2000/10
No.70
1. 研究所と60年 2. Inter.noise2000 会議報告 3. 簡易録音器 [SPEAKEASIE RECORDER] 4. 第10回ピエゾサロンの紹介 5. 音響インテンシティ測定器 SI-50
       <技術報告>
 音響インテンシティ測定器 SI-50

リオン株式会社 音測技術部 大 屋 正 晴

はじめに
 音の大きさを表わす量として一般的に広く使われているのは音圧レベルであるが、その他に音響インテンシティレベルという量がある。音圧レベルがスカラー量なのに対し、音響インテンシティレベルはベクトル量であり、これは方向を持つ音の大きさであることを意味している。

 その音響インテンシティを検出するためのセンサーはある軸方向に最大感度を持つが、その軸に垂直な方向には原理的に感度を持たない。そのため、測定対象物にセンサーの最大感度軸を向けると、周囲から放射される音(外来音)の影響を小さくして対象物から放射される音の量の測定ができる。

図1 音響インテンシティ測定器 SI-50とSI-34

 音響インテンシティ測定器の規格として1993年にIEC 61043,Electroacoustics-Instruments for the measurement of sound intensity-Measurement with pairs of pressure sensing microphonesが発行された。

 音響インテンシティを利用してある対象物から放射される音響パワーレベルを測定するための規格として同年にISO 9614-1,Acoustics-Determination of sound power levels of noise sources using sound intensity-Part1: Measurement at discrete pointsが発行され、1999年に翻訳規格としてJIS Z 8736-1"音響−音響インテンシティによる騒音源の音響パワーレベルの測定法−第1部:離散点による測定"が制定されている。またISO 9614-2,Acoustics-Determination of sound power levels of noise sources using sound intensity-Part2:Measurement by scanningの翻訳規格としてJIS Z 8736-2"音響−音響インテンシティによる騒音源の音響パワーレベルの測定法−第2部:スキャニングによる測定"も同年に制定されている。

 このように音響インテンシティに関わる規格が整備されたことにより、今後の音響インテンシティ計測に対する需要の増大が期待されている。また近年の半導体技術の進歩により低消費電力で高速な演算器が登場してきたため携帯可能な大きさで測定器を開発できるようになった。このような背景のもと、処理器SI-50、プローブ(センサー)SI-34により構成される音響インテンシティ測定器を完成した。これはIEC 61043:1993 Class 1(80Hz〜5kHz、50Hz〜80HzはClass 2)に適合する。

 本測定器はそのIEC規格に規定されている空間的に離して配置した圧力形ペアマイクロホン(p-p方式)によって音響インテンシティを検出するものである。

音響インテンシティ測定の原理
 音場内のある点における瞬時音響インテンシティは時間の関数となりこれをで表わす。は音圧と粒子速度の積で与えられ、ある方向の成分(これを方向とする)のみに着目すれば次のようになる。

音圧と粒子速度i方向成分は、各々式(2)、式(3)のように近似できることから、式(1)に代入することで2つのマイクロホンの圧力から音響インテンシティを得ることができる。

ここで、は空気密度、はマイクロホンの音響中心間距離を表わしている。

 SI-50においては瞬時音響インテンシティレベルを1/3オクターブバンド毎に表示できるほか、時間平均機能も備えている。

音響パワーレベル測定の原理
 音響インテンシティを用いて音響パワーを測定する原理は次のようになる。

式(5)は閉曲面S上における音響インテンシティベクトルの法線成分の面積積分が、閉曲面の音源が発する正味の音響パワーに等しいことを示している。また、この式が閉曲面内の音源が発する正味の音響パワーのみを表わすということは閉曲面の外に音源がある場合でもその音源による影響は受けないことを示しており、つまり無響室や残響室などの特殊な音場でなくても音響パワーの測定が可能であることを意味している。

