2000/7
No.69
1. 半世紀前の小林理学研究所 2. 振動レベル計のピックアップ設置方法に関する研究 3. 第8回、第9回ピエゾサロンの紹介 4. (続)桿秤・天秤・分銅 5. 「補聴器の小型化設計」学会賞受賞に寄せて
  
 第8回、第9回ピエゾサロンの紹介
理 事 深 田 栄 一
第8回ピエゾサロン
平成12年1月28日に小林理研会議室で第8回ピエゾサロンを開催した。山形大学工学部 の大東弘二教授“三弗化ビニリデン・弗化ビニリデン共重合体の単結晶状膜と横波超音波 トランスデューサ”と題して講演された。
大東弘二 山形大教授講演
(第8回ピエゾサロン)

1969年に小林理研で河合平司先生がポリ弗化ビニリデン PVDFの圧電性を発見されたが、そ の二年後1971年に大東先生はPVDFフィルムを使った超音波トランスデューサを発表された。 最近は弗化ビニリデン・三弗化ビニリデン共重合体P(VDF/TrFE)の単結晶の作成に成功され 、その圧電性の研究が国際的に注目されている。

 PVDFなどの高分子は延伸状態でもその結晶化度は約50%程度である。長い鎖状の分子が折 りたたまれて平行に並び、ラメラと呼ばれる板状結晶を作る。例えばポリエチレンの希薄溶液 から析出したラメラ単結晶を電子顕微で眺めると、折りたたみ方向の厚さが約1000Å、板 の大きさが数ミクロンの菱形をしている。延伸フィルムでは分子が延伸方向に平行に並んでい るが、所々で折りたたまれて、延伸方向に直角に広がった平板状のラメラ結晶が作られてい る。この折りたたまれた部分が非結晶相を構成する。鎖状高分子はラメラ結晶の存在のため に結晶化度を上げることが難しく、すべての高分子が平行に並んだ単結晶を作ることは至難 の技である。 P(VDF/TrFE)は強誘電性をもつ鎖状高分子であるが、VDFとTrFEのモル比が75:25の 共重合体ではキユリー温度Tcが123℃、溶融温度Tmが150℃である。結晶相はTc以下では 斜方晶で強誘電性、TcとTmの間では六方晶で常誘電性である。大東先生の見出した P(VDF/TrFE)単結晶の作り方は次のようである。まず、フィルムを室温で約5倍に延伸する。分 子量は10万から20万ぐらいである。延伸方向の両端を固定してフィルムの温度を138℃に上 げる。この温度で約1時間熱処理し、その後徐々に室温まで冷却する。その間フィルムの表面 に固体が接触しないように注意する。138℃はTcとTmの中間にあり、平行に並んだ高分子鎖 は六方晶の対称を持ち液晶状態を作る。この状態で熱処理すると、折りたたまれた部分の分 子鎖は延伸方向にそってすべり運動を起こし平行に並んで結晶化する。もし固体の表面が触 れるとその点の応力が核を作り折りたたみ結晶が発生してしまう。単結晶となったフィルムの 大きさとしては例えば数10ミクロンの厚さ(Z軸、分極方向)、数cmの長さ(X軸、延伸方向)、 約1cmの幅(Y軸)のものが得られる。透明で複屈折のためにきれいな色がついており、またX 線回折図では鋭いピークが見られる。双晶構造があるため単結晶状と命名された。フィルム に垂直方向に電界を加えると、矩形状のきれいな誘電ヒステレシスが観測され、抗電界が 33MV/m、残留分極が0.11C/である。このフィルムを100−200枚エポキシ樹脂で張り 合わせて厚い単結晶状フィルムを作り、Xカット、Yカット、Zカットなど任意の方向に試料を切り 出すことが出来た。
田實佳郎 山形大助教授講演
(第8回ピエゾサロン)

