については、その期間における平均騒音レベルを用いるのが適当である。

 付録に掲載した土地利用の指針(付図を含む)は、騒音のうるささに関する人間の反応に関する研究に基づいて、それぞれの土地利用と両立する騒音のLdnを示したものである。これらはある地域の人々の騒音に対する反応について、グループとしての統計的な結果に基づいたもので、個人の反応を反映したものではない(通常、同じ音に対する個人の反応には大きな差が観測されるが、グループとして平均することによって騒音レベルとの相関が大きくなる)。ここに掲げる以外の土地利用については、会話に対する妨害の程度に基づいて数値が求められる。この土地利用に対する提案は個々の地域における騒音対策としての費用及び技術的可能性を考慮したものではない。

2.規格の適用
 この規格はある地域において予想される戸外騒音と人間活動の両立性を評価するための音響尺度(Ldn)を定義したもので、これに関連する補助の尺度(騒音暴露レベル等)についても規定する。

3.規格改訂の概要
 土地利用を評価するために使用されるLdnの定義及び年間平均騒音レベル(Ldny)については、旧規格でも規定しているが、今回改訂にあたってLdnに関連する補助単位(例えば騒音暴露、騒音暴露レベル等)について詳細に記述した。

 等価騒音レベル(Ldn)はエネルギーを基本とした騒音暴露について一定の期間を平均し、常用対数をとったものであるが、この基本量を明確に定義することがこの改訂の主要な点である。また、土地利用の目的に使用される騒音指数はLdnで、通常騒音計のA特性を用いて測定されるが、衝撃的でエネルギーの大きい音については、C特性を使用した方がよいという注釈が追加されている。ただし、衝撃的でない騒音が混在する場合の取扱等については触れていない。従って、土地利用の方法(主として付録)については、殆ど変更されていないが、前回省略した部分を追加して記述する。

4.付録:昼夜平均騒音レベル(Ldny)と両立する土地利用
 規格として参考になるのはむしろこの付録であるが、この規格は騒音対策としての費用及び技術的可能性を考慮していないので、この付録は規格の一部ではなく単なる提案(Information)であると断わってある。

A1.土地利用
 この付録は、規格に述べたLdnに対応する土地利用を実施するための情報を提供するものである。戸外の騒音環境に適合する土地利用については、この付録の表によって、予想されたまたは実際に観測されたデータと比較して評価を行うことができる。土地利用はその土地の現在及び将来にわたる使用計画としてのマスタープランに基づくものでなければならない。従って、土地利用の指標はその土地ごとの特殊な事情によって調整または変更されることも必要である。

A2.騒音と両立する土地利用(Compatible Land Use)
   :平均的構成
 ある場所における土地利用は、その地点の戸外騒音が、付図の点々のある枠内か、それ以下であれば適合すると考えてよい。また空白の枠は両立しない場合である。その中間の左斜線(ほぼ適合)のLdnの範囲では、それぞれの自治体が両立する限度を決定することができる。 (例えば、市の都市計画委員会が戸外活動を伴う一戸建の住宅について、Ldn=57dB以下ならば適合とすることもある。従ってこのような市ではLdn=57dB以下ならば、住居地として適合とみなしているということである。)
 この図は各々の人間活動に対して使用される建物では、戸外騒音に対する内外のレベル差として、その地域における通常の建築物であることを仮定したもので、特別の遮音設計を施していない場合である。

A3.遮音を施工することによって適合する場合
 戸外活動が必要でない人間活動の場合は、建物を遮音構造にすることによって土地利用が可能である。図で右斜線の4つの分類は、そのような場合について、地方自治体が遮音することによって適合と指定することが期待される範囲である。このような場合の遮音は、戸外騒音による室内の騒音レベルが45dBを越えないように勧告することが必要である。

A4.その他の土地利用と両立性
 長期にわたらない土地利用の場合は、その特定の期間におけるその地域の騒音がその活動の障害にならないように設定すればよい。この場合、その活動によって発生する音がその地域の土地利用に必要なLdnを越えないことが必要である。

付 図

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あとがき
 1.交通機関の発生する騒音を評価するためには、統一した評価方法を採用することが望ましく、国際的にもこの規格で採用しているLdnを用いることが多い。 (日本においては、道路交通騒音についてはL50、航空機騒音はWECPNL、新幹線騒音はLmaxと異なった評価方法を採用している。ただし、WECPNLについては常数13を差し引くと基本的にはLdnと同等な量で、夕方の時間帯補正を追加したものである。)
 2.この規格においては、一般住居地域についても騒音と両立する騒音レベルとして、Ldn 50〜55dB(付図の点々の枠)、またほぼ両立する範囲として、55〜65dB(左斜線)のように範囲をもって表示している。わが国の環境基準はいずれもほぼこの点々の枠内に相当していると考えてよい。しかし、この規格においてこの分類は基準ではないと付言しているように、騒音に対する評価への対応が、わが国と諸外国では非常に異なっていることが特徴である。従って、騒音に関するわが国の環境基準については、土地利用も含めて柔軟に対応することも今後の課題であろう。

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