2000/7
No.69
1. 半世紀前の小林理学研究所 2. 振動レベル計のピックアップ設置方法に関する研究 3. 第8回、第9回ピエゾサロンの紹介 4. (続)桿秤・天秤・分銅 5. 「補聴器の小型化設計」学会賞受賞に寄せて
       <研究紹介>
 振動レベル計のピックアップ設置方法に関する研究
騒音振動第二研究室 岡 本 伸 久
1.はじめに
 柔らかい地表面で地盤振動を計測する場合に、振動ピックアップと地表面の間に生じる設置共振現象が、測定誤差の要因となります。JIS Z 8735 振動レベル測定方法には、設置面が柔らかい場合は、十分に踏み固めることとされていますが、具体的な手法については示されていません。
 これまでの研究では、3本の支柱を地中に埋めた設置台を用いる方法1)、ピックアップの底につばや枠組みをつける方法2)等について検討が行われ報告されています。しかし、このような方法によって設置共振現象を低減できますが、3本の杭を地面に打ち込む等、面倒な作業が必要となります。また、振動レベル計のピックアップは、文献1)2)が報告された時期のものに比べて、小型軽量化されており3)、もっと簡単に設置が行なえて、しかも、設置共振の影響を低減できる手法があるのではないかと考えました。そこで、本研究では、これまでの研究を参考にして、設置が簡単にできる1本杭の設置台を用いる測定手法を提案し、かつ効果的に設置共振の影響を低減できることを実験的に明らかにしました。また、道路交通振動における設置方法と測定誤差の関係を検討しました。

2.設置共振の影響
2.1 実験方法
 提案した設置台は、図1に示すように、長さ300mmの1本杭に80mm角の平板を取りつけたもので、簡単に地盤へ打込めるようになっています。設置台の効果を調べるために、図2の実験装置を用いて、柔らかい土を詰めた木箱にピックアップを設置し、振動発生装置(加振器)により鉛直方向、および、水平方向に1Hz〜200Hzの周波数帯域でランダム加振しました。設置共振特性は基準とした加速度センサー( RION PV-87 )と振動レベル計( RION VM-52 )のピックアップ(RION PV-83B 寸法:φ67×40.7(mm)質量:350(g))との振動加速度の周波数応答から求めました。振動ピックアップの設置条件は、鉛直方向では、地表面に直置き、表面を押し固めた上での直置き、4本杭で押さえ付けた平板への設置、1本杭で打込む平板への設置の4種類、水平方向では、地表面に直置き、1本杭で打込む平板への設置の2種類としました。

図1 設置台の概略図
 
図2 実験系列
2.2 実験結果
 図3、図4に鉛直方向、および水平方向の各設置条件で測定された振動加速度との設置共振特性を示します。JIS C 1510振動レベル計の使用周波数範囲は1Hz〜80Hzとされているので、80Hz以下における設置共振の影響を比較しました。
図3 鉛直方向の振動伝達特性
図4 水平方向の振動伝搬特性
(図をクリックすると、拡大図を表示します )

 図3の鉛直方向では、直置きした場合、設置共振の影響が15dB以上になっています。踏み固めた場合でも4dB程度の設置共振の影響が見られます。一方、4本杭および1本杭の設置台では、設置共振の影響は2dB以下に低減することができています。
 図4の水平方向では、直置きした場合、設置共振周波数は54Hzに見られ、測定誤差3dB以内の計測範囲は25Hzまでになっています。1本杭の設置台を用いることで設置共振周波数を85Hzに上昇させることができ、測定誤差33dB以内の計測範囲も45Hz程度までに周波数範囲を広げることができました。

3.道路交通振動における設置共振の影響
 片側2車線の幹線道路沿いにある柔らかい地表面において鉛直方向、および道路と直交する水平方向の振動を、車両が通過した時の振動レベルの最大値で測定しました。振動ピックアップの設置方法は、地表面にそのまま直置き、踏み固めた地表面に直置き、提案した1本杭の設置台の3種類としました。また、基準となる測定値を得るために縁石上でも測定を行ないました。図5、図6に鉛直方向、および水平方向での縁石上の測定値と地表 面の測定値の関係を示します。

図5 各設置方法と縁石で測定した鉛直方向での振動レベルの関係
(図をクリックすると拡大図を表示します)
 
図6 各設置方法と縁石で測定した水平方向での振動レベルの関係
(図をクリックすると拡大図を表示します)
 鉛直方向の振動レベルは、縁石上よりも直置きで3dB、踏み固めで1dB程度大きくなり設置共振の影響による測定誤差が現れていますが、1本杭の設置台を使用することにより縁石上での測定値とほぼ等しい値になっており、設置共振の影響による測定誤差は見られませんでした。
 水平方向では、縁石上よりも直置きで8dB、踏み固めで2dB程度大きい振動レベルが測定されており設置共振の影響による測定誤差が現れています。一方、1本杭の設置台を使用することにより設置共振の影響による測定誤差は1dB程度に減少しています。

4.おわりに
 柔らかい地表面における振動レベル測定において、設置共振の影響による測定誤差を1本杭の設置台を用いる計測方法によりほぼ取り除けることを確認しました。本報告は日本騒音制御工学会研究発表会4)5)で発表しました報告の概要であり、設置台に使用する杭の長さと設置共振の関係、鉄道振動の実測調査についても検討を行っております。

参考文献
1) 二井、五反田:  日本音響学会誌 Vol.30 No.12 490-493 (1974)

  2) 守田、尾股: 

日本音響学会講演論文集 193-194 (1977.10)

  3) 河野ほか:

日本騒音制御工学会講演論文集 125-128 (1994.10)

  4) 岡本、平尾、横田:

日本騒音制御工学会講演論文集 311-314 (1998.9)

  5) 岡本、平尾、横田:

日本騒音制御工学会講演論文集 239-342 (1999.9)

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