 こうしてP(VDF/TrFE)単結晶の圧電率、弾性率、誘電率のすべてのテンソル成分を実測することに成功した。また電気機械結合係数kのすべての成分についてその大きさと温度依存性が決定された。厚みのび振動に対応するk33は0.29で絶対温度0°Kからキュリー温度Tcまでほとんど一定である。厚みずり振動に対応するk24は約0.26で温度変化も殆どない。面内のび振動に対応するk31は絶対温度0°K近くでは約0.03であるが、温度とともに増加してTc近くでは約0.21に達する。これらの値は通常の延伸分極フィルムで得られる値より大きく、その限界値を示すものと思われる。単結晶状フィルムの大きなk24の値を利用して、横波の超音波トランスデューサが試作された。PZTの横波トランスデューサに比べて波形が良く感度も高い結果が得られた。

 続いて山形大学工学部の田實佳郎助教授“単結晶状フィルムの電気光学効果”の研究結果を述べられた。延伸方向にレーザー光を照射しフィルム面の間に電界を加えると屈折率が変化する。このポッケルス効果の係数が通常のフィルムの10倍以上になることが見出された。

 ラメラを含まない高分子の単結晶の作成に成功し、圧電性に関するすべての物理定数を決定したことは、圧電高分子の究極の値を求めたことであり、その成果は極めて高く評価される。

 参考文献
 H. Ohigashi, K. Omote and T. Gomyo:
Appl.Phys.Lett.66,3281,1995 

第9回ピエゾサロン
 平成12年4月14日に小林理研会議室で第9回ピエゾサロンが開催された。(株)カイジョーの高橋典久氏“強力超音波の応用(洗浄と加工)”と題して講演された。
高橋典久氏講演(第9回ピエゾサロン)

 超音波洗浄には、28kH前後の周波数を用いる一般洗浄と1MHz付近の周波数を用いる精密洗浄の二種類がある。28kHz付近で超音波の強度が1W/ぐらいになると、無数の気泡が発生し、半径100μm以上に成長すると1μs以下の短い時間で圧縮破壊される。その時発生する衝撃流が洗浄物に付着した油脂や塵埃を剥離する。このキャビテーションの洗浄力は強力でアルミ箔に数十秒で穴があくほどである。メガネや宝石の洗浄に用いられている。

半導体シリコンウエーハの洗浄に950kHzのMegasonicが用いられる。高周波なのでキャビテーションによる表面の荒れは起こらない。水中に垂直に立てたウエーハ面に沿って超音波の定在波ができ2分の1波長ごとに音圧が最大になる。その点での加速度力はGに達し回/秒の擦りで汚れが剥離し水流で除去される。また1MHz帯の超音波は水分子クラスターの水素結合を切断したり、水分子をHやOHのラジカルに分解して化学作用を起こしたりする。

 超音波加工の応用例としてパンやケーキのような柔らかい食品を切る装置が紹介された。金属など硬い物には旋盤のバイトに超音波振動を重畳して切削能力を高めていた。しかしこの方法は柔らかい物ではうまくいかない。側面の切断抵抗を少なくするために、薄い長刃に超音波振動を重畳させた。実現したサンドイッチスライサーでは、長さ270mm、幅12mmの刃物に19.5kHで20〜40μm振幅の縦振動をのせ、毎時2000個以上の切断を行っている。

ロールパンの背割りは表面が固く中は柔らかいため難しい。実現したロールパン背割りカッターでは、回転するホーンの先端に丸刃をねじ締めし、その丸刃にたわみ振動をのせている。丸刃の共振周波数は19.5kHzで振幅は刃先で20〜70μmである。冷凍ケーキ、油揚げ、海苔巻寿司の切断加工など応用は広がりそうである。

 講演後の質問や討論が30分も続き盛会であった。

   参考文献
高橋典久:超音波洗浄技術
        エレクトロニクス実装技術12,60-64,1996

メガソニック発生と洗浄
        クリーンテクノロジー6,51-55,1996

LCD,ウエーハ用節水型超音波洗浄機
        クリーンテクノロジー1,71-74,2000

食品の自動加工
        超音波TECHNO5,18-22,1998.

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