2002/7
No.77
1. 音の評価としてのA特性音圧レベル 2. 低周波騒音計測用防風スクリーンの開発 3. 油圧サーボアクチュエータを用いた低周波音実験装置の開発 4. 補 聴 器

5. 第16回ピエゾサロン

6. 人工中耳(植込型補聴器)
       <研究紹介>
 油圧サーボアクチュエータを用いた低周波音実験装置の開発

騒音振動第三研究室 土 肥 哲 也

1.はじめに
 低周波空気振動が人体や建具等に与える影響に関しては依然として未解明な部分が多い。特に発破音やトンネル微気圧波のように衝撃的で低周波成分が卓越している空気振動については人工的に空気振動を再生することが困難なために実験で検討を行うことが難しい状況にある。今回、油圧サーボ方式のアクチュエータによって低周波空気振動を発生し、それを用いて純音並びに実際の低周波音に対する建具の応答等を調査するための実験装置を開発したのでその結果を報告する。

2.実験装置の概要
 自由音場において20Hz以下の超低周波音を数十Pa以上の出力で再生することは困難であり、今回もこれまでに当所が用いてきた手法を踏襲し、密閉された空間内の体積変化に基づいて圧力変化すなわち低周波空気振動を発生することとした。従来の発生装置と大きく異なる点は、加振方式をスピーカから油圧サーボシステムを用いたアクチュエータに変更したことで、これにより1Hz以下の周波数領域まで大きな圧力変化を生じることが可能になった。今回開発した実験装置のシステム構成および仕様を図1および表に示す。

図1 低周波発生装置のシステム構成
 
表 低周波発生装置の仕様

 使用した油圧サーボシステムは、制御信号にピストンの変位を用いることで入力信号(音圧)の大きさと振動板の変位が対応するように加振が行われる。密閉空間で一部の面を振動させたとき、空間内では振動板の変位に対応して圧力変化が生じ(ボイルの法則)、結果として入力信号に等しい音圧波形が再現される。図2に実験装置の概要を示す。加振器は振動板の外側(実験室の屋外)に設置しており油圧を加圧しておくためのポンプは騒音や振動が発生するため実験室とは別の場所に設置した。加振器に取り付ける振動板は発生させる圧力の大きさにより0.25m2、0.5m2、1m2の3種類の大きさから選択することができ、いずれの場合も周辺部とは1mm厚の軟質ゴムを用いて気密性を保つようにした。図2に示す振動板の大きさは0.5m2(1m×0.5m)のもので、この場合は±1mmの変位で概ね125dBの音圧を発生することができる。

図2 実験装置の概要

 ところで、開口部にアルミサッシュ等を取り付けた場合、サッシュが圧力で変形して密閉空間の体積が変化することによる影響やサッシュ枠と襖の隙間や召し合わせの隙間から空気が抜ける影響で入力波形を正確に再現することが困難になる。そのため入力波形は再生波形との差分を周波数軸上で補正し、それを時間波形に戻すことでより実波形に近い空気振動を再生した。図1に見られる周波数補正はこの過程を意味している。ただしこの補正量はサッシュの種類によって異なるため、サッシュが変わるたびに補正を行う必要がある。

3.低周波空気振動の再生
 今回開発した低周波音発生装置を用いて再生した1Hzトーンバースト、新幹線がトンネルに突入した際に反対側坑口で発生するトンネル微気圧波、及びトンネル発破音の3例を図3(a)〜(c)に示す。(a)の1Hzの再生波形から明らかなように、この装置が20Hz以下の極めて低い超低周波音を安定して再生できることが分かる。(b)(c)の微気圧波と発破音の卓越周波数は前者が5Hz程度、後者が50Hz前後と大きく異なるが、いずれの場合も実波形に比較的よく一致した波形が再生されている。

図3 本装置を用いて再生した低周波音

 このように今回開発したシステムが低周波空気振動の再生に優れ、この種の実験装置として有効であることが確認できた。今後は、今まであまり解明されていなかった衝撃性を持つ低周波や1Hz付近の超低周波音に対する建具等の応答を調査するとともに、人体に対する生理影響や心理影響についてもこの装置を応用して研究を進めて行く予定である。

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