2004/10
No.86

1. 原爆の日に想う

2. 残響室法吸音率測定における室形状の影響

3. 計 算 尺 4. Inter-noise2004報告 5. 航空機騒音のリアルタイム情報公開システム
      <研究紹介>
 残響室法吸音率測定における室形状の影響

建築音響第二研究室 豊 田 恵 美

1.はじめに
 残響室法吸音率の測定は、完全拡散音場の仮定を前提としている。したがって、残響室の拡散性を高めるために、平行壁面をもたない不整形室を用いたり、拡散装置を設置するなどの対策がとられる。しかし、理想的な拡散音場を実現することは不可能であり、残響室の拡散性の違いは、吸音率の測定結果に大きな影響を与えることが知られている。ここでは、残響室の形状および拡散板の設置が吸音率の測定結果に与える影響を、音線法を用いた数値解析によって検討した結果を紹介する。数値解析によれば、実験的検討と比べて条件設定が比較的容易であるという利点を活用することができる。

2.計算方法
 通常、吸音率測定においては残響時間を基に試料の吸音率を算出するが、この計算では空室状態と試料設置状態における残響室内の全音響エネルギーから吸音率を算出する。音線法を用いて、定常状態における室内の音響エネルギーを計算する方法を以下に示す。

 計算対象とする室内において、エネルギー1をもつ総数Mの音線を時刻0に等立体角に放射する。放射した各音線の伝搬過程を微小時間Δtごとに追跡計算する。このとき、ある時刻nΔtに、室を構成する全壁面に吸収されるエネルギーをA(nΔt)とすると、室内に残留する総エネルギーE(nΔt)は、以下のように計算される。
 
ここで、定常状態をシミュレートするために、この総エネルギーMをもつ音源パルスをΔt間隔で断続的に放射したとする。このとき、時刻nΔtにおいて室内に残留する総エネルギーEg(nΔt)は以下のように計算される。

この式は、室内のエネルギーの成長過程を表しており、nが無限大に近づくと、総エネルギーEg(nΔt)を持つ音場は定常状態とみなされる。したがって、定常状態における室内のエネルギーEsは、次式によってもとめられる。

 次に、以上の計算方法に基づき、残響室法吸音率を算出する方法を示す。定常状態において、音響出力Wと室内の全音響エネルギーEsの関係は次式のように表される。

ただし、cは音速、は境界の平均吸音率、Sは室の表面積、Vは室容積である。
 計算において、音源が総数MのエネルギーパルスをΔt間隔で断続的に放射するとき、音源出力Wは次のようになる。

 式(4)(5)から、室の平均吸音率は次のように示される。

 面積sの試料が境界上に設置された場合に、室内の全音響エネルギーがE'sとなったとすると、試料の吸音率をαmとして次式が成り立つ。


ここで、左辺は試料設置状態における平均吸音率である。 以上(6)(7)より、試料の吸音率は次式のように表される。

3.計算条件および検討結果
 室形状の違いによる残響室法吸音率の算出結果の差異について検討した。対象とした室形状をFig.1に示す。全ての形状において、壁面の平均吸音率は0.02であるとし、測定試料はFig.1に示す位置に設置するとした。計算に際し、音源は室隅に設置し、総数M=10,356のエネルギーパルスをΔt=0.05 [sec.] 間隔で200回放射した後の音場を定常状態とみなした。

Fig. 1 対象とした室形状

 試料の吸音率αm=0.2(Case-1), 0.5(Case-2), 0.9(Case-3)に設定した場合の各室形状における吸音率算出結果をFig.2に示す。Case-1の場合には、どの室形状においても算出された吸音率は設定した吸音率とほぼ等しい。一方、Case-2,3の場合においては、算出された吸音率と設定した吸音率との差は大きい。Type 4を除く形状においては、算出された吸音率は設定した吸音率より低く、この差は設定した吸音率の値が高いほど大きくなる。

Fig.2 室形状の違いによる吸音率算出結果

 次に、Type 1,2について拡散板の効果について検討した。大きさ0.9×1.9[m2]の完全反射の平面板を0, 1, 4, 8, 16, 20枚、室内にランダムに設置した。例としてFig.3に、拡散板を8枚設置した状態を示す。吸音率αm=0.9の試料を設置した場合の吸音率算出結果をFig.4に示す。どちらの形状においても、拡散板の枚数を増やすことにより、算出される吸音率は高くなる。拡散板の効果はType 2にくらべ、Type 1の方が顕著である。

Fig.3 拡散板配置例
 
Fig.4 拡散板枚数の違いによる吸音率算出結果

4.まとめ
 室形状の違いによる残響室法吸音率の差異について音線法を用いた数値計算により検討した。これにより、室形状の相違や拡散板の有無によって、算出される試料の吸音率に顕著な差が見られることが示された。
 以上に示した数値解析は、残響室形状の設計や拡散板の配置計画などに有効に利用できるものと考えられる。なお、この結果は幾何音響に限定して得られたものであり、面積効果のような波動によって引き起こされる物理的効果は考えることはできない。

 参考文献  Toyoda, et al. : Effects of room shape and diffusing treatment on the measurement of sound absorption coefficient in a  reverberation room Acoust. Sci. & Tech. vol. 25, No.4 (2004).

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