2001/7
No.73
1. 航空環境保全委員会(ICO/CAEP)第5回本会議 2. 第12回ピエゾサロンの紹介 3. 鉱石ラジオ 4. 閉塞的な構造を持つ道路における排水性舗装の騒音低減効果について 5. 新しい騒音計シリーズNL-20/NL-21/NL-31
 
 航空環境保全委員会(ICAO/CAEP)第5回本会議

理 事 山 田 一 郎*

まえがき
 3月末で小林理研を卒業し、4月から(財)空港環境整備協会航空環境研究センター(以下研究センター)に勤めている。研究センターは国に協力して様々な仕事をしているが、その一つに国際民間航空機関(ICAO)の航空環境保全委員会(CAEP)での国の活動への協力がある。航空機製造および運航は国際的な枠組みの中で行われており、騒音や排ガスの排出規制は国際基準によらざるを得ず、CAEPを通じての活動が基本的かつ重要なものとなっている。空港周辺への騒音影響の問題も予測方法や騒音軽減策の検討がCAEPで行われており、それが国の施策と整合するように積極的にCAEPの活動に関与していく必要がある。

 CAEPにおいては今年1月にモントリオールで第5回本会議(CAEP/5)が開催され、航空環境保全に関わる重要事項の審議が行われたところである。会議における騒音の議題はWG/1(騒音証明)では騒音基準適合証明制度の基準強化の他、IEC1265に基づくディジタル計測機器の基準、派生型機の再証明、ヘリコプタの基準強化等であり、WG/2(空港と運航)では騒音軽減運航方式、土地利用計画の見直し、空港騒音の監視および各種騒音対策の調和的推進計画(Balanced Approach Program)である。以下、わが国の騒音対策においても重要な役割を果たしている騒音基準適合証明制度の基準強化を中心に、WG/1、WG/2での議論を資料により簡単に紹介する[1]。

騒音基準強化の考え方と基本試案
 CAEP/5で騒音基準強化が検討されたのはCAEP/4で「航空機騒音のレベルをさらに低減する見込みについて検討し、基準強化案をまとめることがWG/1の最優先の課題」とされたのに基づくもので、作業はWG/2およびFESG(交通量予測/経済分析作業委員会)と連携して進められた。まず、基準強化が技術的に可能かどうかを評価する基礎として騒音低減に関する今日の設計経験を網羅したデータベース(Best Practice Database)が構築された。次に基準強化案の策定方針が審議された。一つの考え方は、現行基準(Chapter 3)の枠組みを保ちつつ、離陸・着陸・側方の3測定地点の各々について基準値を厳しくするというもので、地点間で騒音の基準値からのマージンのトレードオフを認める。もう一つの考え方は3測定地点すべてにおける騒音のマージンを累積した結果に限度を定める考え方で地点間のトレードオフは基準の厳しさを低下させないようにするため認めない。WG/1では累積マージンに基づく後者の考えが好ましいと結論を下し、3通りの基本の試案を作成した。こちらの方が、可能な限り最善の技術を適用するよう製造会社を激励できると考えたものである。
試案1(8/2option):3地点の累積マージンが8dB以上、2地点では組み合わせによらず2dB以上あること、
試案2(11/3 option):3地点の累積マージンが11dB以上、2地点では組み合わせによらず3dB以上あること、
試案3(14/4 option):3地点の累積マージンが14dB以上、2地点では組み合わせによらず4dB以上あること。

 8/2 optionはデータベースの航空機すべてが適合するもので、現在の技術水準を示すものとして選択された。他の2つは技術的な可能性を判断するための基本として選択されたが、14/4 optionに適合する新型機を設計することは技術的には可能だが、実用に供するまでの費用と開発期間が相当長く掛かる。なお、データベースの航空機がこれらの試案に適合する率は99、95、75%であった。

段階的退役(Phase-out)の考え方
 現行基準(Chapter 3)にしか適合できない航空機を段階的に退役させる方法として2通りの案が検討された。
a) 新造機への更新:証明値が基準強化案を満たさない機は段階的退役の期間内に適合する新造機に更新する。
b)再証明:再証明に適するか判定し、該当する場合には基準強化案に適合するよう機体・エンジンを改修して再証明し、通常の退役年齢まで引き続き供用する。

