2001/7
No.73
1. 航空環境保全委員会(ICO/CAEP)第5回本会議 2. 第12回ピエゾサロンの紹介 3. 鉱石ラジオ 4. 閉塞的な構造を持つ道路における排水性舗装の騒音低減効果について 5. 新しい騒音計シリーズNL-20/NL-21/NL-31
       <研究紹介>
 閉塞的な構造を持つ道路における排水性舗装の騒音低減効果について

     − 2次元境界要素法による検討 −

騒音振動第一研究室 堀 田 竜 太

1. はじめに
 近年、道路交通騒音の低減対策手法として排水性舗装が注目されている。通常の平坦道路に対しての排水性舗装の騒音低減メカニズムとしては以下の2つが考えられている1)

(1) タイヤから発生する騒音そのものの低減
(2) 舗装表面の吸音による伝搬音の減衰

 しかし、半地下構造道路のような閉塞的な空間では、通常の平坦道路とくらべて多重反射による寄与が大きくなるために、排水性舗装の効果も平坦道路の場合とは変わってくる。本稿では、この様な閉塞的な空間における排水性舗装の設置効果について2次元境界要素法(2D-BEM)を用いて検討した結果を報告する。

2. 検討対象モデル
 この研究では図1に示す3種類の道路構造をとりあげ、表1に示す5ケースについて考ることとした。これらの道路構造は片側2車線の往復道路を想定したもので、それぞれの構造について道路部に通常舗装および排水性舗装を施工した場合を考えた。ケース1は平坦道路モデル、ケース2・ケース3は道路両端に遮音壁が存在するモデル、ケース4・ケース5は半地下構造道路(掘割構造道路)モデルである。ここで、ケース2とケース4については障壁・側壁の内側は反射性であるとし、ケース3とケース5については吸音パネルが施工してあるものとした。全てのケースについて-12.5m≦X≦12.5mの範囲の境界面に鋪装が施工されているものとした。上り・下り車線の中央部 (X=±5m)、路面からの高さ0.05mの位置に2次元点音源を配置し、それぞれの音源は非干渉性であるとした。境界要素長は、計算するそれぞれの周波数について波長の1/6とした。また計算量を制限するため、境界表面は-30m≦X≦20mの範囲のみに存在するものとした。受音点は-25m≦X≦-15m、0m≦Y≦10mの矩型内の0.5m×0.5m間隔のメッシュ上に配置し、これらの受音点に対する予測結果の算術平均値を求めた。

 計算は125Hz〜2.5kHzの1/3オクターブバンド中心周波数を対象におこない、各受音点でのオーバーオールの音圧レベルを求めた。音源のスペクトルは、通常鋪装の場合にはASJ Model 19982)の車種区分無し・車速60km/h以上のスペクトルにA特性を加えたものを用い、オーバーオールのパワーレベルLwAは107.4dBとした(図2)。ケース3とケース5で用いる吸音性パネルの特性には、いわゆる従来型吸音パネルに相当する試料(パンチングメタル+PVFフィルム+32Kグラスウール50mm+背後空気層40mm)についての1マイクロホン伝達関数法によるインピーダンス実測値を用いた(図3-(1))。通常鋪装部と特に吸音性を設定しない境界面については、コンクリート表面に相当するようなごく僅かな吸音性を持つものとした(図3-(3):流れ抵抗率=108Pa・s/m2として MIKIモデル3)を用いてインピーダンスを計算)。

図1 モデルの幾何配列(単位:m)
 
表1 計算対象条件

3. 排水性舗装のモデル化方法
 ASJ Model 19982)付属資料 A-1では、排水性舗装表面の吸音による伝搬音の低減も音源のパワーレベル変化に含めて扱う、としている。しかし、本稿で対象としているような、多重反射音が支配的であると予想できる条件下では、鋪装表面の吸音性が周囲の音場に与える影響が大きくなる事が考えられる。そこで、今回は以下の3つの方法を使って排水性舗装をモデル化した。

(a) ASJ model 1998付属資料A-1の方法;前述の通り、排水性舗装の効果を音源パワーレベルの変化のみによって表わす方法であり、舗装表面のインピーダンスには通常舗装と同じものを用いる。この方法で用いる音源のスペクトルを図2に示す。オーバーオールのパワーレベル補正値はΔLWA,dr=-3.5logV+3.2として求めるが(Vkm/h:代表車速)、本研究ではV=60としてΔLWA,dr=-3.0dBという値を用いた。

