1999/7
No.65
1. 吸音材について 2. 昭和7年発行の計測器カタログ 3. ISO/TC43/SC1プラハ会議報告 4. 2nd Joint Meeting of ASA and EAA会議報告 5. 寄 り 道 6. 第4回ピエゾサロンの紹介
7. 健康影響に基づいた騒音評価の方法 8. 低周波音レベル計NA-18の概要
 
 吸音材について

建築音響研究室 室長 小 川 博 正

“代表的な吸音材は?”という問いに、音響に携わる者だけでなく、また音響に無縁な人であってもまず一番に思い浮かべるのは、グラスウールやロックウールで代表される繊維質の吸音材ではなかろうか。

 当所の第1残響室が昭和30年に完成し、吸音率測定を開始した当初から、これらの吸音材はその性能について詳細な検討が実施されており、既に吸音材として活用されていたことを研究所報告から知る事ができる。その他の吸音材は、麻綿、パンヤ、獣毛フェルト等、主に有機質系の繊維材料が多かった事もまた記されている。当時これら吸音材の用途は、室内の音響調整や騒音対策用など屋内使用が主であり、意匠性や吸音材保護の理由から表面仕上げが行われる為、これら吸音材の多くは裏側の隠れた場所に施工され、目に触れる機会は希であったのではなかろうか。

 しかし、それらとは異なった数少ない例としては、高い吸音性能が要求される無響室への適用であり、吸音材は剥きだし或いは薄い布の保護での使用が要求された。更にその性能の実現には単に吸音材を厚くするだけでなく、形状を“楔型”に成型した吸音構造が推奨され広く使われていた。

 昭和43年に完成した当所の無響室はこの楔型ではなく“平面型”の吸音体を採用した。平面型であっても楔型に近い性能を確保した上で、構造が簡単で吸音層の厚さも少なくてすむ吸音体の研究を進めた結果、グラスウールの密度や繊維方向、吸音率や流れ抵抗などについての基礎的な実験の成果から開発された吸音構造である。 楔型の派手さに比べて見栄えとしては迫力に欠けるが、実用的には楔型に匹敵する吸音性能が確保されているという、無響室としては国内では斬新なものであった。

 それ以前の無響室は当時防音室と呼ばれ、古い記憶である事から必ずしも定かではないが、麻袋にパンヤを詰めた吸音体を壁や天井、床に敷きつめた中に裸電球が吊下げられた穴蔵の趣で、照明と空調が行き届いた現在の無響室からは想像も及ばないものであった。旧くは吸音材として、この様なパンヤ等が主であったことを考えると、グラスウールの出現は吸音性能の向上に非常に大きな役割を果してきた事が明らかである。

 その後、無機質系の繊維材、発泡材が多く開発され、特に近年は屋外用途への要求の高まりから、新たな窯業系、金属系、コンクリート系など、多種多様な吸音材の開発が進められている。強度や耐候性、意匠性などに優れ、グラスウールの吸音性能に匹敵する材料もあり、騒音対策に緊急を要する利用者側としては選択枝が増え、大いに喜ばしい状況にある。しかし、価格や品質の安定性についてはまだ検討の余地も残され、新めてグラスウールの有効性を実感させられるが、グラスウールにも耐候性や強度、体に触れると不快感を与えるなどの欠点が無いわけではない。今後さらなる改良が進められると共に、またそれを越える吸音材の開発も待ち望まれる。

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