騒音暴露人口による基準強化案の検討
 さて、基本試案と段階的退役を組み合わせた様々な試案についてWG/2が開発したモデルMAGENTA(Model for Assessing Global Exposure to the Noise of Transport Aircraft)を使って費用対効果の観点から検討された。すなわち、強化された騒音証明基準へ移行する際に各国の主要空港で航空機騒音に暴露される住民数がどうなるか試算された。計算はすでにChapter 2機が退役した3地域、(1)北米、(2)ヨーロッパ、(3)日本・オーストラリア・ニュージーランド(非免除地域)と(4)それ以外(免除地域)に分けて行われた。非免除地域の(1)〜(3)で新基準が採用され非適合となる航空機が退役しても免除地域の航空会社に転売されることが予想されるため免除地域では騒音に暴露される住民数が増大することになる。そうした非適合機の開発途上国への転売についての強い懸念が会議で述べられている。

 MAGENTAのデータベースのうち185空港((1)〜(4)の地域別にみると各々102、35、14、34空港)については交通量と飛行経路を含む詳細なデータがあり、それらを使って計算が行われた。これらの数は全世界の11 %に過ぎないが、騒音暴露では91%を占めると推定される。

 計算結果は設定条件と地域によって異なるが、時間的な推移の傾向は類似しており、基準年(1998年)から2002年まではChapter 2の段階的退役によって騒音影響暴露は軽減されるが、その後は交通量の増加によって増大する傾向にある。しかし、その度合いは基準強化と段階的退役の仕方および地域によって異なり、予測最終年度(2020年)における増大の程度も異なる。なお、わが国を含む地域(3)はすでにChapter 2の退役がほぼ終了しており、2002年以前には騒音軽減がない。基準強化についてもすでにその条件を満たしている航空機が多く、騒音の軽減は期待できない。

 基準強化と段階的退役の経済的検討
 基準強化と段階的退役の妥当性について経済的観点から検討した結果がFESGから報告された。基準に適合する航空機の購入や改修に必要とされる費用、MAGENTAから得られるDNL65および55のコンター内に居住する住民数の変化に基づき、ICAOが特別な政策を取らない場合との差違として費用対効果の面から検討しており、非適合機の段階的退役を含む試案について、1)非適合機すべてを新型適合機に置き換える案、2)非適合機のうち再証明に適する機体のみを重量やフラップの使用制限、エンジン・機体の改修によって適合させる案を想定して解析している。費用対効果の解析を行う基本として、1998年から2020年にかけての主要路線群毎の旅客および貨物の交通量を予測し、この間に航空会社が購入する航空機は新型旅客機が14000機、新型貨物機が700機ほどと見込んでいる。航空機が退役するまでの年数は、旅客機についてはFESGが開発した統計的生残率曲線を基に推測しているが、貨物機については単純に通常35年、速達貨物45年と想定している。管制と空港の交通容量については各地域・各空港とも制限なく対応できると仮定している。経済コストは現時点の正味価値で決めることとし、試案毎に基本ケースを基準とするコスト増加分として表されている。基本ケースに加算される費用が騒音政策として考えられた試案採用による増加コストであると想定したものである。主要製造会社の試算によれば、以上の条件のもと、基本ケースでも航空会社が1998-2020年に製造される新造機について支払う対価は1兆米ドル(1000 billion US dollars)を越えると見積もられている。騒音暴露人口の方は基本ケースの制限なし条件で1998年を基準にしてDNL65については22%、DNL55については11%ほど減ると予測されている。

基準強化に関する検討のまとめ
 関連議題をすべて討議した後、CAEP/5本会議で3地点累積マージン10EPNdBの基準強化という形でANNEX 16, Volume Iを改訂する案を勧告することで合意された。地点間のトレードオフは認めず、任意の2地点での累積マージンは少なくとも2dBあるべきだとされている。なお、この新基準は、Chapter 2、Chapter 3との章立ての連続性と参照の便を考えて、新Chapter 4として記載し、現在のChapter 4(超音速機)はChapter 12として記載することになった。新Chapter 4は、2006年1月1日より後に証明を求めて提出された新型機に適用される。なお、新基準は騒音証明に用いるのみで、段階的退役等の新たな運航制限の基礎として用いることは意図していないと強調されている。ICAO総会に提出する動議としてこの条項の草案を作る際、運航制限を考慮するにしても、開発途上国に対して免除を含めた特別な配慮が必要であると言及することになっている。