(b) 排水性舗装表面の吸音性による効果のみを求める方法;音源パワーの低減については考慮せず、通常舗装と同じ音源スペクトルを使用する。なお、排水性舗装表面のインピーダンスの値には、畑中らによる排水性舗装材サンプルについての実測値4)を用いた(図3-(2))。

(c) 音源スペクトル変化と排水性舗装表面の吸音性の双方を考慮する方法;音源パワーレベルに(a)法で示したスペクトルを用い、さらに排水性舗装表面のインピーダンスに(b)法で示した実測値を用いる。しかし (a)法では舗装表面の吸音性による減音効果も音源パワーレベル変化に内包すると仮定しており、この(c)法による計算ではこの分の効果を2重に計算しているとも解釈できる。

図2 音源パワーレベルのスペクトル
 
図3 計算に使用した境界表面の特性

(1) 従来型吸音パネルに相当する材料
(2) 排水性舗装サンプル材
(3) コンクリート表面に相当

 
表2 前受音点についての予測計算値の算術平均値

SPL(dB) 音圧レベル予測値
IL(dB) 通常舗装条件に対する対策効果量

4. 計算結果
 オーバーオールの音圧レベル予測値(SPL)と、排水性舗装を施工したことによる対策効果量(IL)について、全ての受音点についての算術平均値を表2に示す。なお、この対策効果量とは、ケース1〜5のそれぞれの条件について、通常舗装での音圧レベル予測平均値と、排水性鋪装を施工した場合の各方法による音圧レベル予測平均値の差分である。(b)法による対策効果量を見ると、ケース1については1.5dBとなっているが、ケース2とケース4ではより大きな値となっている。これは、排水性鋪装表面による多重反射音の吸音による効果が強く働いたためだと考えることができる。しかしケース3とケース5では、対策効果量が1dB以下となっている。これは鋪装表面の吸音効果が吸音パネルの減音効果に埋没してしまったためだと考えることができる。そして (c)法による対策効果量をみると、ケース1では (a)法と(c)法の対策効果量の差分が1dBなのに対して、ケース2、ケース4では差分はより大きい値となっている。これはこのような閉塞的な空間については、排水性鋪装表面の吸音効果が平坦道路の場合よりも大きく影響するということを示している。しかし、ケース3、ケース5については(a)法と(c)法の対策効果量の差分が1dB未満となっている。これは鋪装表面の吸音効果が吸音パネルの減音効果に埋没してしまったためだと考えることができる。

5. まとめ
 閉塞的な構造を持つ道路について、排水性舗装による効果を2D-BEMを用いて計算した。予測結果を見ると、ケース3やケース5のように側壁部分に吸音パネルが配置してある条件では、(a)法による予測値と(c)法による予測値の差は1dB未満であり、排水性鋪装による減音効果はケース1のような平坦道路の場合とあまり変らないことがわかった。しかし、ケース2やケース4のような吸音パネルが配置されていない条件では、排水性鋪装による減音効果は平坦道路の場合より大きく働くことがわかった。なお本稿は WESTPRAC VIIにおける発表5) の概要をまとめたものである。

参考文献
  1) Iwase, et al, "Measurements of basic acoustical properties of the porous pavement and their applications to the estimation of road traffic noise reduction", J.Acoust.Soc.Jpn. (E) 20, 63 (1999)
  2) 日本音響学会道路交通騒音研究委員会 「道路交通騒音の予測モデル"ASJ Model 1998"」日本音響学会誌 55, 281 (1999)
  3) Miki, "Acoustical properties of porous materials -Generalization of empirical models-", J.Acoust.Soc.Jpn. (E) 11, 25 (1990)
  4) Hatanaka, et al, "Measurements and analysis of acoustic properties of drainage asphalt", J.Acoust.Soc.Jpn. (E) 20, 55 (1999)
  5) Hotta, et al,"Acoustical efficiency of drainage asphalt pavement in enclosed space, investigated by 2-D BEM", Proc. WESTPRAC VII, 759 (2000)

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