1999/10
No.66
1. 全身振動の規格 2. レコード盤型録音機[リオノコーダ] 3. 津村節子著 星祭りの町(新潮文庫) 4. 第5回ピエゾサロンの紹介 5. フルデジタル補聴器 デジタリアン HI-D1/HI-D2
 
 第5回ピエゾサロンの紹介
     ―上羽貞行:最近の圧電体応用―

理事 深 田 栄 一

 平成11年6月17日に、東京工業大学精密工学研究所の上羽貞行教授“最近の圧電体応用”の題で講演された。まず現在研究室で行われている三つの研究の紹介があった。

 第一は、『近距離音波浮揚の解明とその応用』であった。空気中での音波浮揚と非接触搬送の研究は従来から行ってきたが、水中での実験にも成功した。例えば、18kHzの共振振動数のランジュバン型振動子の上に1kgのアルミ板を置いた場合、振動振幅を1μmから5μmに増加すると、それに比例して水中での浮揚距離は10μmから50μmに増加する。音波の放射力によって、板が浮くわけである。さらに興味深いことには、振動振幅がもっと小さい時には逆に引力が働くことが見出された。そこで、振動振幅を変えることによって、超音波チャックを作り液体中の搬送に利用する応用が提案された。板のたわみ振動を利用してシリコン基板や粉体を搬送する実験や円板を浮揚する実験がビデオで示された。

 第二は、『複合振動を用いた多自由度超音波アクチュエータの試作』であった。ロボットの関節やゲームのジョイスティックのような任意の方向に回転する球状ローターがPZT圧電振動子と組み合わせることで実現した。直径約1cmの球状ローターが直径約2cm長さ約6cmのランジュバン型積層振動子に接続されている。

この振動子の中には、一組の縦振動用円板素子と二組のたわみ振動用円板素子が組み込まれている。

縦振動とたわみ振動の位相差を90度ずらすことで球の回転が得られる。縦振動を直交するもう一つのたわみ振動と組み合わせれば、直交する回転軸に対する球の回転が得られる。三組の圧電素子を組み合わせれば,多自由度の回転が可能になる。これを小型化することが将来の応用への課題である。

講演される上羽貞行東京工業大学教授

 第三は、『超音波散乱を用いた骨粗鬆症診断』であった。踵骨の海綿骨内の骨梁の直径および間隔を超音波散乱を用いて推定する試みである。まず海綿骨を円柱が等間隔で配置した二次元回折格子でモデル化する。骨梁の軸方向を検出するために、散乱角度と超音波レシーバーの回転角度をパラメーターとして周波数スペクトルのピークの移動を観測する方法を見出した。測定結果はコンピューターで図形化され、例えば骨梁の太さ0.2mm、骨梁の間隔2mmなどといったデータが得られる。従来から骨塩量、音速度、減衰率の測定は行われているが、骨の構造に関する計測は初めての試みである。

 終わりに最近の超音波分野におけるトピックスとして以下のような項目を挙げられた。バルク波機能素子(圧電トランス、マイクロアクチュエータ、超音波モーター、振動ジャイロ)、弾性表面波素子(フィルター、発信子、コンボルバー、センサー)、超音波応用マニピュレーション、医用超音波(ハーモニックイメージング、コントラストエイジェント、イントラバスキュラートランスデューサ、二次元ディテクターアレイ、音響化学療法)、物理・化学としての超音波(ソノケミストリー、シングルバブル)。弾性表面波素子は10GHzのものが実現し、携帯電話の部品として大きな発展が期待される。生体内視用トランスデューサは海外で非常に進歩している、などのコメントがあった。また、水熱合成のセラミック薄膜や蒸着重合の高分子薄膜の将来性についても指摘された。企業の出席者の方から、圧電高分子は大規模な用途は無いが、研究面での需要が続いている、120℃の耐熱温度をもつPVDFが実現しているという発言もあった。

-先頭へ戻る-