2004/10
No.86

1. 原爆の日に想う

2. 残響室法吸音率測定における室形状の影響

3. 計 算 尺 4. Inter-noise2004報告 5. 航空機騒音のリアルタイム情報公開システム
       <技術報告>
 航空機騒音のリアルタイム情報公開システム

リオン株式会社 計測器技術部 岡 崎 道 成

1.はじめに
 航空機騒音は地域社会への影響が大きく、住民の関心も高いと言えます。今回、厚木飛行場周辺の航空機騒音発生状況を住民の方々にリアルタイムで提供する情報公開システムを構築しましたので、紹介いたします。

2.概要
 厚木飛行場では、十数年前から騒音の常時測定を行ってきました。また2000年4月からは16箇所の騒音観測装置と横浜防衛施設局(以下、横浜局)を公衆回線で接続し、1日1回の通信によるデータ収集・集計を自動で行っていました。今回はリアルタイムで情報を公開するため、従来のシステムにプログラムを追加・改修すると共に、ネットワークをVPN(Virtual Private Network)としました。

 データの公開は、綾瀬市役所、大和市役所の各ロビーに設置された専用の情報公開端末にて行います。閲覧できるデータ内容は、全観測点のリアルタイム騒音レベル、及びWECPNLや騒音発生回数の帳票データ(日報、月報、年報)です。

3.ネットワーク構成
 このシステムは、横浜局のサーバー、騒音観測点の騒音計、市役所の情報公開端末をネットワークで結んで実現しています。通信ネットワークとして採用したVPNサービスは、インターネットに接続されていないビジネス専用の地域IP網上で実現されています。これによりセキュリティと拠点ごとに必要な通信容量を確保し、従来の専用線接続と比較して安価なネットワークを組むことができました(表1、図1参照)。

表1 VPNと各拠点との間の回線
 
図1 ネットワーク構成

4.ソフトウエア構成
 横浜局内は、収集系、集計系、公開系の3つのサーバープログラムとデータベース(以下、DB)、および帳票閲覧プログラムで構成されています(図2参照)。

図2 ソフトウェア構成

 収集系プログラムは、16箇所の騒音観測点と常時接続し、瞬時騒音レベル、1秒等価騒音レベル、騒音ピーク、音の到来方向ベクトル、動作メッセージを収集してDBに保存します。プログラムは今回新規に開発しました。開発言語はJAVAで、OSには安定性の評価が高いLinuxを用いました。

 集計系プログラムは、保存された騒音ピークデータを再解析して航空機か否かの確定を行うと共に、データの観測点間の関連性を調べます。また日報、月報などの各種集計値を更新します。プログラムは従来のシステムのものを継続使用しましたが、DBとの接続部分の改修と、時々刻々と入ってくる騒音データを処理する自動集計の機能拡張を行っています。1件の航空機騒音データが発生すると、日報、月報、年報を始め、各種航空機騒音帳票が次々と自動更新されます。

 公開系プログラムは、情報公開端末からの要求に応じてDBからデータを取り出し、公開ページを生成します。また時々刻々と変化する瞬時騒音レベルや航空機騒音発生状況をリアルタイムで自動更新することができます。公開系プログラムも新規開発で、収集系と同じくJAVAで開発され、OSはLinux上で動作しています。

 システムの中核となるデータ管理にはデータベースサーバーを採用しました。従来のDBはシングルアクセスしかできなかったため収集、集計、閲覧を同時に行うことができませんでした。これを複数のプログラムから同時にアクセスできるMySQLに置き換えることにより、常時収集、常時集計、複数個所からの同時閲覧を実現しました。DBは公開系プログラムと同じサーバーマシン上に配置しています。

 この他、既存システムでの帳票を継続して使用するための帳票閲覧プログラムがあり、騒音イベントの生データや日報、月報、年報、1秒LAeqグラフ等の帳票を見ることができます。

5.情報公開画面
 今回の情報公開端末の市役所設置にあたっては、一般の住民の方々にとってわかりやすい画面や操作方法とするのはもちろんのこと、置いていただく先の市役所側にも、できるだけ簡単に運用していただけるように工夫しました。毎日の運用開始時・終了時の操作は、端末PCの電源ボタンを押すだけです。万一の異常発生時にも、横浜局側から端末PCを遠隔操作で再起動することができます。

 公開画面は次のような特徴を持っています。

・ タッチパネルによる簡単操作  
・ 空色を基調とする、統一感のあるデザイン  
・ 大きなボタンと、迷子にならないページ構造  
・ 専門知識があり騒音情報を求める住民、専門知識 がなく触れた住民のどちらにも対応できるように コンテンツを用意。

 公開画面は5つのコンテンツで構成されています(図3〜5参照)。

「現在の騒音」
 厚木飛行場周辺の地図上に、観測点ごとの現在の騒音レベル(2秒毎に更新)と騒音発生状況を表示します。騒音発生状況は、発生騒音が航空機騒音と判定された場合、移動方向に合わせた飛行機マークを表示するものです。

「一定期間の騒音集計」
 日報、月報、年報です。それぞれの期間の騒音発生回数とWECPNLを、表またはグラフで見ることができます。

「騒音や測定方法について」
 「音と騒音」、「航空機騒音の判定」の2つのタイトルについて、楽しく学べるコンテンツです。「博士」「デシ君」「ベルちゃん」の3人が登場し、音の知識をアニメーションでわかりやすく解説しています。

「騒音問題への取り組み」
 騒音問題に対する防衛施設庁の取り組みとして、「学校等の防音工事」「住宅の防音工事」「家屋の移転」「緑地帯の整備」の4つの内容を紹介しています。

「このシステムについて」
 情報公開システムのネットワーク構成や騒音観測装置について紹介しています。

図3 情報公開トップ画面
 
図4 「現在の騒音」画面
 
図5 「音と騒音」画面

6.終わりに
 従来、このような規模の大きなシステムは、大手の電算システムを専門とする会社によって実現されてきました。しかし今回、騒音観測装置メーカーであることの強みを生かして、弊社でもこのようなシステムを構築することができました。

 現在は環境に関する情報を素早く提供することを求められる時代です。弊社の環境騒音観測装置およびその応用システムにおいても、そのような要求に柔軟に対応するべく、今後も注力してまいります。

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