2001/10
No.74
1. 騒音に関する社会調査の解釈 2. 蓄音機ピックアップ 3. 音響式残量計の開発 4. 第13回ピエゾサロン 5. LD励起個体レーザーを光源とする気中微粒子計 KC-22A
       <技術報告>
 LD励起個体レーザーを光源とする気中微粒子計 KC-22A

リオン株式会社 環測技術部 水 上  敬

1.はじめに
 高集積化、微細化が進む半導体工業やデータストレージ分野では、歩留まりに影響を与える粒子がより微小になってきている。また空気中の浮遊粒子には細菌が付着しやすく、医薬・食品分野などでも清浄度の高い環境が要求されている。
 これらの産業では微粒子が管理された清浄度の高い空間をつくり出すクリーンルームが求められており、その管理には操作が容易で実時間測定が可能である微粒子計が広く用いられ、近年、より重要性が高まっている。

 空気中の微粒子を測定するには光散乱方式の気中微粒子計が利用され、その光源としてはハロゲンランプ、He-Neレーザー、半導体レーザー(以下LD)などが用いられている。このたび、新光源としてLD励起固体レーザーを用いた気中微粒子計KC-22A(図1)を開発したので報告する。

図1 KC-22A外観

2.従来技術:He-Neレーザー光源
 気中微粒子計において0.3μmより微小な粒子を検出するセンサーの光源として、He-Neレーザーが多く採用されている。図2に構造を示す。この方式では、高エネルギーなレーザー共振器内部に試料空気を導入できるという利点がある。これにより、0.1μmの微粒子を検出することが可能であり、弊社でもこの方式でKC-18、KC-21Aといった微粒子計を発表し、多大な支持を受けている。しかしこの構造には以下のような問題点がある。

  (1)ガスレーザー管が大きいため、微粒子計自体が大きくなる。
  (2)高圧電源が必要である。
  (3)出力制御ができない。
  (4)レーザー管がガラス製であるため、機械的強度が弱く、レーザーアライメントが狂いやすい。
  (5)レーザー管内にガスが封入されており、寿命は通常数万時間である。またレーザー管からのガス抜けも問題となる。

 これらを解決することを目的とし、新たな光源としてLD励起固体レーザーを採用した。

図2 He-Ne レーザー共振器

3.LD励起固体レーザーの採用
 レーザーはその媒質から、気体レーザー、液体(色素)レーザー、固体レーザー、半導体レーザーの4種類に大別される(前述He-Neレーザーは気体レーザーである)。このうちの固体レーザーは、レーザー媒質として結晶やガラスを使用したものである。固体レーザーの特徴としては、小形の装置から大出力が得られる、短時間パルス光が得られる、Qスイッチ発振によってピークパワーの大きな出力が取り出せる、機械的に丈夫である、といった点がある。固体レーザーは通常フラッシュランプやキセノンランプ、LDなどにより励起される。

 LD励起固体レーザーは、単波長のLD光を固体レーザー結晶に照射して励起するもので、幅広いスペクトルを持つランプによる励起と比較すると、エネルギーロスが少なく高効率で、低電力で済む。またLDの出力を変えることでレーザー出力を容易に調整することができる。

 固体レーザー結晶としては、Nd:YAG、Nd:YLFなどがあるが、KC-22Aには「Nd:YVO4」という結晶を採用した。この結晶はNd:YAG、Nd:YLFに比べて、励起波長の依存性が低い、レーザー発振のしきい値が低い、励起光の吸収率が高いため結晶を小さく出来る、といった利点がある。

 ここまでを整理すると、先ほどのHe-Neレーザーの特徴と比較し、

  (1)光源の構成としてはLD、レンズ、結晶、ミラーのみであり、センサーの小型化が可能
  (2)LD駆動により、低電圧で済む。
  (3)LD出力を制御することでレーザー出力の制御が可能。
  (4)センサーの小型化により機械的強度に優れ、アライメントも狂いにくい。
  (5)寿命はLDにのみ依存しLDを交換するだけで結品その他は半永久的に使用できる。

