2001/10
No.74
1. 騒音に関する社会調査の解釈 2. 蓄音機ピックアップ 3. 音響式残量計の開発 4. 第13回ピエゾサロン 5. LD励起個体レーザーを光源とする気中微粒子計 KC-22A
 
 第13回ピエゾサロン

理 事 深 田 栄 一

 平成13年7月18日に小林理研会議室で第13回ピエゾサロンを開催した。圧電高分子フィルムを利用した振動制御について二つの講演があった。

分布定数系(PVDF)センサの設計と応用

菊 島 義 弘

 産業技術総合研究所スマートストラクチャー研究センターの菊島義弘主任研究員が講演された。ポリビニリデンフロライド(PVDF)の圧電フイルムは9μm、40μm、または110μmの厚さで、両面に60nmのアルミ電極を付け分極したテープ状のものが入手できる。通常の振動測定では、点センサを用いるため、特定のモードが計測されず十分な情報が得られないことがある。光ファイバーやPVDFフィルムで代表される分布定数系センサでは、無限個のセンサを構造物に設置したのと同じ結果を得ることができる。

 まずテープ状の両面に電極をつけた圧電フイルムの1次元面センサについて考える。テープの長さL(x軸)に沿って幅bを変化させることにより、その形状によって、それぞれの位置の振動振幅を検知することが出来、その総和を電極全面積から積分して出力させることが出来る。センサ出力q(電荷)はある位置xでのフィルムのたわみ変位wのxによる2階微分(x方向のひずみに比例する)に圧電応力係数e31を掛け、y軸に沿って幅bまで、x軸に沿って長さLまで積分した量である。

 搭状の構造物モデルの床を加振した場合を考える。構造物部材は高さ2.12m、幅15mm、厚さ2mmのアルミ平板を用いている。加振される構造物の周波数特性を求めるため、最上部に設置した加速度計の出力を周波数分析する。50Hzまでの周波数帯域で、1次の固有振動数が1.123Hzに存在し、さらに2次以降の共振が14個観測された。最も振幅の大きい1次振動モードを摘出するセンサを設計する。

 一次の固有周波数による正弦波加振を行い、非接触型変位センサを用いて、平板の長さ方向に沿うたわみ変位のモード形状を測定した日この変位のモード形状を2階微分するとテープ状センサの幅が長さ方向に変化する形状を定めることが出来る。この形に添ってテープの幅を切り出し、これをアルミ平板に貼付する。センサを貼付した後、構造物をランダム加振して、センサからの出力を見ると、1次の固有振動モードが1.123Hzに+32.7dBの増幅となって現れ、それより高い周波数成分は-40dB/decの傾きで減衰していた。また位相は0度から始まり共振部で180度位相が反転していた。すなわち、この圧電フィルムセンサによって1次の振動モードを分離独立して検出出来ることが示された。

 つぎにこのセンサを用いて振動制御を行った。センサ出力をPID制御して慣性型アクチュエータにフィードバックした。その時のセンサからの出力を見ると、1次の振動モードで-19dBの抑制が得られた。また、構造物最上部の加速度計の出力でも、1次モードのみが18.2dB抑制されていた。

 地震の場合、被害の大きい6m/s2(震度7)の振動を被害の無い1m/s2(震度5)で抑制するには-16dB(1/6)の減衰が必要である。したがって、構造物モデルの実験の目標は1次モードで-20dBにおいており、上記の結果はそれを満たしている。将来、建物などの内部に圧電フイルムセンサを設置する日が来るのであろうか。

 さらに、薄い平板用のモードセンサの設計、それによる振動モードの制御、フィードフォワード制御による複数のモード制御、パワーモードセンサによる音響放射パワーの制御など、多年にわたる内容豊かな研究の紹介が続いた。

産業技術総合研究所 菊島義弘主任研究員 講演

 文 献
 菊島義弘也:分布定数系センサを用いた振動モード分離、日本機械学会第6回「運動と振動の制御」シンポジュウム、370(1999)
 菊島義弘也:分布定数系モードセンサを用いた平板構造物のモード制御、機械技術研究所所報 53,194,(1999)
 菊島義弘也:分布定数系平板構造物のクラスター制御、日本機械学会第8回環境工学総合シンポジウム 108,(1998)

 

高分子圧電フィルムによる柔軟構造物の振動制御

西 垣 勉

 東京工業大学大学院理工学研究科機械物理工学専攻の西垣 勉助手が講演された。高分子圧電フィルムを柔らかく薄い平板に2枚貼り付け、一つはセンサとし、もう一つはアクチュエータとしてスマートな振動制御を行うことを考える。面内に分布した形状をもつため、分布型センサ・アクチュエータと呼ぶ。

図 セルフセンシングアクチュエーターの原理(Dosch)

 まず、厚さ1mm、長さ30cm、幅3cmのアルミニウム片持ち梁の表裏の同位置に同じサイズの長方形状センサ・アクチュエータを二対貼付して、それぞれ直接速度フィードバック制御を行った。梁の先端に衝撃を与え、一次曲げ振動モードの減衰を観測すると、非制御時には振動が数十秒続くのに、制御時には約1.5秒で完全に制振された。

 次に、両端を単純支持した厚さ1mm、長さ40cmのアルミニウムの板に長方形状を対角線で二分割した三角形状圧電フィルムを貼付した。この系を点加振して1次から3次モードまでの周波数帯で振動制御を行った。1対の長方形圧電フィルムでは1次と3次のモードは制御されたが、逆対称の形状をもつ2次のモードは制御されなかった。ところが、1対の三角形状圧電フィルムでは、1次から3次までのすべてのモードを制御することが出来た。

 つづいて、セルフセンシング.アクチュエータという興味深い研究の話があった。これは1枚の圧電体でセンサとアクチュエータの機能を兼ねさせて、制振を行うものである。Doschらは片持梁に圧電セラミック素子(容量Cp)をはりつけ、これを図のようなフリッジの一辺に導入した。C2はCpと容量の等しいコンデンサ、R1,R2は抵抗である。Vpは振動によって圧電素子に生じた電圧である。Vs=V1-V2はセンサ電圧であるが、ブリッジが平衡したとき零に近づく。この電圧を増幅してアクチュエータとしての圧電素子にプイードバックする。フィードバックの電圧Vcによって圧電体が振動を打ち消す方向に働きVpを零に近づける。この方法で梁の一次の振動の減衰時間が1/10以下に減少した。

 西垣氏は片持ち梁や円形リングに2枚のPVDF圧電フィルムをセルフセンシング.アクチュエータとして貼り付けた。図のC2の代わりに厚さと面積が異なるが容量は等しいもう一枚の圧電フィルムを用いたのである。そのためフリッジの安定性が大きく向上し一次振動モードの高度な制振に成功した。 圧電フィルムによる制振の対象として種々の可能性がある。例えば、自動車の車体、ハードディスクのヘッド、マイクロマシン(MEMS)、膜構造など、高機能膜の開発によっては多くの応用の発展が期待される。

東京工業大学 西垣 勉助手 講演

文 献
西垣 勉:圧電フィルムを用いた知的構造材料の振動制御、材料科学 36,299(1999) 
西垣 勉:高分子圧電フィルムによる振動制御、日本機械学会材料力学部門分科会研究会合同シンポジウム 109(2000)
J.J.Dosch, D.J.Inman and E.Garcia: A Self-Sensing Pizoelectric Actuator for Collocated Control, J.Intell. Mater.
Syst and Struct. 3, 166(1992)

-先頭へ戻る-