2007/1
No.95
1. 新年を迎えるにあたって 2. 能本乙彦先生と小林理研 3. ECAPD'8参加報告

4. 静電気発生器

5. 第27回ピエゾサロン 6. 1/2インチエレクトレットマイクロホンUC-59
       <会議報告>
 ECAPD'8参加報告

圧電応用研究室 児 玉 秀 和

1.はじめに
 9月5日から8日にかけて、フランス・メスにて開催されたThe 8th European Conference on Applications of Polar Dielectrics (ECAPD)に参加したので報告する。

2.会議概要
 ECAPDはヨーロッパを中心とした国際会議で、圧電、焦電および強誘電材料といった分極誘電体の最近の研究および技術進歩について発表し議論することを目的としている。1988年にチューリッヒ(スイス)で第1回会議が開催され、2004年には第7回会議がリベレツ(チェコ)で開催された。
 この第8回会議では国および分野を跨り、研究機関や企業等に属する研究者が互いに情報交換及び協調を図り、先の研究活動をより活性化させることを目的とした。発表件数は口頭発表100件、ポスター発表139件であった。

図1 学会会場
 
図2 学会会場に掲げられたECAPD横断幕

 会議はメス市街より南東に約4 km離れたキャンパスTechnopole Meth 2000にあるENSAM (Ecole Nationale Superieure d’Arts et Metiers)で開催された(図1,2)。ここで、メスについて簡単に紹介する。メス(Metz)はドイツとルクセンブルクの国境に近い、フランス北東部のモーゼル県の県都であり、中心部にモーゼル川が流れる。近年は工業都市として発展を遂げている。本会議の様子は地元新聞紙に掲載された(図3)。

図3 会議開催を紹介する地元紙

 本会議では3つのテーマが掲げられた。第一はMaterial researchで、単結晶、薄膜、セラミックス、ポリマー、複合材料などを対象とする。第二はApplication oriented studies of physical properties of dielectricsで、強誘電性、圧電性および焦電性といった諸性質の他、光学、THzイメージング、超音波などへの応用の可能性を対象とする。第三はDevice researchで圧電アクチュエータ、スマートセンサ・アクチュエータ、光学デバイス、メモリなどへのデバイスを対象とする。なお、会議論文集はレフェリーによる審査により承認されたものについて、雑誌Ferroelectricsに掲載される予定である。

3.音・振動制御に関する発表
 筆者らはPiezoelectric Actuatorsを対象としたセッションで “Vibration Control of Curved Piezoelectric Sheets using Negative Capacitance Circuits”というタイトルで、PZTセラミックコンポジットシート(MFC)1)と負性容量回路を組み合わせ、シートの圧電性を利用した遮音性能制御について口頭発表を行った。偶然にもこの後の2件では、我々の研究と関連する報告が田實佳郎教授(関西大学)およびTomas Sluka氏(リベレツ工科大学)により成された(図4)。田實教授はPZTと負性容量回路を組み合わせ、PZTをクッションのように働かせ、真ちゅう棒を伝搬する音波を遮断した。Sluka氏は負性容量回路をコンピュータ制御し、圧電セラミックスの防振性能と動作安定性を向上させた。

図4 発表のプログラム
(赤で囲われた部位は筆者および関連する発表)

4.興味深い研究報告
4−1.高密度データ記録技術の開発

 本会議で報告された研究のうち興味深いものを幾つか紹介する。一つは長 康雄教授(東北大)による“Ferroelectric nano-domain manipulation for next generation ultrahigh density data storage”である。近年、強誘電体メモリFe-RAMの開発が盛んであるが、この研究では非線形誘電顕微鏡を用いた高密度データ記録法を開発している。直径5.1 nmのドメインを形成することにより10.1 Tbit/inch2の高密度記録を達成すると同時に500 psecの高速記録が得られている。記録媒体としてCongruent LiTaO3(CLT)単結晶が用いられている。幾つかの実例も画像で紹介された。一つは厚さ35 nmの単結晶薄膜に記録されたナノドメインドットの配列で、8.0 nm径のドメインを形成し、10.1 TBit/inch2の記録密度を達成したものである。128×82ビットデータを40 nm厚のCLTプレートに記録した例も紹介された。およそ1 Tbit/inch2の記録密度で人物像を記録した例が紹介された。この研究は次世代高密度情報記録として強く期待される。会場では活発な議論がなされた。
4−2.多孔性ポリマーエレクトレット
 多孔性ポリマーエレクトレット2)の性質およびアプリケーションに関する分野も活発に議論がなされた。このエレクトレット (Electret) は従来のエレクトレットと異なり圧電性及び強誘電性 (Ferroelectric) に類似した性質を持つ。近年、これを用いたアプリケーションの開発はヨーロッパで盛んになされている。本会議では“Ferroelectrets”という名目のセッションが設けられ、2件の招待講演と3件の口頭発表が行われた。このセッションではフェロエレクトレットの基礎から始まり、新たに開発された多孔性フッ素ポリマーエレクトレット、静的・動的応力の同時測定センサの開発等が報告された。
 Bovtun氏 (Institute of Physics ASCR, Czech) による“Air-coupled ultrasonic transducers based on cellular polypropylene ferroelectret film” の報告では、多孔性ポリプロピレンエレクトレットを用いた空中超音波送受信器を開発し、50 cm先に離れた被測定物の画像化に成功したことを報告した。多孔性フィルムの低密度と柔らかさのため、音響インピーダンスが、従来のセラミックス材料やポリマー材料と比べ空気に近づき、空中超音波の送受信の効率が向上したためである。

5.リベレツ工科大学訪問
 会議終了後、リベレツ工科大学に1週間滞在し、Pavel Mokry氏(リベレツ工科大学準教授)と研究報告および今後の共同研究スケジュールについて意見交換を行った(図5)。先の会議でMokry氏らは負性容量回路のコンピュータ制御化およびPZTセラミックスを用いた防振における性能向上が達成したことを示した。Mokry氏の研究グループよりSluka氏が10月から12月までの3ヶ月間、当研究所にて共同研究を行う予定である。

図5 Mokry氏とリベレツ工科大学にて

6.謝辞
 最後に滞在期間中、Ales Richter氏(リベレツ工科大学教授)およびMokry氏には大変お世話になった。ここに厚く御礼申し上げたい。
参考文献
1) 小林理研ニュース No.90,2005年10月
2) 小林理研ニュース No.85,2004年7月

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