 と、すべての項目を改善することができる。

4.LD励起固体レーザーの発振原理
 Nd:YVO4結晶を用いたLD励起固体レーザーの発振器構造を図3に示す。Nd:YVO4結晶には、LD側の端面にLD光波長である808nmに対する反射防止膜と、固体レーザーの発振波長である1064nmの高反射膜を施し、もう一方の面には1064nmの反射防止膜を施している。また外部ミラーには1064nmの反射膜を施す。

 LDから出射された波長808nmのレーザー光はレンズによって集光され、結晶に照射することで励起状態となり、結晶のLD側端面と外部ミラー間で1064nmのレーザー共振がおこる。通常、外部ミラーには5%程度透過するミラーが使用され発振光を最大限に取り出すよう設計されるが、今回の使用法ではミラーに高反射膜を施し共振器内部が高エネルギーになるよう設計している。

図3 LD励起固体レーザー共振器

5.センサー構造
 KC-22Aの粒子検出センサーは、前述のHe-Neレーザーを光源としたセンサーと同様、高エネルギーな共振器内部に試料空気を導人し検出領域としている。試料空気を安定して導入しかつセンサー内部汚染を防ぐため、鞘状に試料空気を包み込むシースエアーを有し、また結晶とミラーの清浄度を保つためパージエアーを流している。
 Nd:YVO4は3×3×1mmの大きさで、前述の通り両面にコーティングを施している。また外部ミラーには高反射なコーティング(反射率約99.8%)を施している。LDには波長808nm、最大出力1Wのものを使用する。

6.センサー性能
 LDの出力を900mWとした場合、外部ミラーからの透過光は約50mWで、共振器内部のパワーはその100倍以上と推定される。
 0.001μmのポリスチレンラテックス(PSL)標準粒子を含んだ試料空気を流量2.83L/minで測定したとき、清浄空気導入時の信号をノイズとしたときのS/N比は2.0以上を確保している。
 またLD励起固体レーザーを採用したことは大きな副産物をもたらした。粒子径に対する光散乱強度の応答カーブが、光源波長1064nmでは0.6μm付近まで安定しており、He-Neレーザー(波長633nm)を光源とした場合に比べて、0.3μm以上の粒子に対して粒径を区分する精度が高いことを示している(図4参照)。
 さてこのKC-22AはKC-21Aの後継機という位置付けで設計されたものである。この2機種を比較してみよう。
 粒径区分は共に0.1μm、0.15μm、0.2μm、0.3μm、0.5μm。定格流量はKC-21Aが3L/minに対し、KC-22Aは2.83L/minに変更されている。これは粒子計測でいまだ慣習的に用いられている立方フィートの単位に合わせたものである(0.1立法フィートは約2.83L)。
 図5に大気塵を希釈した試料空気を吸引したときの測定結果を示す。0.1μmの計数値は約15%の差があり、これは校正に用いた標準粒子の差により生じている。またO.5μmの計数値は、他の粒径と比べて個数が少ないことと応答カーブの違いにより、20%程度の差が出ている。0.15μmから0.3μmレンジはほぼ等しい。
 KC-22Aはやや縦長の筐体形状をしており、占有床面積は21Aの約1/3、重量は1/2以下になっている。これは新光源以外にも小型軽量安価のポンプを採用したことも貢献しており、これらの採用により、先に述べた性能改善の他、原価の大幅な低減も行うことができた。

図4 各波長による応答カーブの比較
図5 希釈大気塵の比較測定

7.おわりに
 このたび開発したKC-22Aは光源にLD励起固体レーザーを採用することにより、従来製品の問題を改善し、さらに小型、軽量、低価格化に貢献することができた。今後この光源を用いた製品として、最小可測粒径0.08μmのKC-22B、多点システムに組み込むセンサーのKA-82へと発展していく。またさらに研究を積み重ねることで、より微小な粒子の検出や、小型軽量化への突破口を探っていきたい。

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