2002/7
No.77
1. 音の評価としてのA特性音圧レベル 2. 低周波騒音計測用防風スクリーンの開発 3. 油圧サーボアクチュエータを用いた低周波音実験装置の開発 4. 補 聴 器

5. 第16回ピエゾサロン

6. 人工中耳(植込型補聴器)
       <研究紹介>
 低周波騒音計測用防風スクリーンの開発

騒音振動第二研究室 落 合 博 明

1.はじめに
 低周波成分を含む騒音の測定ではC特性もしくはFLAT特性での計測が必要となることがある。このような測定を屋外で行う際には風雑音の影響を受けやすく、特に10m/s〜20m/s程度の風速に見舞われる冬季などには防風対策をしないと風雑音のレベルが100dBを超えることも少なくない。今回、低周波域に主要成分を持つ騒音を長期間にわたり自動測定することになり、風の強い状況でも対象音の測定を可能にする自動監視装置用の防風スクリーン(WS)を開発した。

2.開発の経過
 本研究では開発したWSの有効性を検証するために山麓の5階建て建物の屋上で3回にわたり野外実験を行った。実験を行った建物の屋上は風を遮るものはなく、1、2回目は冬季で瞬間風速20m/sを超す風が吹いた。3回目は初夏となり10m/sの風に止まった。実験はウレタン製の9cmφWS(通常のWS)、20cmφ全天候WSと試作WSによる観測を並行して行い、結果を比較することで有効性を評価した。

 1回目の実験では、通常WSの約4倍の直径を持つ40cmφウレタンWSを試したが、風速が10m/sを超えると急激に風雑音が増加した。そこで考えを変え、果樹園等の防風ネットをヒントにウレタンWSをネットで囲うことを思い付き、試作品を作製した。寸法は100cmの立方体の枠にネットを張り、内部に60cm立方体ウレタンを入れ、その中をくりぬき全天候WSを入れた。2回目の実験では、試作したWSは最大20m/sの風でも風雑音は80dB以下に収まった。しかし、この試作WSには内部のウレタンに溜まった雨がぬけないという実用上の難点があり、その改良を図る必要が生じた。そこでネットを二重にすることを考えた。

3.試作した防風スクリーンの概要
 図1に二度目の試作品の概観を示す。幅2cmのL型金属製フレームで作製した一辺80cm及び60cmの立方体による二重構造の枠組みの各側面に化学繊維のネット(1.59mmメッシュ)を張り、内部には厚み10cmのウレタンフォーム(密度0.03g/cm3)を高さ60cmの円筒形に加工して入れてある。マイクロホンは外径20cmの全天候型WSに取り付けて内部に収納した。なお、立方体の底面と上面には鳥等の侵入を防ぐ意図で、1cmメッシュの金網を張ってある他、設置面に溜まる降雨等の影響を避けるための外枠に脚を付けて10cmほど上に持ち上げた。なお、このWSの音響特性を無響室内で調べた結果、挿入損失はほとんどなかった。

 本研究と同じく低周波領域での風雑音の低減を意図して研究した過去の事例としてSchomerら1)の報告がある。彼らの作ったWSは有孔率400ppm(pores per meter)、2.5cm厚の多孔質材円筒(外径40cm)と有孔率1200ppmの多孔質材球形WS(外径17cm)を組合せており、本研究のWSの内部構造に近いものになっている。本研究のWSの基本的な特徴は外部の二重構造のネットにあり、自然風の多様な乱れがこの構造を通じて除去される。なお、Schomerらの作製したWSはWSと2チャンネル受音による信号処理により、風速10m/s程度の環境下でWSなしの場合に比べて平均32dB程度の風雑音低減が実現されている。

図1 新型WSの概観

4.風洞実験による基礎データの収集
 吐出型風洞を用いて試作WSに使用したネットの特性を計測した。はじめに、風洞の出口より10cmの位置に試験体(ネット)を設置し、風速を変えてネット前面及び背後の風速を測定した。それによると、ネット背後ではネットからの距離が離れるにつれて風速が減少するが、ネットから15cm以上離れると風速はほぼ一定になることがわかった。次に二重ネット構造でネットの間隔による風速の変化を調べたところ、ネットの間隔は5cm以上離せばよいことがわかった。さらにネットが一重の場合と二重の場合(5cm間隔)を比べたところ、ネットを二重にしたほうが一重の場合よりも風速が約3/4に減少することがわかった。

5.試作した防風スクリーンの性能
5.1 建物屋上における実験(3回目の野外実験)
 試作WSの内外に騒音計と風速計を配置してC特性音圧と風速を同時に測定した。図2は、WS外部の風速とWS内部で観測される風雑音のC特性音圧レベルの関係を示したものである。図中にはWSなしと9cmφWSありの条件における既存の実験結果2)を併せて記した。図より、外部の風速が8m/sでもWS内側のマイクロホンでは風雑音はわずかしか増加していない。試作WSは風速8m/sの条件でWSなしの場合に比べて約40dBの低減効果が得られた。また、その後行った車載実験で、WS外部の風速が20m/sのときにWS内部では風速が2.5m/s程度まで減少することがわかった。

図2 風速と風雑音のC特性音圧レベルの関係
-9cmΦWSと新型WSの比較-

5.2風雑音低減効果の確認測定
 低周波数域に主要成分をもつ衝撃性騒音が発生する地域において、試作WSを用いた現場測定を実施し、風のある中でも風雑音に妨げられることなく対象音を観測可能かどうかチェックした。図3は試作WSの内外におけるC特性音圧レベルと風速の測定結果で、図中の●は対象音を示している。測定時、WS外部では2〜9.5m/sの風速が観測されたが、WS内部の風速は1m/s前後となっている。また、外部に設置した通常のWSでは、風雑音により対象音を検出できないが、試作WS内部のマイクロホンでは対象音を確実に捉えていることがわかった。

図3 新型WS内外の風速とC特性音圧レベル

6.むすび
 低周波成分を含む騒音の自動監視装置用防風スクリーンを開発し、野外実験と実験室実験により防風スクリーンの性能を検討した。実験の結果、新型防風スクリーンを用いることにより、風速10m/s程度の条件においても、確実に対象とする騒音を観測できることがわかった。今後、防風スクリーンの小型化や、超低周波音領域における風雑音の低減についても引き続き検討したい。

 参考文献
 1) Schomer et. al., "Blast Noise Monitoring," Noise Control Eng. J. 34, 77-88(1990)
 2)山田、吉川、「騒音計で音を測る際の留意点」、音響学 会誌55、382-385(1999)
 3) 落合、牧野、横田、山田、月岡、福島、「低周波騒音 計用防風スクリーンの開発」、日本音響学会講演論文 集、681-682(1999.9-10)
 4) 落合、牧野、黒澤、福島、「低周波騒音計用防風スク リーンに関する検討」、日本音響学会講演論文集、707- 708(2001.3)
 5) 中島、澤田、福島、小白井、横田、月岡、新居、牧野、 落合、山田、「単発性衝撃音の計測と自動検出につい て」、日本騒音制御工学会研究発表会講演論文集、225- 228(2000.9)

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