 この閉曲面をある有限個に分割し、それぞれの面のを測定して面積を掛け、それらを足し合わせることで音響パワーレベルを求めるのがJIS Z 8736シリーズである。規格の中では音場、外来音、測定者、測定器などによる影響を音場指標として表わすことでパワーレベル測定を一定の精度内に保つようにしている。

 JIS Z 8736-2:1999スキャニングによる測定では少ない測定面(一般的には5面)ですむため、現場において簡便にパワーレベルを測定できるという利点がある。一方、JIS Z 8736-1:1999離散点による測定では測定面を多く必要とするが、その代わり音源の分布状態を把握できるという利点がある。

 SI-50はJIS Z 8736-2:1999に対応した測定を可能としている。音場指標の算出も行うため、現場において音場指標を確認しながらパワーレベル測定を行うことができる。また測定を一人で行うことができるようにリモートコントロールグリップSC-99(別売)を用意した。これを用いることにより測定時にSI-50を操作する必要がなく、さらに本体を持つ必要もなくなるため、より簡便に測定作業が行える。図2はSI-34にSC-99を取り付けて測定をしている風景である。

図2 SC-99を使用した測定結果

 測定結果を表示する画面にはカラー液晶を採用することで、視覚的にもわかりやすくした。また測定の初めから終わりまで画面上のメッセージに従って測定を行うことができるようナビゲート機能を備え、測定に際して手順などを間違えることがないように配慮した。

測定器の校正
 測定の前に校正作業を必要とするが規格に従う音響パワーレベル測定の場合、騒音計などの測定器で行う音圧校正のほかに、両マイクロホン間の位相差特性の確認も必要となる。

 騒音計の音圧校正に比べ煩雑な作業であるが、これら一連の作業にもナビゲート機能を備えているので、慣れない人でも安心して校正作業が行える。

測定後の処理
 本体には内蔵メモリと感熱プリンタを標準で備えている。またATAコンパクトフラッシュカードスロットも装備しており、測定データをテキストファイルとして出力するので、市販の表計算ソフトなどで直接に閲覧編集することができる。

 JIS Z 8736-2離散点による測定方法で音響パワーレベルを求めたい、もしくは音源の分布状態を把握したい場合には離散点法音響パワーレベル測定ソフトAS-10を組み合わせることでその測定が可能となる。コンターマップを結果表示例として図3に示す。AS-10により音響パワーレベルが算出されるばかりでなく、図をみてわかるように音源の分布状態を一目で把握できるので、音源対策などの手段を講じる上で非常に有益な情報を得ることができる。もちろんこのコンターマップはA特性音圧レベル(騒音レベル)はもちろん周波数別音圧レベルとしても表示可能である。

 

図 AS-10によるコンターマップ表示

おわりに
 音響インテンシティ計測に関わる規格、原理および測定機器についてその概要を紹介をした。

 これまで音響インテンシティは演算量の多さから大型な機器でしか扱うことができなかったが、SI-50本体は電池動作のうえにA4版の大きさである。そのため測定場所を選ばずに音響インテンシティ計測が可能となる。この機器の登場により現場における音響インテンシティ計測が様々な分野に普及することを願ってやまない。

 参考文献
 [1]IEC 61043,Electroacoustics-Instruments for the measurement of sound intensity- Measurement with pairs of pressure sensing microphones
 [2]ISO 9614-1,Acoustics-Determination of sound power levels of noise sources using sound intensity -Part1: Measurement at discrete point
 [3]JIS Z 8736-1"音響−音響インテンシティによる騒音源の音響パワーレベ ルの測定法−第1部:離散点による測定"
 [4]ISO 9614-2,Acoustics-Determination of sound power levels of noise sources using sound intensity-Part2: Measurement by scanning
 [5]JIS Z 8736-2"音響−音響インテンシティによる騒音源の音響パワーレベ ルの測定法−第2部:スキャニングによる測定"
 [6]F.J.Fahy著、橘 秀樹訳「サウンドインテンシティ−理論と応用−」 (1998)オーム社

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