2000/10
No.70
1. 研究所と60年 2. Inter.noise2000 会議報告 3. 簡易録音器 [SPEAKEASIE RECORDER] 4. 第10回ピエゾサロンの紹介 5. 音響インテンシティ測定器 SI-50
 
 第10回ピエゾサロンの紹介

理 事 深 田 栄 一

 平成12年7月21日に小林理研会議室で第10回のピエゾサロンが開催された。名古屋工業技術研究所、主任研究官の楠本慶二氏“リラクサ系電歪セラミックス研究の新展開”と題して講演された。

名古屋工業技術研究所 楠本慶二主任研究官 講演

圧電/電歪セラミックスの応用
 圧電セラミックスは、現在、超音波振動子、携帯電話用ブザー、ノートパソコン用液晶パネル用トランス、自動車のサスペンション用油圧制御用アクチュエータ、インクジェットプリンター用駆動部品などに広く用いられている。また、将来的には衛星や航空機の振動防止用部品、半導体作製装置の精密位置決め用アクチュエータ、マイクロマシン用アクチュエータとしての応用が期待されている。

圧電セラミックスと電歪セラミックス
 圧電セラミックスは強誘電体であり、分極処理を行うことによって圧電性を示す。一方、電歪セラミックスは常誘電体であり、圧電セラミックスに比べて電界の上下にともなう歪の履歴、いわゆるヒステリシスがほとんどなく分極処理も必要ないことから特にアクチュエータに適している。現在、圧電セラミックスとしては 固溶体が非常に有名であり、電歪セラミックスとしては 固溶体が知られている。 固溶体は、 組成付近で約30000という高い比誘電率を示し、約0.1%の電界誘起歪を示す。

複合ペロブスカイト型化合物
 ペロブスカイト型化合物は一般に の結晶構造で表され、代表的な化合物としては がある。これらの単純型以外に で表される複合ペロブスカイト型化合物があり、誘電特性に応じて規則型、緩和型、両方の中間型に大別される。複合ペロブスカイト型の代表的な化合物としては があり、 がキュリー温度で相転移に対応する鋭い比誘電率のピークを示すのに対して、 は誘電率が温度に対して散漫な最大値を示すことから緩和型誘電体(リラクサ)と呼ばれている。また 固溶体は中間型の特性を示すことが知られている。

新しい電歪セラミックスPNN-PT固溶体
 名古屋工業技術研究所では、最近、鉛系誘電体の新しい合成方法を開発し、 固溶体が 組成で電界強度1.5kV/mmにおいて約0.23%の電界誘起歪を示すことを見出した。この歪量は、既存の電歪材料である 固溶体の約二倍であり、電歪セラミックアクチュエータ用材料として有望である。 固溶体については、通常の合成方法では未反応成分であるパイロクロア化合物が残留することから、高純度の粉末を得ることは困難であった。名工研では、ペロブスカイト組成に対してあらかじめを過剰に添加した混合物を熱処理した後、 酢酸水溶液によって未反応成分を溶解除去するという方法によってこのパイロクロア間題を解決し、優れた電歪特性を示す を見出した。この方法(酸化鉛過剰組成法)によると、比較的簡便な合成手順によって粒子分散性に優れた1-3μmの 粒子が得られる。

非鉛系圧電セラミックス
 最近、環境保全の観点から、圧電材料中に含まれる鉛に対する規制の強化がヨーロッパを中心に検討されている。例えば自動車には現在、一台当り約3グラムの鉛が圧電材料として使用されているが、数年後には1gまでという規制案が検討されている。したがって、従来の 系圧電体に替わる非鉛系圧電セラミックスの開発が今後の課題となりつつある。非鉛系圧電セラミックスに関しては、Bi系やタングステンブロンズ型化合物を中心にして多数の特許が出願されている。注目される例としては、 の系で が発表されている。しかし、まだ本命とされる材料は未だに開発されていない。

参考文献
楠本慶二、関谷 忠:電歪セラミックス研究の新展開
             超音波TECHNO,11, p.37-39,1999.
楠本氏のホームページ
     
(http://www.nirin.go.jp/People/kusumoto)
     このホームページは圧電/電歪セラミックスの基本から応用にわたって明解に解説されており、著者の研究に対する情熱を感じさせてくれる。

 活発な討論の後で、小林理研の深田栄一から"高分子の電歪"について最近の研究の紹介があった。
 Rutgers UniversityのScheinbeim等はポリウレタンフィルムで3.5%の大きな電界誘起歪を観測した。また15MV/mのバイアス電界の下で600pC/Nという大きな圧電定数を観測した。Pennsylvania State UniversityのZhang等は電子線照射したビニリデンフロライド.トリフロロエチレン共重合体フィルムで4%という大きな電界誘起歪を観測した。高分子の電歪をアクチュエータ等に利用することは今後の課題である。

参考文献
 Q.M.Zhang et al., Science, 280, 2101, 1998.
 M.Zhenyi et al., J.Polym.Sci.B32, 2721, 1994.

小林理研 深田栄一理事 講演

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