2001/4
No.72
1. 音を制すは人をも制す 2. 第11回ピエゾサロンの紹介 3. 砂時計式キッチンタイマー 4. ロッセル塩結晶の生い立ちと圧電気 5. オージオメータ AA-79/79S
 
 音を制すは人をも制す

所 長 山 本 貢 平

 つい先頃までは21世紀が遠い未来の話でしたが、私達はいつのまにかその21世紀に生きています。現在、世の中はやや閉塞気味ではありますが、新世紀最初の年度が始まるにあたって私なりの思いを少し述べたいと思います。

 20世紀の科学や技術の進歩には目を見張るものがありました。そして我々が新世紀の科学や技術に期待しているのは次の4つのキーワードです。すなわち生命、情報、材料、環境です。いずれも人類が新しい世紀に取り組むべき多くの問題と課題を秘めています。そうはいえ、私達が関わっているのは音・振動の世界です。音・振動は前記のキーワードとかかわりを持っているでしょうか? 私は全てのキーワードとかかわりを持っていると考えています。まず、生命と音・振動のかかわりですが、現在もそうであるように医療計測や診断技術に音波が大活躍しています。今後のかかわりとしては、音波や振動による病気の治療技術の研究、音波・振動刺激と遺伝子レベルでの影響や効果の研究が挙げられます。

 次に情報と音・振動のかかわりですが、これは言うまでもなくIT(情報技術)と密接に関係しています。すなわちメディア(媒体)としての音声情報の役割は映像情報以上に重要です。将来は聴覚という感覚器を介することなく脳に音情報を直接伝達する技術も開発されるかも知れません。

 次に材料ですが、従来から音波や振動の遮断、吸収と言う分野で深いかかわりを持ってきました。最近、新しい材料が化学の分野から次々に開発されており、未知の材料が現在の音・振動制御に非常に役立つ性質を秘めている可能性があります。特に機能性材料と呼ばれるものには不思議な性質を持つものもあり、それらの発掘と利用法の開発が重要と考えられます。

 最後に環境とのかかわりですが、自然環境、大気・水質環境というややグローバルな環境に比べると音・振動は比較的ローカルな環境に属します。しかし、音・振動は人間の感覚器官に直接働きかけてくるので、前者に比べると問題が顕在化し易いといえます。したがって人間と生活環境についての研究が一層必要と考えられます。しかし、快適さのみを追求することはグローバルな環境を破壊することに繋がることもあり、十分に注意する必要があります。さらに、もう一つの重要な視点を無視してはなりません。それは生活環境における安全性の問題です。都市を騒音に強いものにすればするほど、災害発生時や犯罪発生時など緊急時の情報伝達が阻害されかねません。音を制御することは人の生活の安全性を制御することにも繋がるからです。

 21世紀の初めの沈滞ムードは夢を持つことによって払拭したいと思います。私はマイクを使わない音響計測、音響理論の常識を超える音波・振動制御技術の開発などが出来れば素晴らしいと思います。

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