WG/2の報告
 WG/2は空港と航空機の運航により生じる環境問題を検討するためCAEP/3において設立された。まず、騒音軽減離陸方式について新方式が提案された。この方式は騒音軽減の手順を工夫する上で柔軟性が高い。会議で安全面から議論された結果、付属文書の本体から付録に移す形で正式勧告された。着陸についても新方式が検討されているが研究段階に止まっており、引き続き検討することとなった。なお、各国の騒音軽減運航方式を調べた結果、空港毎に条件が違うことから、適切な方式を選択するための指針がまとめられ、Circularとして出版されることとなった。

 空港と土地利用計画については昨年半ば出版作業に入った空港計画便覧第二部の修正作業を促進し各国への周知を急ぐよう勧告された。騒音対策の調和的推進との関連についても言及された。空港騒音の監視については騒音と飛行経路の監視システムが設置されている空港の状況を調査した結果が検討され監視装置を設置する際の指針を策定する基礎として使用することが合意された。監視装置を設置する空港が増え、監視能力も高くなっているので今後も継続して調査することとなった。こうした中、機種別に騒音証明値と空港運用に伴う実騒音を比較する作業も行われており、基本的には合致する傾向にあるが、整合しないものもある。その顕著な例は機体改修で辛うじて基準に適合したいわゆるhushkit機で実騒音の方が大きい。だが、実測時の運航条件等がはっきりせず引き続き検討することとされた。空港周辺の騒音暴露の推移についても引き続き検討することになっている。こうした検討の流れの中、騒音/飛行経路の監視装置の仕様や設置・運用、校正等が重要視されるようになり、指針案が作られようとしている。その内容は最終的には騒音コンター計算方法を記載するICAO Circular 205に盛り込むこととされているが、時間が掛かるので当面の措置として単独の指導要領として発行することが勧告された。次に騒音コンターの計算方法については前述のCircular 205があるものの、様々な騒音軽減策の良否を判断する手段として確立されたものではないため改定するための検討作業がが進められてきた。その結果、計算方法や入力データに問題があることが明らかとなり今後行なわなければならない作業がはっきりした。さらに新たなCircularに盛り込む内容が検討されたが、騒音および飛行経路の監視装置の数が増え、機能も充実してきたので、前述のように、騒音監視に関する記述も含めるべきだという提案がなされている。

 最後に騒音対策の調和的な推進に関する議論も活発に行われた。これは、(1)発生源での騒音低減、(2)土地利用計画、(3)騒音軽減運航方式、(4)運航規制の4つの対策を均等に推し進めることが重要であるとしてCAEP/3から検討が始められたものである。土地利用計画は、騒音と両立しない土地利用の抑制を意図したものだが、様々な国のシステムを比較検討して指針を策定し、情報交換により経験を生かしあって検討を進めることとして合意された。未然防止と防音工事、防音塀やエンジンテスト施設建設による騒音軽減を明確に区別する方が良いと示唆している。なお、地域毎に固有の騒音軽減策を講じることについては国の責任で行うべきだとされている。また、騒音規制は騒音対策を調和的に推進するための大事な要素ではあるが、最終手段として考えるべきものだとされている。段階的退役もそうした手段の一つであるが、その実施について多くの反対があるため今後も引き続き検討していくこととなった。

おわりに
 小林理研には昭和55年から21年間もの長きにわたりお世話になった。この間実に多くの方々と出会いともに研究し、仕事することができて楽しかった(4月以降、小林理研には非常勤で勤めている)。研究センターでは所長を勤めているが、前任の時田保夫先生には引き続き顧問としてご指導していただいている。また小林理研の山下充康理事長は当協会の評議員に就任されているし、五十嵐寿一名誉顧問は研究センターの航空機騒音委員会委員長をしておられる。こうした状況にも鑑み、本稿をお読みの皆様にこれまで同様ご指導・ご鞭撻賜るようお願い申し上げて筆を置くこととする。

文献1
 Committee on Aviation Environmental Protection (CAEP): Report of the Fifth Meeting, Montreal, 8 to 17 January 2001 (CAEP/5 - WP/86).
*(財)空港環境整備協会 航空環境研究センター所長

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